勝手に
パチンコ屋で負けてしまい、仕方なく店から出ようかと席を立とうとしていたちょうどその時、そのスキンヘッドの男……マサは、組長からのラインに気付き、内容を見た。
「お……何だ? これ……」
のんびりとスマートフォンの画面を見ていたマサであったが、やがて、近くの台でで調子よく玉を出していたサングラスの男……ヤスの席まで行き、彼に声をかけた。
「おい、ヤス。組長から何かライン来たぞ。急ぎだってよ」
ヤスと呼ばれたその男は、パチンコから手を離そうともせず、ちらりとマサに目をやると、再びパチンコ台に顔を向けながら答えた。
「ちっ……何でぇ、今日は一日何もねえって言ってたのによ」
彼のこの態度はいつもの事なのであろう、マサはそんなヤスに怒る事もなく、話を続けた。
「ほら、昨日事務所で少し話が出てたろ? 多分あれだ。女を一人さらって来いってよ。大方、今日の襲撃が上手くいかなかったんだろうよ」
マサのその言葉に、ヤスも仕方なさげにパチンコをする手を止め、マサの方を見た。
「……何でえ、相手にでも逃げられたってか? しょうがねえな、おい……」
「そうかもな。で、人質でも取って呼び出そうって事なんじゃねえの? 分からんけどよ」
マサにそう言われ、ヤスは舌打ちをして、苛立たしそうに席を立ち、言った。
「くそったれ……せっかく今良いとこなのに……。しゃあねえ、行くか」
「ああ。ここの近くのアパートらしい。組長は急ぎらしいから、どやされる前にさっさとやっちまおうぜ」
二人は、そんな会話の後に店を出て、一人は車に、もう一人はスクーターに乗り込み、出発したのであった。
――
マサとヤスが、タケルの住むアパートに到着するのには、5分とはかからなかった。
アパートから少し離れた所で停車した車の横で、スクーターもまた停車し、開いた車の窓越しに、二人は話をした。
「なあヤス、ここだよな、組長が言ってたアパートって」
スクーターに乗っていたマサがそう尋ねると、ヤスもアパートの方を見ながら、うなずいた。
「ああ、ここは前に別の用で来たことがある。間違いねえ」
「よし……なら、やろうぜ。二人で女をさらって車に乗せて、その後は事務所まで連れて行く……。良いな?」
「あいよ……ったく、面倒くせえよな」
マサのその言葉で、ヤスも面倒くさそうに車から出ようとした、その時だった。
車の扉を開けようとしたヤスの手が、止まったのだ。
「……?!」
なぜか、急にヤスの体が動かなくなってしまった。
「おい、どうした、何で出て来ない……っ!?」
出てこないヤスを待ちきれなくなり、車の扉を代わりに開けようとしたマサもまた、自らの異変に気が付いた。
「な、なんだ……?! 体が……動かねえ……!」
二人とも、声は出せるものの、体は何故か動かせなくなってしまっていた。
と、車の中にいるヤスの右手が、車のドアウインドウを開いた。そして……何故かマサの首を掴んだのである。
「お、おいっ……! 何する……!」
「ち、ちがう! 俺じゃねえ! 体が勝手に!」
首を掴まれて苦しがるマサに対し、ヤスはどうすることも出来ず、右手は自らの意思に関わりなく、何故かマサの首を掴み、自分でも信じられない程の怪力で、首を絞めあげていく。動けないマサは、抵抗する事ができない。
「がっ……があっ……」
息をしようともがくマサであったが、それは正に無駄なあがきであった。
「マ、マサ! あ、おい!」
必死に腕を下ろそうとするヤスであったが、マサは段々と動かなくなり、やがて体が痙攣を始め、そしてとうとう動かなくなった。
がっくりと体の力が抜けてしまったマサを、ヤスの右手は片手一本で首を持ち、恐ろしい力で支えていた。
「うっ、うわああっ! マサあっ!」
叫ぶヤスの意思に反し、今度はヤスの左手が、自分自身の携帯電話に勝手に伸びていくと、組長の番号に勝手にかけ始めた。
「な、何だ! 何なんだあっ!」
何故か勝手に動く自分の体、そしてマサの死に、ヤスは何が何だか分からなくなってしまっていた。
月曜日からは、夜に投稿予定。




