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実際、死んでるしね

「な、なあタケル……これは、お前を止めるって訳じゃあ無いんだが……」


 横で見ていた義雄が、遠慮がちにではあるが、タケルに声を掛けてきた。


「椅子で打ったりしたら、大怪我とか……もしかすると死んだりするかも知れないぞ? もしそんな事があれば、流石に不味いんじゃ……?」


「死んだら……? ふふっ、問題ないよ」


 義雄の疑問に、タケルは笑って答える。


「彼等は、僕が死ぬかも知れないような事を、今までやってきてくれたからね……。神社において行かれた時もそう……。川に落とされた時だってあったんだから」


 そこまで言うと、タケルの顔からはふっと笑顔が消えた。


(で、まあ、実際に死んでる訳だしね……)


 笑顔が消えたのは一瞬の事で、タケルはまた笑顔に戻る。


「だから僕は、彼等が死んでも気にしない。実際死ぬ人も出るだろうしね」


「うっ……な、なんて事を……」


 そう言いながら、額から血を流して起き上がってきたリョウにも、タケルは言葉をかけた。


「傷は大したことないよね? ナツミさんの弱い力で叩かれてもそんなに痛くは無かった、そうでしょう? さあ、4時間目だ。席に戻るといいよ。明日も学校、休まないようにね?」


 そんなタケルに、義雄はまだ何かあるのか、心配そうに尋ねてきた。


「し、しかし……そんな事をして、もし警察が出てきたら……?」


「けいさつ……?」


 その言葉に対しても、なおタケルの表情には余裕があった。


「そんなの気にしないよ。元々僕は、警察も罰するつもりなんだから……出て来れば手間が省けるくらいだよ」


 タケルのその言葉には、義雄も驚いた。


「け、警察を……罰する?」


「そうだよ……。彼等は……いじめられて怪我をした僕の訴えを、ただ相手の謝罪程度で、不起訴なんかにしたからね。そんないい加減な警察は、罰せられるべきなんだよ、義雄君」


 義雄は、思わずタケルの横顔を改めて見た。


 そのタケルの表情は真剣で、今の言葉が本気である事を物語っていたのであった。


 そして、教室に再び生徒達が集まり、サキも、ヒロユキも戻って、4時間目の開始を告げるチャイムが鳴った。


 数学の教師が教室に入って来て、まるで何事も無かったかのように授業が始まった。


 ここに至り、生徒達は気が付いた。


 思えば、3時間目の時にも、少し違和感があった。その時にも、授業をしていた教師は、まるで何も起こっていないかのように振る舞っていた。


 右手を骨折し、苦しそうにうめいているケンジが居たにも拘らず……である。


 今、数学教師の前では、それに加え、頭から血を流し、傷口をハンカチで押さえながらも何とか席に座っている、リョウが見えている筈なのである。


 それなのに、数学の教師もまた、いつもと変わらぬ様子で授業を進めている。


(おかしい……。まるで、見えていないみたい……)


 その様子に違和感を感じて絵里は、3つ前に座っているタケルの方を見た。


 すると、絵里から視線が注がれている事に気付いたタケルは、意味深に笑うと、そっと小さくうなずいたのである。


(そう……。そうなのね……。これもまた、タケル……あんたの力のせいなのね……)


 タケルの底知れぬ力に、絵里は鳥肌の立つ思いがした。


 タケルの力の事については、誰にも話すことが出来ない。それは、もちろん教師にもである。


 誰も何も言う事が出来ず、ただ淡々と、怪我人を抱えながら不気味に授業は進み、そして……昼休みの時間を迎える事となった。

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