禁止にする
「……お前さぁ、どんなに強くても、一人じゃ結局何もできないんだぜ? 知ってたか?」
ヒロユキのその言葉に、タケルはその続きを聞きたそうにして、笑いながら耳を傾けている。
「うんうん、それで?」
タケルの余裕がどこから来るのか、それを全く理解できていない、ある意味偉大なる愚者であるヒロユキは、不愉快な表情を生傷の痛々しそうな顔に浮かべながら、タケルの煽りに言葉を返す。
「……お前がいくら強くたってなぁ、所詮一人の力だ。集団の力にはなぁ、結局は敵わねえよ。もう俺キレたからよ、兄貴召喚したわ。俺の兄貴は怖えぞぉ? 組に所属してるからよ、お前さ、多分死ぬぜ」
「ふうん……そうなんだ」
教室は、二人の会話に聞き耳を立てるかのように静まり返り、今後の展開を見守っている。
タケルの反応が期待していたものでなかったので、ヒロユキはタケルに苛立ちながら言い返した。
「おいてめえ、何が"ふうん"だ? お前バカか? お前これから自分がどうなんのか分かってんのか?」
(さて……もうこいつの性根は知れた……か。力を隠しておく必要も無いかな……)
タケルはそんな事を考えながら、ヒロユキの言葉に耳を傾けていたが、やがて、何かを決めたようにふっとヒロユキの目を見て、言った。
「うん、よく分かったよ。色々とね……」
そう言いながらタケルは立ち上がってヒロユキの前に立つと、いきなりヒロユキに回し蹴りを放った。
「はぁうッ!」
いきなりの事で、ヒロユキは反応も出来ず脇腹に蹴りをもろに受け、倒れ込んでしまった。
教室の所々からは、女子生徒の悲鳴なのであろう、「ひっ」という叫びや、「いやあっ」などの声があがる。
「えっ?! タ、タケル?」
近くで二人の様子を見ていた絵里にとっても、タケルのこのいきなりの攻撃は意外だった様で、驚きの声が彼女からもあがった。
そんな中、倒れて動けないヒロユキを見下ろしながら、タケルは静かに微笑みつつ話しかけた。
「あとさ……ヒロユキ君、前から思ってたけど、言葉づかいが悪いよね。もうさ、てめえとか、バカとか言っちゃだめだと思うから、禁止にするね?」
「うっ……な、何を言ってん……ぐっ!」
懸命に起き上がりながら、何かを言おうとしていたヒロユキであったが、そんな彼の腹に、タケルは再び蹴りを入れた。
「ふふっ……あのさぁ、僕がいつまでも優しいと思った? 今の蹴りはね、君がすぐ返事しないから、罰の意味を込めて蹴ったんだよ。僕が命令したらすぐ返事。分かった?」
「うっ……て、てめえ……うぶっ!」
そう言った後、何かを言おうとしていたヒロユキであったが、今度はタケルから顔面に蹴りを入れられ、仰向けに倒れ込んだ。
「やれやれ……今までのしつけがなっていないよね、ヒロユキ君は……家族にもひと言、言っておかないと……ふふっ」
そう言いながら、タケルは倒れているヒロユキの頭を踏みつけにして、改めて聞いた。
「で? 返事は?」
這いつくばって頭を踏まれながらも、ヒロユキはタケルを見返して、声を絞り出した。
「う、ううっ……あ、後で、覚えてろ……」
その声を聞いたタケルは、何故か満足そうな笑みを浮かべ、踏みつけていた足を話した。
「ふふっ…… ほんと、ヒロユキ君は聞き分けが悪いね……。まあいいや。もう時間だしね。続きはまた今度にしよう」
そう言ってタケルがまた席に着くと、ヒロユキは何とか立ち上がった。
「ううっ、痛え……」
そうつぶやくと、ヒロユキはタケルを睨み、鼻血の出ている鼻を押さえつつ、片足を庇いながら自分の席へと戻って行った。
何とか席に着いたヒロユキの周りには、心配そうに取り巻きが集まって来た。
「お、おいヒロユキ……大丈夫か?」
そんなことを言って不安げな顔をしている周りの取り巻き達に、ヒロユキはタケルの方を見ながら答えた。
「ああ、まあ見てろ……あいつがいい気になっていられるのも、今日限りだ……あの野郎、後で覚えとけよ……」
新学期三日目の朝は、このようにして始まったのである。
タケルは、だんだん容赦なくなります




