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最北領の怪物II_009_またとない機会

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。


 メリークリスマス。皆さん、クリスマスイブを楽しんでいますか?

 ははは。作者は昨日発売した『皇子に転生して魔法研究者してたらみんながリスペクトしてくるんだが?』の売れ行きが気になって眠れません((+_+))


 ■■■■■■■■■■

 009_またとない機会だ

 ■■■■■■■■■■



 まさか好きにしろと言われるとは思っていなかったソラは拍子抜けした。ストレバス大佐の言葉の真意を探ったが、彼の目を見れば分かる。死ぬ気でいるのだと。


(死ぬ気になったから、好きにやれか。好きにやらせてくれると言うんだ。この人たちを死なせはしない)


 フォルステイ家の野営場所に戻ると、すぐに皆を集めた。

「好きにやっていいのですな!?」

「エルバートは少し自重をしろ。ザルガンの苦労も考えてやれ」

「ははは。自重という言葉は聞いたことがありませんぞ。ソラ様」

 ダメだこいつ。と言いたげにソラとザルガンたちが騎士エルバートを見つめた。


「まず最初にデカいのをかましてやる。その後ストレバス大佐率いる全防衛部隊が敵の総大将を狙う。俺たちはその支援だ。敵の援軍を近づけないように立ち回る。いいな、俺たちは支援だからな」

 最後の言葉は騎士エルバートのみに言ったものだ。


「ソラ様だけズルいですぞ。某もジャバル王国の雑兵どもを薙ぎ倒してやりたいです」

 騎士エルバートが愛用の戦斧を見つめる目が恍惚としている。


「俺たちだけで終わらせたら、色々と面倒なんだよ」

「侯爵閣下のお孫様が何を仰いますか。堂々と自分の武威を誇ってください」

 先程まで恍惚としていた眼は、鋭い光を放ってソラを見ていた。


「立身出世は早すぎると、毒になるんだ。上を目指すにしても、ある程度周囲の人を巻き込みながらするのがいいんだよ」

(それで少しは俺への風当たりが弱まってくれればいいんだがな)


「そんなものですかね?」

「言っておくが、周囲の人にはお前も入っているからな、エルバート」

「某が? ご冗談を」

(俺が出世すれば、その補佐をしているお前が出世するのは当然だろ。まったくこいつは……)


「とにかくだ。今回は指揮官殿に花を持たせる。いいな」

「ソラ様がそこまで仰るのであれば、このエルバート、これ以上何も言いません」

 控えていたザルガンは「絶対に分かってない」と頭を抱えている。そのザルガンの肩に手を置いて、「お前がエルバートの手綱を握るんだぞ」と目でプレッシャーを与えるソラ。ザルガンの胃がキリキリと痛んだ。





 地響きが聞こえてくる。櫓の木材を通じて足の裏にその震動が伝わってくる。ジャバル王国軍が迫っているのがよく分かるものだ。

 乾いた大地の先に土煙が立ち上るのが見える。あの下にはこれから戦うジャバル王国の兵士たちがいる。それも10倍以上の戦力だ。身震いがする。


 ジャバル王国軍は防衛陣地を包囲するように展開した。予想通りの動きだ。

(一思いに踏みつぶせばいいものを、わざわざ包囲する。その余裕が命取りだということを理解した時には、遅いというのに……)


 正面、はるか先にある森を見る方向。進軍してきたジャバル王国軍が、分裂するように防衛陣地を囲んでいく。まるでアリの大群のようだと、ソラは苦笑した。


「正面はおよそ8000。左右と後方にそれぞれ4000。壮観な光景ですな。ははは」

 櫓の上でジャバル王国軍を見つめるソラの横で、騎士エルバートは大笑いした。


 別の櫓の上でジャバル王国軍を見つめる首脳陣たちの顔は、蒼白だ。それが見えるだけに、ソラは騎士エルバートの豪胆さが頼もしく感じる。が、空気を読まないから周囲の視線が痛い。


「お、敵が口上を述べるようですぞ」

 正面から3騎が進み出て来る。1人はソラの青真鋼鎧のような堅実さはないが、かなり豪華な白銀色の鎧の人物だ。それなりの身分だと分かる。


「クオード王国の者どもよ、聞くがよいっ。私はジャバル王国第3王子、サルバーナだ!」

 白銀色の鎧の人物が、ジャバル王国第3王子サルバーナと名乗った。まさか王子が出てくるとは思ってもいなかったソラは驚く。

 これまでジャバル王国の王子が戦場に出てくることはなかった。学校ではそういったものを学ぶ機会もあったのだ。


「1時間やる。降伏しろ。さもなくば皆殺しだ」

 勝った気で居るサルバーナは、交渉の余地などないのが分かる命令口調だった。


「ははは。随分と威勢の良いガキが出てきましたな」

 エルバートの大声がサルバーナの耳に届いた。本人は決して大声を出しているものではない。これが地声なのだ。


「降伏する気などないということかっ。いいだろう、皆殺しにしてやるっ」

 それを言うと馬を操り軍へ戻っていった。


「あの王子、沸点が低いですな」

「お前のせいだろ……」

 騎士エルバートの言葉に、ソラは頭を抱えてしまう。

 そもそもこういった返事は指揮官か指揮官に命じられた者がするものだ。それを勝手に返事をしてしまったことになるのだから、眩暈までしてきた。


「まあいい。どの道、あの王子の降伏勧告を受け入れる気なんてなかったんだから」

 ソラは立ち直りが早かった。


 王子が戻ったのを確認したジャバル王国軍は、進軍を開始した。

「本当に猶予ないのな」

「ははは。せっかちな王子ですなぁ」

「お前が言うなよ」


 ソラは予定通り、最大の有効範囲を誇る魔法を準備した。

 摩訶不思議な文字が並ぶ魔法陣が現れ、練り上げた魔力が収束していく。膨大な魔力が膨れ上がっては収束を繰り返していき、魔法陣によってそのあふれだしそうな魔力を制御する。あまりにも膨大な魔力に、空気が共鳴して振動が起こり小石が巻き上っていく光景は、周囲に居る味方兵士たちを奮い立たせる幻想的な光景だった。


 師匠の賢者バージスに教えを受けたソラだが、この魔法は自分で編み出したものだ。幼い頃から魔法を嫌というほど教え込まれた。それだけではない。科学と言われる知識も叩き込まれた。


 バージスは言った。「魔法は科学だ」と。科学を修めた者は、魔法をより有効に使えるのだと。魔法の根底には、科学があるのだと。

 その言葉は大師匠の賢者ダグルドールの受け売りだと言っていたが、その話をする時のバージスはとても懐かしそうに目を細めるのが印象的だった。バージスもまたその師匠であるダグルドールとの思い出があるのだと、おかしく思ったものだ。


 魔法陣によって制御された魔力が解放される時がやってきた。

「行け、ソニックウェーブ」

 地面をめくりあげて進む音の暴力が扇状に広がっていき、ジャバル王国軍兵士を吹き飛ばしていく。数百数千という人間がああも簡単に宙を舞う光景は、滅多に見られるものではない。


 圧倒的な魔力をエネルギー源としたソニックウェーブは、衰えることなく正面の敵のほとんどを薙ぎ払った。


「なんですか、それはっ!?」

「聞くな」

 騎士エルバートが理解できるまで説明していては、日が暮れるどころの話ではない。ソラは科学を騎士エルバートに教える自信はない。おそらく理解しないだろうとも思っている。人には向き不向きがあるのだ。


「それよりも指揮官殿に打って出ろと伝えてくれ」

「承知!」

「言っておくが、お前まで突っ込むなよ」

「……善処しましょう」

(絶対突っ込もうとしていただろ)





「あ、あの根源力は……いったいどんな根源力なのだ?」

 ソニックウェーブを見たストレバス大佐は、目が落ちそうなほど驚いていた。魔法の存在を知らないから根源力だと思っているが、あのような根源力は見たことも聞いたこともなかった。多くの戦を経験したストレバス大佐でさえ、ソニックウェーブのようなものは見たことがないのだ。


「指揮官殿。呆けている暇はございませんぞ。今こそ打って出る好機にございます」

 サダム中尉に指摘されて我に返ったストレバス大佐は、全軍に突撃の命令を発した。


「急げ、突撃だっ。突撃だっ。急げーっ」

 ストレバス大佐が叫びながら櫓を下りていく。その後に続くサダム中尉もけっして冷静ではなかった。先の騎馬隊を殲滅に至らしめた魔法を見る機会があったから、比較的混乱が少なかっただけなのだ。


 ストレバス大佐が軍馬に乗り、先陣を切る。

「指揮官殿!?」

 指揮官が先頭になって突撃など前代未聞。サダム中尉は慌てて馬に飛び乗り、ストレバス大佐を追いかける。


 ストレバス大佐が冷静さを失うほどに、ソラの魔法が凄かった。高揚した気持ちのままストレバス大佐は駆けた。そしてその視界にわずかに生き残った敵の兵士を捉えるのだった。


「てやぁぁぁっ」

 ストレバス大佐はのちに語ることになる。あんなことは二度とできない。やろうとも思わないが、そもそもできないだろうと。

 だが、あれがあったから今がある。またとない機会だったと語った。


 

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


また、『ブックマーク』と『いいね』をよろしくです。


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