049_鉄金児
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049_鉄金児
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島型のラビリンスは、孤島の迷宮と名づけることにした。
5日間の探索の結果は、次の通りだった。
上陸できるのは島の南側にある砂浜だけ。
砂浜から西側へと進むと薬草が多く自生しているエリアになる。
逆に東側は鉄鉱石が豊富に採掘できる岩山エリアになっており、多少だが真鉱石も採掘できる。採掘できる真鉱石は廃屋の迷宮で採掘できる赤だけではなく、赤、黄、緑、青、金と満遍なく採掘できた。
中央は今のところ目立った資源を発見できていない。
また、自生している木々の中に、ゴムの木もあった。ただし、採取できる量が限られているため、大量のタイヤを作るのは無理そうだ。
セルバヌイについても情報を集めた。
西側には2種類のヘビ型セルバヌイが現れる。共に防御力は高いが、氷系の攻撃に弱い。氷使いさえ居れば、倒すのは簡単だ。
東側は鉄巨人や真鋼巨人が現れる。こちらはヘビ型のセルバヌイよりも防御力が高く、かなり危険だ。鉄巨人は『高速回転四散弾』と『流体爆発弾』のごり押しで倒すことができたが、真鋼巨人はそうはいかない。さすがは真鋼の巨人というべき防御力を持っている。ただし、ロドニーが持つ『爆砕消滅弾』だと倒せる。『爆砕消滅弾』の破壊力はラビリンスの壁を壊すほどなので真鋼でも破壊できたのだろう。
中央は大きなクモが現れ、黒地に赤の毒々しい斑模様をしていた。また、ワニに似たセルバヌイも出てきた。大クモとワニも氷系の攻撃で動きが悪くなるため、ヘビ同様に『氷球』は必須だ。
「真鋼巨人には困りましたな」
「あいつは俺くらいしか傷をつけられないからな」
赤真鋼の武器を装備してるロドメルたちだが、赤真鋼は真鋼の中で最も下のグレードだ。真鋼巨人は赤が一番多いが、それでも半分ほど。残りの半分は赤よりも硬い真鋼の巨人だった。
最上位の金真鋼を上回る硬度を持つ白真鋼の武器であるロドニーの白真鋼剣だけが、真鋼巨人に傷をつけることができた。
東側の岩山は鉱物が豊富なので採掘したいが、傷つけることができないセルバヌイが多いので当面は近づかないようにした。
孤島の迷宮から戻ったロドニーは情報をまとめるのをロドメルに頼んだ。ロドメルはそういった仕事が苦手だ。2人の息子も孤島の迷宮に上陸していたので息子たちに書類作成を任せようとしたのだが、息子たちもロドメルの血を色濃く受け継いでいて無理であった。そこでロクスウェルに手伝わせることにした。
「ロドメル殿。もう少し書類仕事を覚えてくださいよ」
「某はもう年だ。そういうのは、若い者に任せる」
「これまでもずっとそう言ってましたよね」
「ははは。いいではないか。年なのは間違いないのだから」
戦仕事であればいくらでも歓迎するが、書類仕事はからっきしのロドメルはロクスウェルに書類仕事を押しつけることに成功した。
領主屋敷では、入手した生命光石をロドニーが経口摂取するところだ。
セルバヌイについて調べたが、どのセルバヌイも書物にはなかった。種族名が不明では不便なので、勝手に名前をつけることにした。
エメラルドグリーンの大ヘビはグリーンスネーク。黒い大ヘビはブラックバイパー。鉄巨人や真鋼系の巨人はそのままの名前。巨大クモはビッグタランチュラ。巨大ワニはビッグアリゲーターにした。
巨人系はそのままだし、他は色と大きさ由来の簡単な種族名だ。ロドニーも自分のセンスのなさに呆れてしまう。
ルルミルの例に倣うと、真鋼巨人の生命光石から得られる根源力は、色は違ってもどれかから1つだけだと思われる。ただし、経口摂取できるロドニーは別のはずだ。
また、これだけ真鋼巨人の生命光石を得る機会があるので、それぞれを『召喚』できるチャンスだ。ロドニーが欲しかった岩巨人よりもはるかに高い防御力を誇る真鋼巨人を使役できるのは、非常に嬉しいことだ。
岩巨人もそうだが、真鋼巨人は食事が不要。『召喚』した後の維持費がかからないのがいい。
各生命光石を経口摂取した。取得した根源力は次のようになる。
・グリーンスネーク ⇒ 『熱感知』『命の雫』
・ブラックバイパー ⇒ 『毒操作』
・鉄巨人 ⇒ 『不動』
・赤真鋼巨人 ⇒ 『火炎耐性』
・黄真鋼巨人 ⇒ 『鉄金耐性』
・緑真鋼巨人 ⇒ 『風雷耐性』
・青真鋼巨人 ⇒ 『氷水耐性』
・金真鋼巨人 ⇒ 『鉄金児』
・ビッグタランチュラ ⇒ 『感覚共有』
・ビッグアリゲーター ⇒ 『気配遮断』
取得した根源力の効果は素晴らしいものだった。
『熱感知』は中級根源力で、熱を感知できるというもの。
『命の雫』は一滴飲めば軽傷が治り、二滴飲めば重傷が治り、三滴飲めば一年は病にかからない。ただし、一日に一滴しか生成できない。
『毒操作』はあらゆる毒を作り出せるだけでなく、毒に侵されない体質になる。
『不動』はその場から動かなければ、一切のダメージを受けることはない。
『火炎耐性』は火炎によるダメージと状態異常を軽減する。
『鉄金耐性』は金属によるダメージと状態異常を軽減する。
『風雷耐性』は風雷によるダメージと状態異常を軽減する。
『氷水耐性』は氷水によるダメージと状態異常を軽減する。
『鉄金児』は鉱物から鉄金児を創り出し、使役できる。
『感覚共有』は相手の同意を得ることで、視覚・聴覚・嗅覚を共有できるというもの。離れた場所に居ても、これがあればその場所の情報が得られるというものだ。
『気配遮断』は根源力所有者の気配(臭い・音・気配)を遮断する。
新たに得た根源力の中でも『命の雫』は、特別素晴らしいものだった。これさえあれば、病にかかっても治せる。
『快癒』があるロドニーは、病にも毒にもかからないし、怪我をしてもすぐに傷が塞がってくれる。『命の雫』は意味がないと思われるかもしれないが、それはロドニーに限ればのこと。
もし、ロドニーが居ないところでユーリンやエミリアなど、ロドニーの大切な人たちが傷ついたり病にかかったり毒に侵された時、『命の雫』さえあれば治すことができる。これは極めて大きな意味を持つ。
『不動』はその場から動かないという制限はあるが、動かなければ全てのダメージを無効にしてくれる。これは『爆砕消滅弾』のような放出系根源力が豊富なロドニーにとって、非常に役に立つ根源力だ。
絶対不沈の固定砲台と化して、『爆砕消滅弾』を撃ちまくる。敵からすれば、悪夢でしかないだろう。
『鉄金児』も素晴らしいものだ。真鋼巨人が『召喚』できると喜んでいたが、『鉄金児』は素材になる鉱物さえあれば、鉄金児を創り出せる。嬉しい誤算だと、ロドニーは苦笑する。
他に得た耐性系の根源力も、かなり嬉しい。さすがは上級セルバヌイから得られた根源力だと、顔中の筋肉が緩んだ。
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従士全員が招集されて、孤島の迷宮の探索結果について話し合いが行われた。
ロドメル(本当はロクスウェル)が作成した資料に、皆が目を通す。
「まず、東側の各種真鋼巨人は危険だな。今は俺くらいしか、ダメージをまともに与えられない」
『爆砕消滅弾』を皆に与えられればいいが、滅多に発見できない白ルルミルの生命光石が必要になるので、現実的ではない。
「そうすると東側はロドニー様に出張っていただいた時のみ探索し、通常は中央から西側を探索する感じになりましょうか?」
今回の探索に参加していないエンデバーが確認した。エンデバーも参加したかったが、ロドニーと従士全員が孤島の迷宮に入っては、領内で何かあった時に対処ができないことからエンデバーが残ることになったのだ。
「そうだな。中央にも何かあると思うんだが、その探索をするのにも『氷球』を得ておいたほうがいいだろう。ロドメルたちはどう思う?」
「某も『氷球』は必要だと考えております」
皆もロドニーの意見に賛成し、『氷球』を入手することになった。
廃屋の迷宮の6層にベースキャンプを設営し、そこを拠点に7層の寒冷地エリアを攻略しようというのだ。
ベースキャンプに物資を運搬する部隊、ベースキャンプを護る部隊、7層を攻略する部隊、そして地上で休息する部隊の4部隊を編成し、ローテーションする。
「同時に青や金の真鋼の武器や防具を用意しよう。まずは従士のもの。その後に領兵のものを」
「金の真鋼はほんのわずかしかありませんので、ロドニー様の装備を最優先に造っていただきたい。これは従士全員の総意とお考えください」
ロドメルが最上位の金真鋼で、ロドニーの装備を造れと言う。それに他の従士も同意する。
「俺は今のでいいんだが」
「ロドニー様。それはいけません。ロドニー様よりも我らが良い真鋼装備を身に着けていたら、他の貴族たちにあなどられます」
「ホルトス殿の言う通りです。ロドニー様用の金真鋼の鎧を造った後、我らも心置きなく鎧を造れるというものです」
ロドメル、ホルトスの古参従士がロドニー装備のほうが重要だと主張すると、全員がそれに賛同した。
廃屋の迷宮ならセルバヌイの強さはそれほどでもなかったが、孤島の迷宮は明らかに強力なセルバヌイが闊歩している。いくらロドニーが強くても、油断はできないセルバヌイばかりだ。
「分かった。俺の装備を造ろう」
ロドニー、ユーリン、エミリアの装備を造ってから従士たちの装備を造り、その後に領兵たちの装備を造ることになった。
「あとは、ロドメルたち4名の従士を騎士に昇格させる」
この場合の騎士は、貴族であるフォルバス騎士爵が任命する騎士なので、貴族ではない。騎士爵と従士の間、従士よりは格が上で家名を継承することができるというのが、騎士である。
「我らとしては名誉なことであり嬉しいことにございますが、よろしいのですか?」
騎士は従士と違ってそれぞれに家臣が必要になる。一度に4名も騎士にすると騎士の従士が最低でも1名は必要になるし、私兵も最低4名が必要になる。
これまでフォルバス家に騎士がいなかったのは、そんなに多くの兵士を養えなかったのが原因だ。兵士を養えるのであれば、騎士が居てもなんら問題ないし、騎士が多くいたほうが同じ騎士爵家同士の格のようなものが上になる。
今回、4名を騎士に昇格させることでフォルバス家の従士が居なくなるので、誰かを従士にして数を確保しなければならない。
「まず、現時点で当家の財政を支えてくれているスドベインとドメアス、それからキリスの3名を従士にする。3名は文官としてこれまで同様の仕事をしてもらう」
「当然の判断ですな」
ロドメルが頷き、スドベインの兄であるロクスウェルとドメアスの父親であるホルトスが頭を下げる。
「それからロドメルの次男と、エンデバーの弟を従士に引き上げる。この2名は武官として働いてもらう」
ロドメルとエンデバーが頭を下げる。これで各騎士家から分家を立てることができた。
ユーリンの出身家は近親者が居ないので、バージス次第のところがある。バージスのことを抜きにしても、ユーリンとの間に2人以上子供ができれば、従士か騎士にすることになるだろう。
「あとは領兵から取り立てようと思う」
「もしロドニー様さえよろしければ、他の貴族家から、できればバニュウサス伯爵家と他に1家、そこから従士を取り立てることをお考えください」
「ふむ、そうだな。ホルトスの言うように、バニュウサス伯爵らに頼んでみよう」
貴族家やその家臣には、家を継げない次男、三男が居る。そういった者を従士として取り立てることができれば、その貴族家と友好的な関係が築ける。
また、良好な関係を築いているバニュウサス伯爵家の縁者の中から1名でも従士にできれば、さらに良い関係になれることだろう。
各騎士家は従士1名を領兵から昇格させ、他に私兵5名を新規で徴兵することになった。
また、教官をしているケルドを従士に誘ったが、ケルドは今更従士になる気はないと断った。だが、体が動く間はこのまま教官として働いてくれることになった。意外と教官が板についているケルドだった。
新兵は領兵だろうと、私兵だろうとケルドが訓練する。今回のことでフォルバス家の総兵力は80名を超えた。
ロドメルをはじめとした騎士たちが、領兵を率いて廃屋の迷宮へ入っていく。ユーリンとエミリアが率いる領兵たちも入っていく。それを見送るロドニーは、砂浜でクリスタルのような球を握りしめる。
このクリスタルは鉄金児のコアで、生命光石を加工して作る。『鉄金児』という根源力の効果には、鉄金児を操るだけではなく生命光石からコアに加工することも含まれる。
コアを砂浜の上に置き、『鉄金児』を発動する。
砂が盛り上がっていき、人の姿を模す。大きさはロドニーよりも小さい。コアの元になる生命光石が、廃屋の迷宮の1層に出てくるゴドリスのものだからこれが限度だ。逆に小さくすることはできる。
鉄金児はこのコアが壊れず、コアのエネルギーが切れない限りは腕を切り落とされても再生する。
「これが鉄金児か」
ヘカトンケイルや鉄巨人、真鋼巨人を見てきたロドニーからすると、まったく迫力がない。
鉄金児の力を確認するため、収納袋からいくつかの石を出す。およそ10ロデム(20キロ)、20ロデム、30ロデムの石だ。
鉄金児は10ロデムの重さは軽々持ち上げた。20ロデムも持ち上げた。30ロデムは持ち上げたが、かなり厳しいようだ。
「ロドメルには敵わないが、そこそこの力があるな」
ロドメルのような筋肉自慢だと、50ロデムくらいの石を持ち上げる。そこに根源力が加わると、かなりの重量を持ち上げることができる。
コアはゴドリスの生命光石から作れる。どれだけの鉄金児を創れるか試すことにした。
砂浜にコアをばらまいて、鉄金児を創れるだけ創った。30体。そこでこれ以上は無理だと感じた。
その30体の鉄金児を軍隊のように動かした。単純な命令は理解してくれるが、細かいことはできない。
1体と『感覚共有』を試してみる。視界は低いが、ちゃんと鉄金児と感覚を共有できた。
『感覚共有』した鉄金児に指示を出させてみる。他の鉄金児は、それの指示に従って動いた。
「これはいいな。これなら遠くに居ても鉄金児部隊を指揮できるぞ」
砂の鉄金児を解除し、石の鉄金児を創った。数はやや減り25体。また、鉄で創った鉄金児は20体だった。真鋼だともっと少なくなるだろう。だが、創れる数が減ると、1体の力は上がった。
試しに廃屋の迷宮の1層に入ったが、鉄の鉄金児の戦闘力は圧倒的だった。戦闘の指示を出せば、勝手にセルバヌイを倒してくれる。
(数は少ないが、戦力になるぞ)
その後、人型以外の形も試してみると、『造形加工』が効果を発揮して色々な形になった。
(あれ……これは自動車にもなるんじゃ?)
鉄とゴムを素材にし、自動車型の鉄金児を創ってみたら、できてしまった。
あれほど苦労したのは、なんだったのかと脱力したロドニーだったが、それ以上に鉄金児の可能性はかなりあると考えを巡らす。
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