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021_帰途の途中で

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 021_帰途の途中で

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「ロドニィィィィィィィィィッ!」

「なんだよ、爺さん」

「この酒はなんだ!?」

「ビールだけど?」

「美味いぞ! シュワシュワがいい!」

「まだ試作段階だから、いずれもっと美味しいビールができると思うぞ」

「できたら、すぐに知らせるのだ!」

「マリーデと違って熟成期間が短いから、冬の間に試作品がいくつか完成するぞ」

「なんだと!? 当然、送って寄越すのだろうな」

「顔が近いぞ、爺さん。それと冬の間は無理だ。デデル領(ウチ)は雪深いからな」

「マナスは通っているだろ!」

「いや、マナスは雪用の荷車を持っているだろ。しかも、雪なんかものともしないセルバヌイを使役しているだろ」

「あれはワシの店のだ。そうだ! お前に荷車をやる! だから、ビールを寄越せ!」

「いや、普通にマナスが来た時に持って帰らせればいいだろ」

「それもそうか! よし、マナスに命じておくのだ!」


 なんとも騒々しい祖父であった。

 その祖父だが、ロドニーに絡んだ後はエミリアに絡みに行った。即行で蹴り飛ばされて、倒れたところをシーマに踏まれていたが、とても幸せそうな顔をしていた。


 4泊5日したロドニーたちは、ハックルホフの屋敷を出立した。北上するとマリーデの産地であるケルペに差しかかって、そこでマリーデを3樽購入した。

 ロドニーが飲むためではなく、母シャルメが飲む分と優秀な部下に与える分だ。バニュウサス伯爵の前でビールを一気飲みしたロドニーだが、マリーデはそこまで好きではない。ビールは炭酸のシュワシュワ感が好きで飲んでいるが、マリーデはただアルコール度が高いだけの酒だと思っている。だから、マリーデはつき合いで飲む程度で構わないと思っている。


(本当にビールを造って良かった……今後は祝いの席でもビールが出るように仕向けていこう)


 ケルペを出てすぐのところで、それは起こった。

 街道を進んでいると、北から慌てた人々が駆けてくるのが見えた。それは人の波になって押し寄せてきたので、下手なことをせずに道の端に馬車を寄せて止まった。


「確認してきます」


 人々の尋常ではない慌てように、何ごとかとユーリンが馬を走らせて確認に向かった。ユーリンが戻ってくると、なんとセルバヌイが暴れていると言うではないか。


「なんで地上にセルバヌイが?」

「多分だが、『召喚』したはいいが、使役できなかったんだろう」


 エミリアの質問にロドニーが答えた。下級のセルバヌイなら『召喚』の根源力の力で使役できるが、中級よりも上位の場合はその限りではない。中級以上のセルバヌイを『召喚』した使役者の力が不足していると、セルバヌイをコントロールできないのだ。そうなると、セルバヌイは本能のまま暴れまわることになる。


「あの先はメニサス男爵のデルド領だったな」

「はい、セルバヌイはデルド領からやってきたようです」

「メニサス男爵は戦場に赴いていると聞くが、誰が『召喚』したんだ?」


 生命光石は中級、上級となるほど購入金額が高額になる。中級の生命光石は最低でも小金貨4枚はするし、上級になれば大金貨10枚以上が必要になる。だから、『召喚』できる者は金持ちに限定される。


 ケルペの領兵が横を駆け抜けて行く。かなり大騒ぎになってきた。

 人の波が落ち着いた頃にロドニーたちも近づいていく。領兵が宙を舞って飛んでいくのが見えた。


「おいおい、あれはダメだろ」

「うわー、領兵がゴミのようだね」

「エミリア。領兵に失礼だぞ」


 領兵と戦っていたセルバヌイは、巨大な鎧騎士だった。ロドニーは記憶を辿ってそれが騎士王鬼という珍しいセルバヌイだと考えた。

 廃屋の迷宮の4層に現れる首無騎士と違い、首がある騎士だ。騎士王鬼は体長2ロム(4メートル)もある巨体で、頭部には立派な角があることから『鬼』の名がついている。


「あれは上級のセルバヌイだ。強いぞ」


 騎士王鬼を『召喚』して従えるには、使役者を含む数人で上級のセルバヌイを倒せる程度の力が必要になる。それほどの強者が居ればいいが、そうじゃないと領兵は全滅するだろう。


「囲んで『火球』を放て!」


 領兵の隊長が指示を与えるが、『火球』程度の攻撃では蚊が刺した程度のものだろうとロドニーは考えて、ユーリンに戦闘態勢を指示した。


「お兄ちゃん、私も」

「エミリアはドレスだから、今日は見学だ」

「えー」


 エミリアはシーマの行きつけの店で数着のドレスを作った。今日はそのドレスの1着を着ていて、とても戦闘ができる恰好ではない。そのドレスを見ながら、以前シーマと共に行った店で作った服を着ていないことを思い出した。その服はハックルホフの屋敷で、大事にしまわれているのだ。


(無駄な服を作ってしまったな。バニュウサス伯爵からパーティーの招待状をもらっても、忙しくて出席していない。もっとも、そうやって理由をつけて欠席していたが、そろそろ出席しないといけないな。次の時は参加しようかな)


 寄親のバニュウサス伯爵のパーティーくらいは出席するべきだろうと思ったロドニーは、借金返済の目途も立ったので今後は貴族らしいことを少しずつ始めようと決めた。あくまでも少しだが。


 領兵たちに馬車の護りを任せ、ロドニーはユーリンと2人で戦場に向かった。


「助太刀する」

「助かります」


 20名ほどだった領兵の半数は騎士王鬼によって倒されていた。


「はぁぁぁぁぁぁっ!」


 ユーリンが大剣を構えて騎士王鬼に切りかかると、騎士王鬼はその大剣を盾で止めた。反撃の巨剣を出してきた騎士王鬼だったが、ユーリンは一歩下がって騎士王鬼の巨剣を受け止めた。地面が陥没する程の衝撃が、ユーリンの大剣に圧しかかった。


「ユーリン!」


 ロドニーの声に反応し、騎士王鬼の巨剣を弾いたユーリンが飛び退いた。ロドニーが射出した『高熱炎弾』が命中するが、騎士王鬼はその盾で防ぐ。

『高熱炎弾』の威力は凄まじく、轟音と共に爆炎が立ち上り騎士王鬼はその盾ごと左腕を消失してしまった。


「な、なんという威力……だ」


 領兵の隊長が絶句する声が聞こえたのと同時に、騎士王鬼の左腕が消失したのを見たユーリンが切りかかった。


「せいっ!」


 騎士王鬼も巨剣でユーリンを迎え撃とうとしたが、その巨剣を掻い潜ったユーリンの大剣が騎士王鬼の右足を切った。

 そうなるともう騎士王鬼にいいところはなく、ユーリンによって切り刻まれ、最後には首を落とされて動かなくなった。


「ご助力、感謝いたします」


 隊長が謝意を表し、ケルペから増援がやってきた。

 そこでロドニーがデデル領を治めるフォルバス騎士爵だと知って、隊長はロドニーたちをケルペの行政府に招待して歓待した。

 今回の話はすぐにバッサムのバニュウサス伯爵にも報告され、同時に騎士王鬼がどこからやって来たのか調査が行われた。

 翌日にはバニュウサス伯爵の使者がケルペにやってきて、ロドニーに感謝の意を伝えた。


「あの騎士王鬼はメニサス男爵屋敷を一部破壊しておりますので、『召喚』した者はメニサス男爵の関係者と思われます」


 なんとも難しい話になってきたなと、ロドニーは感じた。

 メニサス男爵の関係者があの騎士王鬼の『召喚』に失敗したことで、バニュウサス伯爵の領兵が2人死亡している。他に6人が重傷で5人が軽傷を負った。

 メニサス男爵家から騎士王鬼が暴れていて、バニュウサス伯爵のザバルジェーン領へ侵入する可能性があると、事前に連絡があったのであれば事はそこまで大事にならなかっただろうが、数日経っても連絡どころか謝罪の使者もなかった。

 これはメニサス男爵家とバニュウサス伯爵家の問題なので、ロドニーは首を突っ込めない。だから長居をせずに帰ることにした。

 帰りはメニサス男爵のデルト領は通らず、遠回りになるがリリス領からセッパ領、アプラン領を通ってデデル領に戻った。


 今回の事は北部貴族の間に瞬く間に広がった。

 メニサス男爵は戦地でそのことを聞いた。しかも、身内からではなく、他の領主から聞いたのだ。面目丸潰れになって激怒したメニサス男爵は、すぐに自領を預かっている嫡子に原因を究明しろと命じた。


 騎士王鬼の『召喚』は、メニサス男爵の嫡子が行なったことだった。彼は事の隠蔽を指示して、気にしなかった。隠蔽など簡単にできると、高を括っていたのだ。

 そこに父のメニサス男爵から原因究明の指示が来たことに焦り、誰かを犯人に仕立てろと指示を出した。これがメニサス男爵家とバニュウサス伯爵家の間に決定的な溝を作るとも知らずに。


 

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[気になる点] 「助太刀する」 日本では無いのでココは「加勢する」でしょう 太刀、刀は海外ではkatanaと固有名詞が有り助太刀は翻訳出来ません 類似する意味での翻訳になります 世界観がごっちゃになっ…
[一言] 伯爵側はすでに調査を終えどう謝罪してくるかを待ってる感じですね… 男爵には盗賊も差し向けられてますし この親にしてこの子ありって感じです
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