014_ロドニーの武器
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014_ロドニーの武器
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バニュウサス伯爵の居城である大鷲城を訪問し、ガリムシロップを贈った。このザバルジェーン領でもガリムシロップは評判になっていて、バニュウサス伯爵は大変喜んでくれた。
大鷲城を辞した後、その足でバッサムでも一番と言われる凄腕の鍛冶師を訪ねた。バッサム一と言われるだけあって、多くの弟子がその鍛冶師の工房で修業をしていた。
「ロドニー=エリアス=フォルバスと言う。デデル領の領主をしている」
「ドレッドだ。それで、貴族が俺になんの用だ?」
かなりぶっきらぼうな口調だが、それは職人気質の表れだとロドニーは思った。しかし、貴族のロドニーに対して不遜な物言いをするドレッドに、ケルドの視線が厳しいものになった。
そのドレッドは忙しいのに、貴族などが遊びに来やがってと思っている。バッサム一と言われるだけあって、貴族が珍しいものを造れとか言ってくる。仕事場を見せろと言ってくる。うんざりしているのだ。
「ドレッドに真鉱石で武器を造ってもらいたいんだ」
「ほう、真鉱石か。何を持ってきた? 赤かそれとも黄か? まさか、真鉱石を持ってこずに造れと言っているわけではないだろうな?」
真鉱石は金、青、緑、黄、赤がよく知られている。そして、金はかなり珍しく赤、黄、緑、青、金の順で発見しにくくなる。
「赤でも黄でもないが、ちゃんと真鉱石を持ってきたぞ」
「それじゃあ、どの色だ?」
「白だ」
「何!?」
ドレッドは椅子を倒す勢いで立ち上がった。
「本当に白を持っているのか?」
「そう言っている」
「どこだ。どこにある!?」
ドレッドのあまりの勢いに、ロドニーは白色の真鉱石を出した。
デデル領の鍛冶師にこの白の真鉱石を見せて、真鋼の武器を造ってほしいと頼んだら無理だと言われた。真鋼の加工ができるのは、このクオード王国でも両手の指の数より少ないと言われたのだ。
そういった理由から、北部で一番有名で名工と言われるドレッドのところに白の真鉱石を持ってきた。
「本物だ……まさか白にお目にかかれるとは思ってもいなかったぞ」
「それで俺の武器を造ってくれ」
「良いだろう。その仕事、引き受けた!」
先程まで不機嫌そうな表情をしていたドレッドが、満面の笑みになった。職人魂に火が点いてしまったようだ。
ロドニーは金棒を見せて普通の剣では自分の力に耐えられないので、中級根源力に耐えられる武器ならなんでもいいとオーダーした。そのオーダーにドレッドは怪訝な表情をしたが「分かった」と言った。
金、青、緑、黄、赤の真鉱石はラビリンスの中で採掘できる。それに対して白の真鉱石は採掘ではなくセルバヌイを倒すと落とすものだった。それをドレッドから聞いて、ロドニーはなるほどと納得した。
この白の真鉱石は白ルルミルが残した。通常よりも大きな白ルルミルだったので、もしかしたら特殊な個体だったかもしれないとも思った。
帰りの道では不満顔をしたケルドが、ロドニーの後について歩いていた。いくら最下級の騎士爵だとは言ってもロドニーは貴族である。ドレッドの態度は失礼極まりないものだと感じていた。
「そう怒るな。貴族には貴族の矜持があるように、職人には職人の矜持がある。ケルドにだって、兵士としての矜持があるだろ? そういったものがそれぞれの人にあるんだ。一方的な価値観を押しつけるのは、俺は好きじゃない」
ケルドは甘いと思った。しかし、それがロドニーらしいとも思った。ロドニーの背中を見つめる視線が自然と緩んだ。
「そういうものですか……?」
「俺はそう思っている。もっとも、他の貴族の前では、控えてほしいがな」
ハックルホフの屋敷に帰ると、エミリアとシーマが楽しそうにお喋りをしていた。ロドニーの顔を見たシーマが、いきなり自分もラビリンスに入りたいと言って、ロドニーを驚かせた。
「お願い、ロドニーさん。私をラビリンスに連れてって」
どこかで聞いたような言葉だったが、それよりも困った。シーマをラビリンスに連れていったら、祖父に恨まれそうだ。もし、怪我でもさせてしまったら、かなり面倒なことになるだろう。祖父はシーマをそれだけ可愛がっているのだ。
ロドニーはハックルホフの許可があれば、連れて行ってもいいと答えた。これなら、ハックルホフにグダグダ言われないだろうと思ったからだ。
「ダメだ! ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ。シーマが怪我をしたらどうする!?」
祖父ハックルホフは予想通りの反応をした。
「エミリアだってラビリンスに入っているじゃない」
「エミリアは幼い頃から剣の訓練をしていた。シーマとは違う」
シーマがあれやこれやと理由をつけて許可を求めたが、ハックルホフは引かなかった。孫娘の我儘をなんでも聞く孫煩悩のハックルホフでも、こればかりは一歩も引かない不退転だった。
「お爺ちゃんのバカーーーッ」
捨て台詞を残してシーマが部屋に閉じこもった。その光景をお茶を飲みながら見ていたロドニーは、予想通りだと納得した表情だった。
ドレッドから武器が出来上がったと連絡をもらったロドニーは、喜び勇んでドレッドの工房に向かった。ドレッドの弟子の1人に応接室へ案内され、ほどなくドレッドが現れ、その後ろには2人の弟子が布に包まれた武器と思われる物を抱えていた。
「待たせたな。だが、良い物ができたぞ」
「それは楽しみだ」
テーブルに置かれたその武器の布をロドニーが取ると、刃の部分が50セルーム程の細めの鞘に入った剣が現れた。
鞘の装飾は豪華ではなく、むしろ質素なもので柄の長さから両手でも片手でも扱えるものだと分かった。
手に取ってみると金棒程ではないが、その大きさからは想像できない程ずっしりとした重量を感じた。
鞘から剣を抜く……。
「っ」
予想していたのは、白っぽい剣だった。しかし、現れた剣はピンクゴールドに近い色をしていた。しかも、半透明で剣の向こうが薄っすらと見えている。
その剣の形は、前世の記憶にある刀と言われるものに似ていると思った。
「これが真鋼の剣か……」
「綺麗ですね、ロドニー様」
ユーリンの視線が剣に釘付けになっている。それほど美しい剣なのだ。
「ああ、まるでクリスタルでできているようだ」
ドレッドは切れ味と丈夫さを出すために、片刃にしてやや反りを入れていると説明した。そこから長々と自慢話のような説明が続いたが、ロドニーとユーリンはその半分も理解できなかった。
「とにかく、この白真鋼剣は、凄い剣だ」
「白真鋼剣と言うのか?」
「白の真鉱石を使った剣だから、白真鋼剣だ。分かりやすくていいだろ」
ドレッドに素振りがしたいと言うと、中庭に案内された。上段から振り下ろしてみると、腕が軋むような重みを感じた。
大きくも長くもないこの白真鋼剣が、これほど重いと思う者は居ないだろう。
「見た目の大きさからは考えられないほど重いが、何か理由があるのか?」
「真鋼は鍛造していくと密度が元の数倍になるんだ。鍛えれば鍛える程、密度は高くなる。重いということは、それだけ高密度だというわけだ」
密度が元の数倍なら、かなり重くなるのも納得だった。
「重いのは分かった。丈夫なんだろうな」
「もちろんだ。白は俺が知る真鉱石の中で、最も丈夫だぜ。それに俺の腕が加わっているんだ。脆いわけがねぇ」
ドレッドがいい笑顔で答えるので、ロドニーは代金を支払って剣を引き取った。金棒よりもかなり小さく、見た目も剣なので良い。金棒を町中で背負っていると驚かれるので、それがなくなるのが意外と嬉しかったりする。
ロドニーはデデル領に帰ると、すぐに廃屋の迷宮に入った。1層でゴドリスを試しに斬ったところ、まったく手応えなく斬れた。硬いと言われている2層のガンロウも、まったく手応えがなかった。3層の緑ルルミルを斬った時は、ただの素振りかと思うほどだった。
「凄いな。まったく斬った感触がないぞ」
「それほどですか。私も真鋼の剣が欲しくなりました」
ユーリンはかなり大きい剣を扱っている。その重量はロドニーの白真鋼剣より軽いが、それでもかなり重いものだ。これだけの剣を使っているのは、4層以降のセルバヌイが理由だ。4層からはセルバヌイがかなり強くなる。普通の武器だとかなり消耗が激しいのだ。だから、4層より深い層を探索する兵士は、武器を複数持っていく。それほど過酷な場所なのだ。
ロドニーたちは4層へ足を踏み入れた。3層でまだ倒していない黒ルルミルを捜したい気持ちはあったが、白真鋼剣の切れ味をもっと試したいという気持ちが勝った。
4層はかなり廃屋が多く、1層の数倍の規模がある。出てくるセルバヌイは首無騎士。この首無騎士は首のない鎧が剣と盾を持っている。その動きはまさに騎士だとユーリンは言う。
3層まではどんな兵士も到達できる。しかし、4層を探索できる兵士は多くない。この4層は強くなれる者とそうでない者を分ける境界線でもあった。
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