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始まりの1日(2)

 俺は今ダンディーなオッサンの後に続いて豪華な廊下を突き進んでいる。いかにも高級そうな絵が飾ってるなぁ。……いやいや!!そんな事より俺は何処へ連れてかれるの!? ちょっと質問してみようかな……。


「あの? 何処に向かっているんですか?」


 俺は少し不安になりダンディーなオッサンに質問した。

 俺の質問に振り返りもせずに答えた。


「王女様の元でございます」


 その答えに俺は唖然と立ち止まる。……え? おうじょ? なにそれおいしいの? ……いやいやまてまて!!王女ってあの王女!? って事はマジでここ異世界ッ!? マジかよ……。

 オッサンは俺が立ち止まった事に気付き振り返った。


「どうかしましたか勇者様?」

「あ、いえ! 何でもありません!」

「? そうですか。では、王女様がお待ちなので急ぎましょう」

「は、はひッ!!」


 俺のバカぁ! テンパり過ぎて噛んじゃったじゃん! オッサンもどうしたんだろうみたいな顔してるじゃん!

 と、取り敢えず落ち着こう。そうだ、深呼吸をするんだ。


「すぅーーはぁーーすぅーーはぁーー」


 よし、落ち着けた。取り敢えず状況を整理しよう。

 まず朝起きたら異世界で鎧の集団に囲まれていた。……そ、それから鎧の集団のリーダーっぱいオッサンに付いて行っている。……あれ?何も分かってなくね? 分かった事って異世界ってだけじゃない?……あ!もう一つあったわ。俺が勇者ってこと!!……これこそ嘘くせぇわ! 俺が勇者?柄じゃねーよ! ったくどうすりゃいいんだよぉ……。

 そんな事を考えているとオッサンが扉の前で立ち止まった。どうしたんだ?


「勇者様着きました」

「って事はこの中に王女が……」

「はい。この中に王女様がおります。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。王女様はお優しいですから。(優れた者には)」


 俺は扉を凝視する。すっげえ宝石とか埋め込まれてるなぁ。売ったらどれくらいするだろう。


 オッサンの心配とは裏腹に勇斗は金の事を考えていた。さっきまでいろいろ考えていた奴が今は金の事を考えている。勇斗は結構アレな奴だ。


「あ、はい」


 ヤッベ! 金の事考えてて返事が適当になっちまった。まっいっか。

 オッサンはそんな事気にせず扉にノックする。


「騎士団団長ダン・ディです。勇者様をお連れしました!」

「ぷっ」


 アハハははっ!! だ、ダン・ディってまんまじゃん! もうこれただのネタやん!

 思わず吹いてしまった勇斗にダン・ディは首を傾げている。


「どうかしましたか勇者様?」

「い、いえ。何でもありません」

「? そうですか。なら構いませんが」


『ダン、ご苦労様です。入って来て下さい』


 扉越しに凛とした声が聞こえてくる。


「はっ! それでは参りましょう勇者様」

「はい」


 いよいよ王女とご対面かぁ。可愛い子かな?

 勇斗の横でダンが扉を開けた。すると部屋の中には……


「ようこそおいで下さいました勇者様」


 高校生ぐらいの銀髪美女がドレスを着て出迎えてくれた。おぉ!スゲー可愛い! 顔はキレイに整っていて目の色はエメラルドグリーンだ。足はスラッと長く、モデルみたいだ。それより凄いのが胸だ! 何だあれ!メロンでも入れてんのか!? はぁ、スゲーな、流石王女様。


「勇者様? どうかなさいましたか?」

「あ、いえ! 何でもないです!」

「そうですか? それならいいんですけど。

 

 勇者様、私はエンディミオン帝国第一王女のモルディナ・セルロースです。よろしくお願いします」


 モルディナはドレスのスカートをつまみ華麗に礼をした。おぉ!様になってるなぁ。やっぱり王女はみんなこうなのかな? というかこれ俺も名乗った方がいいの? 王女がメッチャ見てるし名乗りますか!


「えーと、狩野勇斗です。よろしくお願いします」

「カノ様ですか?」

「あ、名前はユウトの方です」


 よくラノベとかであるやり取りだなこれ。結構このやり取り憧れてたんだよなぁ。


「あ! ユウト様ですね! 急にこちらの世界に呼び出して申し訳ないと思います。しかし、こちらにも事情があるんです! どうか協力しては貰えないでしょうか!」


 モルディナが土下座しそうな勢いで頭を下げた。


「はぁ……。」

 

 急にそんな事言われてもどうしたらいいか……。オッサンも似たように頭下げてるし。取り敢えず事情とやらを聞いてみるか。


「急にそんな事言われてもどうしたらいいか分からないんで事情を説明してもらえないかな?」

「(チッ!)分かりました。ご説明いたします」


 モルディナは頭を上げて顔をしかめながら説明し始めた。オッサンも顔をしかめている。え?そんなに辛い話なの?


「今この世界は、人類は魔王率いる魔族との全面戦争の真っ最中なんです。最初は人類軍が押していたのですが……」

「ですが?」

「ですが魔王の側近の四天の王の登場で一気に人類軍が押され始め、気付けば人類軍が崩壊寸前に……。お願いしますユウト様! 私達に力を貸してください!」


 うわぁ……。よくもこうお約束な展開になってるな。つか魔王登場してないのに崩壊寸前とか人類軍弱くない! というかそんな相手に俺が勝てる訳ないじゃん。なに、ラノベみたいにチートでもあるんですか僕?


「力をって言われても俺武術が少し出来るだけですよ」

「そこはご心配はありません。異世界から召喚された勇者はみな属性を与えられ、凄い魔法を使う事が出来ますから」

「え? 魔法あるの?」


 っていうか勇者って結構いるんだ?いたんだ?


「はい」


 あるかもとは思ってたけどまさか本当にあるとは……。やっぱり異世界来たら魔法で無双だろ! 炎や雷、光とかを使って無双するんだ!


「俺が魔法をねぇ……信じられないな」

「はい。それに勇者はみなさん固有スキルを所持しているんです。だからユウト様も凄いスキルを持っていると思います」

「マジでッ! 固有スキルとか絶対チートだろ!」

「ちーと? 勇者のみなさんは何方も強力なスキルを持っています」


 マジかよ……。それなら無双くらい楽勝じゃね? あぁーー早く試してぇー。でも俺の属性と固有スキルって何だろう?


「モルディナさん、俺の属性と固有スキルってどうやったら分かるんですか?」

「鑑定石という石で調べる事が出来ます。良かったら今調べてみますか?」

「是非! よろしくお願いします!」

「では今持ってこさせますね。ダン持ってきて」

「はっ! 分かりました」


 ダンが部屋を出て鑑定石を取りに行った。早く知りてぇ!


「それで、ユウト様。私達に協力してくれますでしょうか?」

「え? あぁ! はい!協力します!」

「ッ!? ありがとうございます!!」

「気にしないで下さい」


「持ってまいりました」


 オッサンが戻って来た。手には手のひらより少し大きな石が握られていた。あれが鑑定石かぁ。ダンが机の上に鑑定石をおく。そういえば椅子があったのにずっと立ちっぱなしだったな。


「ご苦労様ダン。ではユウト様、この石に手を」

「分かった。ここだな」


 ピロン!


 ユウトが手をおくと上空にホログラムのようなものが浮かび上がった。

 これが俺の属性とスキルかぁ。どれどれ



  ユウト・カノ 16才 勇者

 

 属性:なし

 スキル:なし



「え?」


 一瞬にして部屋の空気が凍りついた。

 え?何も無いんですけど!どうして!俺勇者だよね!


「これはどうい」

「何ですかこれは!! これではただの無能ではないですか!」

「え?」


 誰これ! さっきまでと全然違うじゃん!こわっ!何か怖いんですけど!


「せっかく世界を我がエンディミオン帝国のものにしようとしたのに!」

「え? 魔王や全面戦争は?」

「そんなもの嘘に決まっているでしょ! こんなみえすいた嘘に引っ掛かるなんて本当に無能ね」

「う、嘘? ど、どうして?」


 どうして嘘なんてついたんだ?わけわかんない!


「そんなの勇者の力を使って世界を我がエンディミオン帝国のものにしようとしたからよ! まさかこんな無能だとは思はなかったけどね」

「な、なんかすいません」

「謝ってすむと思っているの! ……まぁ良いわ。どうせまた勇者召喚をすればいいんだから。だからあなたはもう必要ないわ。ここで始末しても良いけど何も知らない世界に放り出す方が面白いわね」


 この王女絶対どSだ!


「ウフフ♪ ダン、コイツをこの国から放り出しといて。そして絶対に入れちゃダメよ」

「……分かりました。付いてこい」


 俺は付いて行くしかなかった。






 そして門の前までやって来た。


「王女様のせいですまない」

「はは……ホントだよ」

「だが、これも仕事だ悪く思わないでくれ」

「まぁ仕事じゃ仕方ないよな」

「……ここから真っ直ぐ行くと小さな村がある。今から歩けば夜になる前には着くだろう。頑張って生きてくれ」

「はは……精一杯生きるよ」


 ダンは頷き門の中へ消えていった。俺は唖然とするしかなかった。


 こうしてユウトは異世界転移初日に一つの国から追い出されたのだった。

総合評価よろしくお願いします!!

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