王立魔道学院
仮面の襲撃の翌日、私達は王立魔道学院に来ている。入口で待っていたのは制服を着た二人の少女だった。
護衛は何とか断って来たが、襲撃の翌日に仮面に唯一対抗出来そうな近衛騎士隊長を寄越そうとするなんて何を考えているのだろうか。
仮面は今牢屋に入れられているらしいが、まだ何も話していないらしい。
「おはようございます!」
「……おはようございます」
元気のよさそうな赤い髪の方が挨拶をして、それに続くように大人しそうな青い髪の方が挨拶をした。
「これを」
王にもらった紹介状を見せると、赤い髪の方が急に慌て出した。まあ、王が書いた物だからな。……書いてある内容も大変なのだが。
「が、ガクインチョは、こちら、デデス」
「……緊張しすぎ」
青い髪の方は落ち着いているようだ。いや、よく見ると表情が強ばっている。
「案内をよろしく頼む」
「お願いします」
ナコはあの後から少し眠気がましになったようで、今は普通にしている。兎は二匹ともナコにおぶさっているが、重くは無いらしい。
「あたし、マリー・クラウストっていいマス。生徒会副会長デス。よろしくお願いしマス」
さっきよりはましだが、語尾の発音がおかしいぞ。赤い髪はマリーか。
「私はファルナ・ラ・ファウストです。生徒会会長を務めています。よろしくお願いします」
で、青い髪はファルナだな。
「私はシャロン、普通にしてくれて構わない」
ナコに緊張が移っているからな。
「わ、わたしは、えっと、ナコ・トウドウっていいましゅ、あ、えと」
ほら。
「……か、かわいい」
「フ、ファル、抑えて、抑えてー!」
何だ? ファルナの雰囲気が、変わった? これは……あのおかしな女騎士のような、いや、こっちの方が……。
「かわいすぎるわ、我慢できない……抱き締めたいっ!」
もう既に抱き締めてさらに頬擦りをしているが。ナコはされるがままだ。人間にはやはりおかしな奴が多いな……。
危険を察知した白い兎は私の背中に張り付いている。黒い兎はナコの頭に必死にしがみついている。
「すいません、ファルはかわいいものを見ると人が変わってしまうんです。ごめんなさい!」
「大丈夫ですよ、でも、か、かわいいですか?」
ナコは平気そうだが、そろそろ離してやらないとな。後ろから両腕を掴んで万歳をさせるように持ち上げる。
「はっ、私は何を……」
「はあ、やっと収まってくれた。ごめんなさい、ナコ様、シャロン様」
「さま?」
ナコが首を傾げた。様付けは違和感があるらしい。
「普通に呼んでください、敬語もわたしにはいらないですよ」
「そ、そんなおそれ多い……」
「だめ、ですか?」
上目遣いにファルナがやられたらしい。また抱き付こうとしてマリーに抑えられている。
「わかったわ、ナコちゃん! マリーもいいでしょう?」
そうマリーに問うファルナの顔は有無を言わさぬ迫力があった。身長はマリーの肩程度だが、数段大きく見える。
「怖い! 怖いよファル、あ、ほらナコちゃんが怖がってるよ」
二人とも普通に話すことにしたようだ。ナコは私の後ろに隠れている。
「ご、ごめんなさい、そんなつもりは無かったわ」
慌てて謝っているが、ナコは隠れたままだ。ファルナは地面に手をついて落ち込んでいるが、あの気迫では恐がられても仕方ないだろう。
気を取り直して校舎へ向かい、学院長室へ行く。ナコとファルナとマリーはどうやら仲良くなれたようだ。今は三人で盛り上がっているようなので、私は気配を消して空気のようになっていた。少し寂しい。白い兎も私の頭の上で寂しそうにしている。黒い兎はナコの頭の上でこちらに向かって勝ち誇っている。
学院の三つに別れた校舎の真ん中の一階に学院長室はあった。私達が中に入ると二人は扉の外に張りついた。何をしてるのだろうか。盗み聞き? まあ、別にかわまないか。聞かれて困ることはあまり無いし、聞かれたら聞かれたでそれもよいのだ。




