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【小ネタ解説】



本作中に登場したモノ・名前の解説や、各所に配置してみた小ネタ、執筆の背景などについて、作者が少し触れてみたいと思います。








① キャラクター名について


 今回の作品の舞台は、東京都清瀬市。多摩地区の北部に実在する、人口七万五千人の衛星都市です。

 今回のように作品の舞台が明確に決まっている場合、その舞台の街に存在する地名をキャラクターの苗字に使用する、というのが普段の自己流なのですが、今回はいくつかの理由があって統一することができませんでした……。まず、地名よりもキャラクターの方が多かったこと。もうひとつには、登場予定のキャラクターの一部を別作品から流用することが決まっていて、そのキャラクターの苗字が清瀬市内のものではなかったこと。というわけで今回、名付けの法則はかなり適当というか、バラバラになってしまっています(汗)

 以下、順番に説明してみます。

 竹丘友慈(主人公)の苗字「竹丘」は、東都病院のモデルとなった病院(後述)の立地している場所の地名です。その北に「野塩」が、北東に「松山」が、ちょうど市の反対側に「清戸(上清戸・中清戸・下清戸)」が、そのさらに北側に「下宿」が存在していて、それぞれがヒロイン野塩愛、看護師の松山由実子・清戸英広、夜間当直医の下宿朋紀に対応しています。

 友慈と愛の名前には、友慈の愛に対する感情が「友愛から慈愛へ」と移り変わるさまをイメージしてみました。竹丘家の家族その他の名前については特に捻ってはいないのですが、愛の父と祖父に関しては「愛」という言葉とそれらしく繋がるような一文字の漢字を当てるようにしてみています(笑)

 主治医の伏見豊は、元々は作者の別作品『テガミ ──The short tales of LETTERs──』のキャラクターで、西東京市内の地名が苗字の由来です。彼が過去に犯してしまった失敗は、実はこの別作品の中でより詳しく書かれていたりします。

 後にも触れますが、本作には着想の元になった某アニメソングが存在します。この曲の作詞・作曲・編曲を担当している三人の方の名前が、この順番で友慈の仲間である畑亨則・山田昌広・中西孝介の苗字および名前の由来です。さらに、この曲が劇中で歌われた某アニメ作品には漫画版があり、その原作者・作画担当二名の名前が、この順番で看護助手の公野桂子・室田侑・鴇田成美の苗字および名前の由来になっています。



② 「東都病院」について


 作中ほとんどの場面の舞台となる病院『独立行政法人国立病院機構東都病院』は、清瀬市内に実在する某病院がモデルです。

 あえて具体名を挙げることはしませんが、地図や電話帳などで探していただければ「ああ、これか」と思うものがすぐに見当たるかと思います……。住所の大字は「竹丘」。上から見た姿や建物の配置、各施設の名前はほとんど一致している上、敷地内のはずれには作中登場の外気舎のモデルである『外気舎記念館』(清瀬市指定有形文化財)が立っています。病院の経歴や理念、規模などの情報も、東都病院の設定を作る上でかなり参考にさせていただきました。それなりに改変しているので盗用には当たらないと思うのですが(汗)

 もちろん関係者でない以上、病院の建物内に勝手に踏み込むことは御法度ですが、敷地内は特に制限なく散策することが可能です。つまり聖地巡礼ができます。前述の外気舎記念館や桜の植えられた区画も見に行くことができるので、もしも興味があればぜひ、足を運んでみてください。作者も現地ロケーションのために5回ほど訪れてみました。ちなみに実際の外気舎記念館は南京錠で施錠され、中には入れないようになっています。

 上記のように作者は建物の中には入っておらず、公式ホームページでも病棟内の地図は公開されていないので、作品の主要舞台である七病棟の配置図は建物の外見から想像したまったくの空想です。他の病院の中には病棟内の図を公開しているところがあり、それらを基にして配置を考えているため、実際にこの通りの病床数・部屋数・病床の種類であるわけではありません。また、病棟を南北に分けて両方に談話室を置いた結果、本来は窓のない部分に大窓が設置されるようになってしまっていたりして……。

 入院中の規則については、この病院以外のものも合わせて5程度の病院の『入院生活のしおり』を調べ、組み合わせて作成しました。ただ、この部分の作成に取り掛かった時にはすでに作品が公開され始めていたので、おそらく見直しをするとかなりの数の訂正をしなければならなくなると思います。具体的には食事の時間とか健康確認の時間あたりが危ないです。修正が怖いです



③ 作品が生まれたきっかけ


 さて、二十三万文字以上という作者史上第二位の長さを誇ることになった本作『君と俺が、生きるわけ。』ですが、実は着想から数日で執筆開始、一か月半後には公開を開始するという、これまた類を見ないスピードで書き進んでいった作品でもありました。

 これだけの長編であれば、普段の作者なら着想してから一か月は寝かせてアイデアを練ったりするものなのですが……。今回、この作品が早い段階で完成形に近付いていったのは、実はいくつもの理由があったからなのです。

 第一に、主題となる曲に出会ったこと。──病院名同様、具体名を挙げることはしませんが、「こういう物語を書きたい!」という衝動を生むような楽曲に、偶然にもこの作品を書き始める少し前に出会っていたのです。その楽曲に関しては聴き込んだうえで歌詞を分析し、作品の流れにその内容を盛り込んでみました。『より強い“生きる力”を持つものが明るく輝く』という設定も、もともとはこの曲の中に出てくるとあるフレーズから連想したもの。その後、それまでに知っていた数々の曲をイメージとして加えていったので、本作には合わせて9つの脳内イメージソングが存在しています。とても多いですね……。

 第二に、キャラクターの素地がすでに存在したこと。──実はこの作品を着想する一か月ほど前に、同じ清瀬市内を舞台とする別の作品のアイデアを思いつき、書き始めていたのです。この作品には市内の病院に勤務する女性看護師として「松山由実子」が登場しています。つまり本作は、その作品の舞台と登場人物1名をそのまま流用した作品ということになります。前述した通り、主治医の伏見豊は三年前に公開した作品に登場済なので、重要人物2人がある程度決まっていることで設定作りが一気に楽になりました。なお、この一足前に書き始めていた作品が、先日公開した拙作『強がり父さんの帰り道』になります。

 そして第三に、『機能代償をテーマにした作品が書いてみたい!』という漠然とした考えがすでにあったこと。──まだ明確に理屈が明らかになっていない脳の神秘「機能代償」ですが、実は数年前に流行したPSPの某ゲーム中にこの語が登場していました。とても印象深いシーンだったこともあって、いたく感動したことを今でも思い出します。「こんな奇跡が起こることがあるんだ……」と。こういうものを描きたいというイメージがすでに頭の中にあったことで、ストーリーの作成も進みやすかったのかもしれません。なんて。



④ その他、小ネタ


 上の部分に書けなかった事柄を、つらつらと並べてみます。


・「ちょっと極端な学説」

 ……Karte-37にて『自律神経を整えることができれば全ての疾病は治る』という学説を紹介した後、伏見が付け加えたセリフです。

 この学説には元ネタがあります。新潟市の外科医・福田稔氏と新潟大学名誉教授であった安保(あぼ)徹氏により提唱された『福田-安保理論』と呼ばれる理論です。この理論は「白血球のバランスは自律神経(交感・副交感神経)によって支配されている」、すなわち「自律神経を調節することができれば全ての疾病は治すことができる」と主張するもので、免疫療法の有効性を支える理論の一つとして注目されているのです。ただし、臨床データに乏しいことから説得力に欠け、研究者の間では必ずしも正しいとは言えないという考え方が主流になっているのが実情でもあります。

 作者がかつて通院していた整骨院に、この『福田-安保理論』を紹介する掲示が貼ってありました。ちなみにこの理論は、愛の「前向きな感情(=生きる力)が強くなれば病気を克服できる」という考え方の礎となっているので、正しいかどうかはともかくとして、作者にとっては非常に印象深い理論です。

 去る2016年12月、提唱者の一人である安保徹氏が亡くなられたそうです。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。氏の著作は(次話で公開する)参考資料中にもあるので、もしも興味がわいてきたという方がいらっしゃれば目を通してみてはいかがでしょうか。


・『季節の変化に従って』

 ……Karte-06冒頭のモノローグです。この後、『地上の人間たちに悟られることもなく、星たちが見える位置を変えてゆくように。この時から、俺を包み込む運命は静かにゆっくりと、大きな変化を迎え始めていた』と続き、このモノローグの通り友慈と愛は想像もしていなかったような展開へと巻き込まれてゆくことになります。

 ところで、実際に本作中で『季節の変化』が起きていたことに気付いた読者の方は、どれほどいらっしゃったでしょうか。

 もちろん「ずっと冬だけではないのか」と思われたと思います。ところが実は各章の最初のストーリーを見ていただくと、第一章の冒頭が「はる」、第二章の冒頭が「なつ」、第三章が「あき」、第四章が「ふゆ」、第五章が再び「はる」で始まっています。至極強引なやり方ですが、作中で本当に季節の変化を起こしてみたというわけでして……。

 さらに言えば、第一章の公開開始が春(3月末)、第二章の公開開始が夏(7月末)、第三章が秋(9月末)、第四章が冬(11月末)、第五章が春(2月)なので、連載期間中に現実世界でも季節が回っています。連載のペース配分が難しかったのはそのためです……。

 ちなみに本作の設定上のカレンダーは2016年2月・3月のものを用いているため、本作は第一章~第四章が2016年、第五章が2017年の出来事になります。つまり、読者の皆様がこの作品を追いかけてくださっている間、どこかの世界では友慈が愛のことを不安に思いながら悶々と暮らしていて、Karte-39公開の翌日(この解説の公開日)に愛と涙の再会を果たしたことになるのです。一年という時間の途方もない長さを作者自身も噛みしめつつ、執筆を進めておりました。


・『命を懸けてでも守りたい相手に、あの盲導犬は出逢ったんだな』

 ……Karte-23での一時帰宅中、テレビのニュースを見ていた友慈が感じたセリフです。このニュースでは、『飛び出してきたトラックに撥ねられそうになった視覚障害者を盲導犬が庇い、身代わりになって死んだ』という憐れな事故が報道されていました。

 清瀬市の柳瀬川流域では、過去に『盲導犬クイールの一生』(2003)というテレビドラマの撮影が行われたことがあります。かつて実在したラブラドルレトリバーの盲導犬・クイールの写真集をNHKが映像化したのが、このドラマです。

 クイールは使用者(パートナー)に腎臓の病気で先立たれ、現役の盲導犬でなくなってからはデモンストレーション犬となり、12歳で生涯を閉じた盲導犬でした。そのクイールが生まれ、育てられ、盲導犬としての訓練を受け、使用者との日々を生き、別れ、やがて息を引き取るまでの過程を収めた写真集は、それまであまり知られてこなかった盲導犬の育成過程や生涯が一般に知られるようになるきっかけとなるとともに、温かな眼差しの感じられる名作として高い評価を受けたそうです。

 盲導犬とパートナーの絆を人間に置き換えて説明することは難しいかもしれません。けれどその関係の中に、「守る」という行為の新たなカタチを見たように感じて、本作中で何とか扱うことができないかと考えた結果、Karte-23のニュースが生まれました。不謹慎だと思われるかもしれませんが、盲導犬を連れた視覚障碍者の方が交通事故に遭うケースは実際に全国あちこちで起こっているわけで、そのことを我々は決して忘れてはならないと思います。

 ……ちなみに余談ながら、清瀬市内では他にも仮面ライダーシリーズの撮影やテレビドラマの撮影などが行われていたりします。本作のモデルとなった病院の敷地の少し西、隣接する東村山市内には、ハンセン病((らい)病)患者の療養施設として開設された『国立療養所多磨全生園』が広大な敷地を占めて立地していますが、この多磨全生園は樹木希林氏主演の映画『あん』(2015)の舞台・ロケ地です。敷地内にはハンセン病治療の歴史を紹介する博物館や資料室が設置されています。結核と同じく猛威を振るった感染症であり、患者の隔離政策という厳しい歴史を歩んできたハンセン病療養の足跡の中に、果たして今日の我々は何を見出すことができるでしょうか……。






本作にまつわる小ネタ・構想・その他のアイデア紹介などは、作者の活動報告や公式Twitterアカウントでも少しずつ行っています!



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