第9話
付き合い始めたのが12月ということで、まさに恋人たちのための季節だ。
初めて異性と付き合うかのように、お互い浮かれて恥ずかしいほどラブラブな毎日を過ごしていた。
そして、イヴの夜には超ベタなデートコースが用意されていた。
お互いにちょっとオシャレして街に出て、イルミネーションを眺めて、夜景の見えるホテルの最上階にあるレストラン(それも個室!)で食事したあと、「下の部屋、取ってるんだけど」って流れ。
セミスイートの部屋には大きな花束が用意されていて、彼からのプレゼントはお花の形に石が並んだ、輝くダイヤのネックレスで。
私があげたマフラーとは、とてもじゃないけど釣り合いが取れていない。
これにはさすがに、慌てた。
だって大輝君、社会人とは言ってもまだ1年目。
寮住まいで生活費は抑えられても、こんな贅沢三昧をするほど、給料を貰っているとは思えない。
「お金使いすぎだよ! こんな無理しないでいいんだよ?」
そう言ってもニッコリ笑って、
「加奈ちゃんはそんな心配しなくていいの!」
なんて言ってるし。
ひょっとして、実家がお金持ち?
それとも、今日1日だけのために貯金をはたいちゃった?
いやさては、借金してる?!
色んな可能性が浮かぶけど、どれも印象はよくない。
彼の金銭感覚を疑ってしまうのも、しかたないと思う。
今日のデート代、私もちゃんと出すつもりで持ってきてるから、割り勘には全然足りないけど、チェックアウト前に絶対に渡そうと心に決めた……!
――……んだけど、結局1円も受け取ってもらえなかった……。
彼女って事以前に、学生からは受け取れないなんて言って。
確かに学生だけど、バイトしてるし、そもそも同い年じゃないの……。
でもそこは頑固で、どう言ってもダメだった。
「加奈ちゃん、年越しは一緒にいられる?」
クリスマスデートの3日後の土曜日、私の部屋で夕食を食べている時にそう聞かれた。
贅沢なクリスマスを過ごした分、その後は私の部屋で会うことがほとんどだ。
今日のメニューはキムチ鍋。
うちで食べるときは食材は私持ちなので、クリスマスのお返しに出来るだけ食事を作って一緒に食べている。
それでも何かと食材はもちろん、飲み物とか、スイーツとかを買ってきてくれるので、なかなかお返しまではいかないんだけど。
「30日まではバイトがあるからこっちにいるけど、31日から3日くらいまでは実家に帰るんだよね」
「えっ!――実家……。そうか、そうだよね……。お正月くらいそりゃ帰るよね……」
とってもわかりやすくシュンとしてしまったワンコ。
う~~ん、でも、さすがに正月くらいは帰らないと、マズイもんなぁ~。
「実家、聞いたことなかったね。もしかして、遠い、の……?」
「ううん、そんなに遠くないよ? 新幹線で1時間半くらいかなぁ。」
「……新幹線。……1時間半。 はぁ~~~……」
「えっと、大輝君?」
「――うん!! 俺、免許取ったら、加奈ちゃんが実家帰るときは車で送って行くって決めた!」
「はい?」
「そしたら、その間だけでも一緒にいられるでしょ?」
そう言ってニッコリ笑った大輝君に、冗談だってわかってても嬉しかった。
「あ、そう言えば明日の日曜なんだけど……」
急に顔を曇らせて、テンションが下がったその様子に何事かと思ったら。
「前々から決まってはいたんだけど、仕事が入ってるんだ。それも1日中……」
「あ、そうなの? どうせ私も朝からバイト入ってるし、それなら午後も続けてやろうかな」
「……なんか、加奈ちゃんは俺が仕事で会えなくても、平気みたいだね?」
ますます暗~くなっていく大輝君。
イヤイヤ、仕事でしょ?
それも、私とはここのところ毎日会ってるんだし!
「大輝君……」
「ごめん、ごめん! わかってるよ。 明日のは本業とはちょっと違うから気が進まないけど、それでも仕事は仕事なんだしちゃんとするって。 ただ……加奈ちゃんがいないとダメな俺みたいに、俺がいないとダメな加奈ちゃんがちょっと見たかっただけなんだ……」
そう言って笑ってみせたけど、どこか寂しげなその笑顔に思わず抱きしめたくなってしまう。
ホント、なんでこんなかわいいかなぁ。
「私だって、大輝君がいないとダメだよ、本当に。 だから明日会えなくても、あさってまた一緒にご飯食べよう?」
「うん、そうだね」
その日も食事のあと、大輝君は情熱的に私を抱いてくれたけど、翌日の仕事のために夜遅くタクシーで帰って行った。
名残惜しそうに何度もキスをしたあとで。
――でも、たった1日会えないだけでこれって……。
いくら付き合い始めのラブラブな時期だって言っても、これはナイよね。
こんなの、恥ずかしくて友達にも言えない。
クールだと思われてる私が、実は本気で好きな相手にはこんな風になってしまうなんて。




