第6話
教習所から電車で1駅。
通っている大学のすぐ近くに、一人暮らしの私の部屋がある。
何も考えてなかったけど、とりあえず今日は掃除したばかりでよかった。
でも、6畳ワンルームのアパートに高橋君がいるだけで、一気に部屋が狭くなった気がする。
「すぐ準備するから、テレビでも見てて?」
内心、自分の大胆な行動に信じられない思いでドキドキしてるんだけど、顔には出てないはず。
なのに、高橋君はなぜかクスクス笑っていて。
「そんな緊張しなくても」
って、やっぱりこの人には、私の無表情の下の感情を読み取る能力があるらしい……!
動揺したまま狭いキッチンへ行くと、彼もついて来た。
「何作るの? 手伝おうか?」
2人とも夕飯がまだで、それならうちで作って食べようってことになったのだ。
幸い、両親が共働きだったこともあり、実家にいるときから料理はけっこうやっていた。
家にあるものでサッと作るのも得意なので、今日はクリームパスタとサラダに決めた。
別ゆでしない方法で作るので、ごく短時間で出来上がるはずだ。
「ありがとう。でも、ここ狭いから2人並ぶと動きにくいし、やっぱり向こうで待ってて?」
こんな狭いキッチンで並んで料理なんて、絶対カラダが触れ合ってしまう。
そんなんで動揺してるのをまた見透かされたりとかも気まずいし、なによりスムースに動けなくて効率が悪すぎる。
「じゃあ、そうさせてもらうよ。ごめんね? ありがとう」
料理は好きだし苦にならないから気にしなくていいのに、でもそういう心遣いとかが嬉しいって思う。
作ってもらって当然って態度だと、やっぱり気分がいいものじゃないよね。
部屋の中央にある小さめのテーブルの前に座って、テレビを見ながら最初に淹れた温かい緑茶を飲む高橋君を意識しつつ、過去にないスピードでクリームパスタとサラダを完成させた。
「お待たせ。口に合えばいいんだけど……」
「うわ、すげー美味そう! 佐倉さん普段から自炊してるの?」
「うん、もちろん。一人暮らしだとみんなしてるでしょ?」
「いや、男はあんまやらないよ。 俺もほとんど料理なんて出来ないし」
「高橋君も一人暮らし?」
「あぁ……うん。そうなんだけど、球……イヤ、職場の寮があるからそこに入ってるよ。食事は寮のおばちゃんが作ってくれるから助かってる」
きゅう……?って言いかけたけど、なんだろ?
「えっと……冷めないうちに食べて?」
「うん! いただきます!」
両手を合わせて笑顔でそう言われると、それだけでこっちはキュンキュンしてもうお腹いっぱいな気分。
「んん~~~!! 美味い! 最高! すごいな~。あんな短時間でこんなの出来るとか!」
高橋君の食べっぷりは、見事としか言い様がなかった。
実際そのスピードにあっけにとられて見ているうちに、みるみる間に高橋君のお皿は空になってしまった。
私、まだ半分も食べてないんだけど。
それも、私の倍はあったはずのパスタ……。
「え~っと、もう少しあるけど、食べる?」
一応聞いてみたら……
「えっ! ホント?! 食べていいの?!」
って、キラキラした目ですごく嬉しそうに。
結局多めに作ったパスタはきれいになくなった。
「はぁ~……。美味かったぁ~! ごちそう様。 寮じゃこういうシャレたメニューってないからな~」
「こんなんでよかったらま……た食べに来る?」
「いいの? そんな嬉しいこと言われたら、俺、本当に来るよ?」
「うん、今度はちゃんと買い出ししとくから」
うわ~……
なんか、自分でもビックリ。
部屋に誘うとか、自分からご飯作ってあげたいとか、そういうこと今まで誰にも思ったことなかったのに。
「それにしてもすごい食欲だね。 野球やってたって言ってたけど、今も何かスポーツしてるの?」
その質問に、何故か高橋君は戸惑っているように見えた。
なんだか答えに詰まっている様子に、今度は私が戸惑う。
「えっと……。なんか、変な事言った?」
「あっ!……ううん、全然! スポーツは好きだから、今もやってるよ! ……野球だけだけどね」
「へぇ~、そうなんだ」
って、言ってみたものの。
そもそも私は、昔から全くと言っていいほどスポーツとは無縁だ。
やるのも見るのもまるで興味がない。
私みたいなインドア派にとっては、どうしてもアウトドア派に対するコンプレックスというか、劣等感というものがあって、社会人になっても時間を作ってスポーツをやってるって時点で、高橋君が眩しく見えてしまう。
私が生粋のインドア派だと知ったら……
高橋君、ガッカリするかなぁ~……。




