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第3話

「あの……高橋君?」

足早に教室を出て、さらに教習所もそのまま出ていく。

その間、私の手は彼の大きな手に握られたまま……。

あっけにとられて抵抗することもなく、教習所から少し離れた小さな公園まで来ると、やっと高橋君が立ち止まってパッと手を離した。


「ゴメン! いきなり連れ出しちゃって! おまけに勝手に手握ったりなんかして……!」

なんだか焦った様子でこっちを見つめてきたその顔は、マスクで隠れていない場所が真っ赤になっていて。

あぁ、やっぱりこの人かわいいなぁ……なんて思ってしまった。


「ううん、どうせもう学校行かなきゃいけないし、別にいいんだけど。 でも、そんなに謝るくらいならなんでこんなこと?」

純粋に疑問に思って淡々と尋ねる私に、高橋君も落ち着きを取り戻したようだった。

「え~っと、あの……。 さっきみたいな女の子がさ……俺、すごく苦手で……。1人ならともかく、知らない子に複数で囲まれて話しかけられると、どうしていいかわからないんだ……。声もテンションもすごく高くて、何言ってんのかすらわからないことも多いし。――情けないけど、今みたいに声かけられそうな時は、その前に逃げることにしてるんだ」


ふう~ん。

つまり、あんな風に女の子に声かけられる事がよくあるってことね。

知らない子ってことは、つまり逆ナン?

まぁ、今日のは同じ自動車学校の生徒同士ってことで、いきなり話しかけられても逆ナンとは言わないかもしれないけど。

それにしても、こういう大型犬タイプってモテるんだ?

確かにイケメンと言っていいほど整った顔してるけど、今日みたいに顔隠れてたらそれもわからないだろうに。

――――ん?? 

ってことは、この変装みたいな出で立ちは逆ナン防止目的ってこと……?


「高橋君がしょっちゅう逆ナンされるくらいモテるって言うのはよくわかった。 でも、なんで私まで巻き込むかなぁ」

「イヤ! 別にモテるとかそんなんじゃなくて!!――えっと、でも、巻き込んだってのはその通りだよね。 ホント、ごめん。 ただ、あそこで佐倉さんと別れたら、次いつ会えるかわからないし!」

……えっと……うん、確かにそうだ。

私だっていつも無意識に高橋君を探していたくらい、また会えればいいなぁと思っていたんだから。


「高橋君、LINEしてる?」

「えっ? あ、それは、うん」

「じゃ、スマホ出して?」

私もカバンからスマホを取り出し、準備をする。

「いいの?!」

高橋君も急いでスマホを取り出し、お互いの情報を交換した。

「いいの?って……大げさだよ、LINEくらいで」

「だって、俺、この前帰ってからすごく後悔したんだ。 なんか舞い上がってて、連絡先も聞いてないのに気付いた時は、ホントに文字通り頭抱えたんだよ?」


自分と同じように……イヤむしろそれ以上に連絡先を聞かなかったことを後悔していたと聞いて、今まで感じたことのないような感情が湧き上がる。

嬉しいような、恥ずかしいような、なんとなく浮き足立つみたいな高揚感。

こんな感情は初めてで、決して不快ではないけど、なんだかちょっと怖くなる。


「――もしかして引いた? 俺ちょっと必死すぎ?」

感情が顔に出ないのが悩みなほど無表情なはずなのに、私が感じたわずかな不安感をこの人はわかったようで驚いた。

シュンとしたワンコを見てるようで、思わず頭を撫でたくなる。


「ううん。私も連絡先聞いておけばよかったって、思ってたから」

とたんにパァ~っと明るくなる高橋君の表情。

目しか出てないのに表情豊かだなんて、私とは正反対だ。

ここまで嬉しそうだと、背後にブンブン左右に揺れている尻尾が見える気がするくらい。


「あ、もうホントに行かないと。午後からの授業に遅れそう」

「あっ! ごめんね、引き止めて」

「ううん、じゃあ、またね」

「うん、夜LINEしてもいい?」

「え? うん、いいよ。もちろん。」

嬉しそうに笑う高橋君に見送られながら、私はここから電車で1駅の大学まで急ぎ足で向かった。







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