番外編 「どれがいい?」
番外編2話を続けて投稿します。
本日最終話と合わせて3話投稿となりますので、最新話から来られた方は前の話も合わせてご覧ください。
1月下旬のある日のこと。
夜になって部屋に来た大輝君は、満面の笑みだった。
「どうしたの? いいことあった?」
彼の笑顔が大好物な私も、つられて顔が綻ぶ。
「ほら、見て!」
ジャ~ン!!と、効果音と共に目の前に差し出されたのは……
「わ、免許?」
そう、真新しい運転免許証だった。
「うん! 今日自主トレの休養日だったから行ってきた! 月末にはキャンプの事前準備で忙しくなるし、今のうちにね」
「へぇ~。いいなぁ・・。ちょっと見てもいい?」
「もちろんいいよ」
免許証を受け取ってじっくり見る。
あ、すごい真面目な顔してる。
こういう顔すると、本当にイケメンなんだよなぁ。
でも私は、クシャっとした笑顔の方が好きだけど。
しげしげと免許証を見ている私の横で、大輝君がなにやら冊子のようなものを、持ってきた紙袋から取り出してテーブルに並べている。
「なに?それ」
免許証を返しながら、テーブルの上をよく見ると……
「どれがいい?」
――それは全て、車のパンフレットだった……。
ざっと見ただけでも、10冊はありそうなそれは、なぜかどれも外車ばかり。
「どれがいい……って、どう言う意味?」
「え? 言葉通りの意味だけど? 加奈ちゃんが一番好きな車を買うから。 だから、加奈ちゃんが選んで?」
「……はぁ??」
イヤ、何言ってるの……?
「――でも、アウディだけは買わない。 門倉さんと一緒は絶対イヤだ。 ただ……門倉さんが乗ってたあの車ってアウディの中でも上位クラスでさ、調べたら2千万近くするんだよね。だから、それに勝つって言ったら、ベンツとかロールスロイスの上位車種かなぁ。それともスポーツカーでこだわるなら、ポルシェとかフェラーリ?……う~~ん、ねぇ、どれがいいかな?」
……なんだ、それ。
門倉主任と張り合って車選ぶなんて、バカげてるでしょ!
「そんな高い車買っても、私、乗りたくない」
気つかって疲れるし。
「えっ!どうして?」
「車は、大輝君が乗りたい車を買って下さい」
「俺が……? でもさぁ、加奈ちゃんに気に入ってもらえないと、意味ないんだよね……」
あ、シュンてしちゃった。
かわいいけど、ちょっとかわいそうになってきた。
「……私、別に好きな車とかないから。でも、強いて言えば……」
「うん! なに?」
「――国産?」
あ、なんかテンション下がった?
いいじゃん、国産車。
日本車の性能は世界で認められてるんだからね。
「わかった……。じゃあ、今度一緒にディーラーめぐりしてくれる?」
「うん。いいけど。……でも、ちゃんと自分が気に入った車にしてね?」
「う~~ん、だったらどうしようかな~。もう外車しか頭になかったから、今からちょっと考えないとな~」
テーブルに並べてた高級外車ばかりのパンフレットを片付けながら、う~~んと考えているかわいい恋人。
思わず、その大きな背中にピッタリくっついた。
「それ片付けたら、ご飯にしようね? 今日はカレーだよ」
そのセリフが終わるやいなや、パッと振り向いた大輝君にそのまま抱きしめられた。
「えっ、ちょっと……今からルーを温めるから――」
「だって、加奈ちゃんが悪い! そんなくっつかれたら俺、すぐスイッチオンになっちゃうって知ってるでしょ?」
その言葉の途中で、もう抱き上げられてベッドに連れて行かれた。
――あぁ……また夕食が遅くなる。
でも、いつもの事なのに学習しない私も悪いしね……。
「大好きだよ、加奈ちゃん……」
そのまま美味しくいただかれてしまい、カレーにありつけたのは深夜と言っていい時間になってからでした……。
もう1話、門倉主任視点の番外編があります。




