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最終話

「あ、そうだ。俺さ、来週もう卒検なんだ」


「……ソッケン?」

「自動車学校の卒業検定だよ」

「えっ!もう? 私なんて、まだ仮免もとってないよ?」

「あぁ、ほら。俺はオフの間に卒業しないといけないから、けっこう詰めて技能も学科も受けてたんだ。 そもそもそういう無理がきくっていうから、寮の近くの大手教習所じゃなくて、今の所に入校を決めたんだよ。 加奈ちゃんは大学行きながら、バイトもしながらでしょ。だったらそんなもんだよ」


そうなんだ……。

知らなかったけど、きっと毎日何時間も車校に行ってたんだろうな……。


「でね? 今月中には免許取って、速攻、車買うから。そしたらシーズン始まっても、いつでもここまで会いに来れるよ」

「それは、嬉しいけど……。車って、そんな簡単に買えるもの?」

「ん? 限定車とか人気で生産が追いつかないとかじゃなければ、納車にはそんな時間かからないと思うよ?」

――って、そういう意味じゃなくって!


「違うよ。その簡単じゃなくて、えっと、車ってお金かかるでしょ? 中古でもそこそこするし、買ったあとも維持費かかるし、だから同年代の子達は家の車を借りて乗ってる場合が多いよ。 でも、私みたいに親元離れてると、就職するまで我慢するか、頑張ってバイトするしかないんだけど」


「あぁ……。 そっか、加奈ちゃんって野球だけじゃなくって選手の懐事情も全然知らないんだ。 あのさ、子供の頃から野球やってる人間なんてそれこそすごい数いるけど、プロになれるのはほんのひと握りなんだよね」

「うん、そのくらいは私も知ってる」


「ってことはね、プロの野球選手になるっていうのは、けっこうすごい事なんだよね。……自分で言うのもなんだけどさ……」

「そっか、そうだね。……で?」

「うん……。そこまで狭き門をくぐり抜けてプロ野球選手になったからには、それ相応の待遇が待ってるんだよ。……ぶっちゃけて言うと、年俸。つまり給料だね」


「年俸……?」

「そう、年単位で評価されて次の年の年収が決まるんだ。 新人は契約時にその提示を受けるんだけど、俺はドラフト1位で指名もらったから、最初からそれなりにもらってるんだよ。契約金が数千万で、年俸が数百万って言えばわかってもらえる?」

「……え??」

「もちろん、そっから色々引かれるから実際にはその6割くらいなんだけど、それでも車は十分買えるでしょ? 今年は新人王も取れたし、来年の年俸も実はもう決まってて、今年より数千万アップだったんだよ」


「…………」

もう、あまりにも別世界の数字に、言葉が出てこない。

「驚くよね。 俺も最初聞いたときはびっくりして足が震えたもん。 でも、よく考えたらプロでいられるのは長くても10~15年くらいで、実際はもっと短いことの方が多いんだ。 成績が悪いと戦力外っていう名のクビもありえるしね。 だから、先のこと考えて今のうちにしっかり活躍して、稼いでおかないとダメなんだよね」

「……へぇ~。なんか、すごいんだね」


今更のように、クリスマスのあの豪勢な食事やホテルやプレゼントを思い出して、そういう事かと納得する。

実は、19歳にしてかなりのお金持ちってことなんだね。

もちろん、将来のこと考えて無駄使いなんて出来ないだろうけど。



「――ねぇ、もういい?」

さっきまでかわいいワンコの顔してたのに、急にオトコの顔つきになっていて思わず後ずさる。

「な……なにが?」

「だからさ、もう、話しは終わったよね? ――さっきの続き、してもいい?」

「えっ……あっ! んっっ!!」


まだいいともなんとも言ってないのに、あっという間に唇を塞がれた。

すぐに舌が入ってきて、どんどんキスが深くなる。

夢中でキスに応えていると、さっと抱き上げられてベッドに運ばれた。


「もうさ、ずう~っと加奈ちゃんに触れられなくて、夢にまで出てきたんだよね。 加奈ちゃん不足で死にそうだったよ。 だから……もう、絶対離れていかないで」

急に真面目な顔になってそんなこと言うから……

「えっ?!加奈ちゃん?」


私は自分でも気付かないうちに、ポロポロと涙を流していたらしい。

「え……? あれ?……」

ベッドに仰向けのまま、ポロポロと泣いている私に、上から覆いかぶさるようにして、やさしくキスで涙を吸い取ってくれる大輝君。


――ずっと、不安だった。

「離れていかないで」

そう言いたいのは、私の方だった。


なのに、真面目な顔で大輝君にそれを言われて、本当に嬉しかった。

私だけじゃない、大輝君も私と離れたくないんだと実感して。


「絶対、離れないから」

涙が残る目でジッと見つめてそう言うと、大好きなあの笑顔を返してくれた。


教習所で出会ったでっかいワンコは、これからもずっと、私だけのかわいい恋人。

大好きなその笑顔に手を伸ばして引き寄せると、そっと唇が重なった。

「もう、その顔反則。……大好きだよ、加奈ちゃん」

大きなカラダに抱きしめられながら、私は今、世界一幸せだと確信した。




 







これで完結ですが、後日談として番外編があと2話あります。


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