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第22話

大輝君に向き合い、ひとつずつ説明する。


門倉主任はバイト先の上司で、あの日は成り行きでイベントに行くことになり、成り行きで恋人のように扱われてしまったこと。

彼に対して全く恋愛感情なんてないこと。

門倉主任の方も、私のことを好きだとか言ってるけど、実際は自分になびかない珍しい女をからかっているだけだってこと。

今日も勝手に駅まで迎えに来て、強引に送られたこと。


それから、大輝君がプロ野球の選手だとか、想像もしてなかったこと。

そんな大事なことを話してもらえていなかったのが、すごくショックだったこと。

その理由として思いついたのが、オフの間だけの彼女なんじゃないかということ。

そういうことを聞かされるのが怖くて、予定より早く実家に帰った(逃げた)こと。

実家でたっぷり考えてわかったのは、やっぱり大輝君が大好きだってこと。



色々と恥ずかしいことも打ち明けたので、全て話し終えるころには、珍しく顔が火照ってしまっていた。

きっと、赤くなっているに違いない。


そんな私を優しく抱きしめる大輝君。

そのままチュっチュっと軽いキスを何度かされて、見つめあった。

久しぶりに見る、満面の笑顔。

その目にはもう、一切の不安も曇りもない。


「……よかった。 加奈ちゃん、俺のこと大好きなんだ?」

……さっきそう言ったじゃない~~。

また顔が赤くなりそうで、ふいっと横を向いた。


「俺さぁ、もう本当にダメなんだとばかり思ってたから、今日ここに来るの、すごく怖かったんだ。でもそれ以上に、もう加奈ちゃんに会えなくなるのがもっと怖かった。なんとかやり直せないか、やれるだけやってみようってそう思って、ずっとアパートの近くで待ってたんだ」


「え……?ずっとって……。そう言えば、帰る時間とか知らせてなかったのに、ちょうどよくアパートに来たよね……?」

「うん……。本当は今日くらい連絡してもいいかなって思ったんだけど、LINEで連絡はしないでってことだったから、やっぱり出来なかった。でも、寮にいても落ち着かなくて、お昼くらいからアパートの向かいのコンビニと、となりの公園を往復してた」


「――お昼から?って、じゃあ、4~5時間も……?」

「う~ん、それくらいかなあ? なんか、色々考えて余裕なかったから時間の感覚がなくなってたよ」

「でも、そんなに長時間この辺ウロウロしてて、誰かに見つかったりしなかったの? 例の「変装」してたの?」

「変装?……あぁ、帽子とかメガネとか?……そういや、今日は何もしてなかった。マジでそんなこと考える余裕もなく寮を出てきちゃったからなぁ。……多分、ピリピリしてたし、話しかけられる雰囲気じゃなかったと思うよ、我ながら」

そうか、そういえば、そんなオーラも出せる人だった。


「でも、門倉さんの車から加奈ちゃんが降りて来た時は、ハンマーで頭殴られた位の衝撃だったな。これはもう手遅れだって事なのかと目の前が真っ暗になったよ。 ちょうど公園でホットコーヒー飲んでたんだけど、気付いたら走り出してたもんなぁ。あ、あのコーヒー、公園に置いたままだ……」

「本当に、主任があそこまで強引だとは思わなくて。やっぱり御曹司だけあってオレ様なんだよね。 私をからかって遊ぶのいい加減やめて欲しいのに、まだ飽きないみたいで……」

はぁ~とため息混じりに言うと、大輝君の笑顔が消えて真剣な顔になった。

……どうかしたの??


「あのね、加奈ちゃん。こんな事、本当は言いたくもないんだけど、そこまで無防備だと心配だからやっぱり言っておく」

「はい?」

え……。どうしたの? そんな切羽詰った顔して……。


「門倉さんは、本当に本気だから」

「は?」

「だから! あの人、本気で加奈ちゃんのこと好きなんだよ。なんでわかんないの? 全く隠そうともしてないじゃん。俺のこと、ジャマで仕方ないって、さっさと別れろよって、全身でそう言ってたじゃん!……あ~~!思い出しただけで、超ムカつく!!」


え~~っと。何を言ってるの?大輝君。

そんなわけ、ない……よねぇ~??


「俺さ、あの日イベントが終わってすぐ、門倉さんに電話したんだよ。山野辺さんに番号聞き出して」

そう言えば、門倉主任もそんなこと言ってたっけ……。


「俺、イベントの時、門倉さんっていう超VIPが恋人を連れてきてるって聞いて、で、その恋人っていうのが加奈ちゃんで、本当に頭真っ白になって、しばらくは何も考えられなかったんだけど、ちょっと落ち着いたらそんなはずはないってそう思ったんだ。 俺に対する加奈ちゃんの気持ちを信じてたし、俺と付き合いながら、門倉さんとも付き合うなんてそんなこと加奈ちゃんがするわけないって思ってた。 そこは疑ってなかったんだけど、あの時、俺を見てショックを受けた加奈ちゃんはそのあと全くこっちを見なくなって、門倉さんに守られるように出て行ってしまった。 その門倉さんは本気で心配そうに加奈ちゃんを見てるし、このまま2人で行ってしまったら加奈ちゃんの気持ちが門倉さんの方に行くんじゃないかって、そう思った。 だから・・LINEで実家に帰るって聞いても、予定より早いしすぐには信じられなくて、もしかしたらショック状態のまま門倉さんに口説かれて家にでも連れ込まれてるんじゃないかって、それで焦って門倉さんに電話したんだ」


そんなこと、考えてたの……?

私が門倉さんとなんて、そんなのありえないのに。


「電話して、加奈ちゃんが門倉さんとは一緒にいないってことがわかってホッとしたけど、その時宣戦布告されたよ」

「宣戦布告……?」


「そう。彼女を傷つけた君には、彼氏でいる資格なんてないってね。 加奈ちゃんもそう思ってるようなことも匂わされたし、自分は本気だからすぐに君のことを忘れさせてみせるって、そう宣言されたんだ。 自信たっぷりな口ぶりだったから、てっきりもう2人の気持ちはある程度通じ合っているのかと思って、焦ってまた加奈ちゃんに電話してLINEも送ったけど、なかなか返事がなくてもうダメだと本気で思ったよ」


「主任がそんなことを? 私、たしかにショックは受けてたけど、でも大輝君を好きだって気持ちは変わらなかったし、むしろ、好きだからこそどうしていいのかわからなかったのに。 門倉主任のことなんて本当に考える余裕もなかったくらい。……どうして主任はそんな……」

「だから、加奈ちゃんのことが本気で好きだからだよ。 何とかして、加奈ちゃんの気持ちを自分の方へ向けたくて、それには俺の存在がジャマだったんだろう。 実際、あれだけモテる人だしね。俺から奪う自信もあったんだと思うよ。」

「でも……!」


「うん、でも、加奈ちゃんはその辺の女とは違うってこと、門倉さんもわかってたはずなのにね? もしかしたら、簡単に自分になびいてたら、それはそれで加奈ちゃんに対する気持ちも醒めたのかもしれない。……そう考えると、なんか気の毒な人だって気がしてきた」


――本当にね。 

門倉主任が本気で好きになる女性の条件が、自分になびかない人……なんだとしたら。

そんなの、不毛すぎて笑い話にもならない。

でももう、主任のことはこのくらいでよくない?

私たち2人のことを、ちゃんと話したい。



「それじゃあこれからも……野球が始まってからも、お付き合い続けられるってことでいい?」

「もちろんだよ! そうじゃないと、また泣くよ?」

「ふふっ。あの泣き顔、実はかわいくてツボだったって言ったら怒る?」

「か……!かわいいって! 男がそんなこと言われて嬉しいわけないじゃないか……! あのね?かわいいのは、加奈ちゃん。もう超かわいくてたまんない」

ん~~って言いながらキスしてきたその顔を、寸前でペチっとたたく。


「えっ!なんで??」

「ちゃんと話がしたいの!」

「……話?そんなの、いつでも出来るし・・俺はそれより何より、今は加奈ちゃんが欲し――」

「……大輝くん?」

ジロッと睨むフリをすると、途端にシュンとなる。

あ~、かわいい。

なんか、いつの間にか、今まで通りのラブラブ状態!



「それで、大輝君はこの先忙しくなるんだよね?」

「うん、もうすぐ自主トレとか始まるし、実は2月の頭からキャンプに入るんだよね。……そうしたら基本2月いっぱいキャンプ地に行きっぱなしなんだ……」


「えっ……。1ヶ月帰ってこないの? それって、電話とかも出来ないとか……?」

「そんなことないよ。夜はけっこう時間あると思うし、昼でも練習中でなければ電話も出来るよ」

「……うん、それならなんとか、我慢できる……かも」

「かもって~? 我慢できなくても、他の男のところに行かないでよ!」

「行かないよ! 私がそんなことしないってわかってるでしょ?……大輝くんこそ、会えないからって他の子のところに行かないでよ……?」

私よりも、人気者の大輝君の方がよっぽど心配だよ。


「当たり前だろ? 俺は加奈ちゃんにしか興味ない! 加奈ちゃんにしか欲情しないし、もちろん、加奈ちゃんじゃないと勃たな――」

「わ~! わかったから!」

なんてこと言うのよ、もう!


「でも、やっぱり1ヶ月はキツイから、出来ればキャンプ見学しに来ない?」

「え? いいの?」

「うん、けっこうファンの人とかたくさん来るんだよ。……加奈ちゃんが来てくれたら、すごい頑張れそうだし」

「そっか……。うん、私も会いたくなるだろうし、2月の初めには学校の試験も終わるから、行こうかな」

野球をしてる大輝君も見てみたいしね。



「――それで、本格的に野球が始まったら、もっと会えなくなるの?」

「う~~ん。ホームでの試合なら地元だから、試合終わってからとか会えると思うよ。 ただ、シーズンの半分くらいは他球場での試合になるから、その時は何日か会えなくなるね……」


「そっか……。うん、でも大丈夫。 野球の試合ってテレビであるよね? それ見て応援する」

そう言って笑ってみせると、また抱きしめられた。


「も~~、やっぱ、かわいい! それじゃあ俺も、毎回試合に出してもらえるように頑張らないと……! で、ガンガン活躍して、しっかりテレビに映らないとね」

ニッコリ笑顔の大輝君に、やっぱりキュンキュンしてしまった。









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