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第20話

「どこかで食事でもしていかないか?」


信号で停まった時に、ニッコリ笑ってそう言われたけど、いえ私、今日はそれどころじゃないんです。

「せっかくですけど、今日はこれから予定があるんです」

そう……帰ったら連絡するって大輝君に言ってある。

大輝君の都合はわからないけど、今日帰るって言ってあるから、もしかしたら連絡を待ってくれているかもしれない。

――ううん、待っていて欲しい。


実はかなり不安でもあるんだ。

私が最後にLINEをしてから、大輝君からは本当に全く連絡がない。

もちろん、私がそうしてって言ったからだと思いたいけど、もしかしたらそうじゃなくて、大輝君の意思で連絡をしないってこともありえるから。

もう、彼の気持ちが離れてしまったってことも十分ありえるんだ。


「次に誘った時はいい返事をしてくれって、言ったはずだけど?」

「それは主任が勝手に……私は了承してませんよね?」

「まぁ、そうなんだけど。 で、その予定っていうのは、高橋君に関係あるのかな?」


返事をするまでもなく、その名前を聞くだけでビクッと反応してしまった私を見て、主任には悟られてしまった。

「ちゃんと話をした方がいいって言ったのは僕だからな。それなら、今日は仕方ないか。……あいつと会うっていうのは、気分が良くはないけどね」


……そんなの、主任には関係ないって言ってやりたいけど、そんなこと言ったらまたメンドくさい事を言われそうなので、黙って聞き流す。

本当に、いつまでこのネタを続けるつもりなんだか。

早く飽きてくれればいいのに。

私がイチイチ反応しない方がいいのかもしれないな。



そうこうするうちに外は見慣れた風景になっていて、あと少しで私のアパートの前に着くくらい、近所まできていた。


「あの、駅前で降ろしてもらったら大丈夫ですけど」

って言ってる途中で、アパート前に車が停まった。

「……え? あれ?……なんで――」

「一応、君のバイト先の責任者だからな。 住所くらい知ってるさ」


――たしかに履歴書見れば住所もわかるだろうけど、でも、こんな使い方はやっぱり公私混同なんじゃないの?

そうは思ったけど、さっき考えたようにイチイチ反応しないことにした。


「それじゃあ、わざわざ送って頂いてありがとうございました」

お礼を言ってサッと車を降り、アパートへ向かおうとしていたところに、主任が手に何かを持って車を降りてきた。


あ、私の(っていうかお母さんの)トートバック!

危うく忘れるところだった。


「すみません――」

そう言ってトートバックを受け取った瞬間、後ろからグイっと腕を掴まれて、大きな硬いカラダに抱き寄せられた。


驚いて振り向くと、ギリギリと音がしそうなほど歯を食いしばって、門倉主任を睨みつけている大輝君がいた!

「えっ!? 大輝君? どうして……」


大輝君は私を抱き寄せる腕を緩めることなく、主任をまっすぐ鋭い目で見つめている。

対する主任も珍しく笑みを消した表情で、大輝君をジッと見ている。


――なに?これ。


なんだか修羅場っぽい空気が満ちているんだけど、どうしてそんな……。

そこまで考えて、ハッと思い出す。

そう言えば、大輝君って私と主任の関係を誤解してるかもしれないんだった!

私の口からちゃんと誤解を解くってことも、今日会う目的のひとつだったのだ。


「――門倉さん……。加奈ちゃんを送ってくれたのは礼を言いますけど、もう彼女には関わらないで下さい。……彼女には、俺がいますから」

「違うの、大輝君!この人はそんなんじゃ――」

「自分の事を隠して付き合ってた君に、彼氏ヅラする権利なんてあるのか? それに、彼女に関わらないなんてことは出来ないな。……僕にとって大事な人だし、必要な人だから」

「なっ……!!」


――主任! なんて事を言ってくれるんですか!

大事とか、必要とか、それはお店のスタッフとしてってことでしょう?

そんな、思いっきり誤解を招く言い方、わざとするなんて意地悪すぎです!


「本当は、君には言いたいことがたくさんあるんだ。 ただ、君との事にケジメをつけるのは、僕じゃなく彼女自身がすることだからな。だから、今日はこのまま帰るよ」

……一体この人はさっきから何を言ってるんだろう……と呆然としたまま何も言えないでいる私に、主任は笑顔で一番の爆弾を落としていった……!


「じゃあね。 ――きちんと彼と別れ話をするんだよ。 また、連絡する」

後ろから私に回していた大輝君の腕にグッと力が入り、思わず「うっ」と声が漏れる。

その横を、シルバーのアウディがゆっくりと通り過ぎて行った。








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