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第19話

3日の夕方、新幹線を降りて改札を出ると……なんで?

そこには、門倉主任が人待ち顔で立っていた。


相変わらず、人目を引く主任は、立ってるだけで様になる。

道行く女性が、何人もチラチラと主任の方を見ているし。

気付かれないように通り過ぎたかったけど、さすがに改札ではそれは無理だった。


「おかえり」

「……なんで新幹線の時間、知ってるんですか……」

「あぁ、それ。君に聞いても教えてくれなさそうだったから、実家のお母さんに聞いたんだ」

「は?」

「ファミレスの履歴書に携帯以外の連絡先、実家の電話番号を書いただろう? バイト先の責任者って言ったら、どの新幹線に乗るかすぐに教えてくれたよ。くれぐれも娘をよろしくお願いしますって……いいお母さんだな」

「……主任。それは職権乱用っていうんじゃないですか?」

「人聞きが悪いな。僕は君のお母さんから娘をよろしくって頼まれてるんだから、迎えに来て家まで送って行くくらいは普通じゃないか?」


――いいえ、普通じゃありません。

実家にいる間も、スマホの電源を入れるたびに主任からの着歴があって、正直ちょっとうんざりした。


大輝君からは、私が連絡をしないでってLINEしたからか、本当に全く何もなかったから、余計にイラついたのかもしれない……。

勝手なハナシだけど。


「年末に、覚悟しておいてくれって言ったよな? ちょっとここで頑張らないと、目標達成が難しくなりそうだからな。 最初から僕には不利な状況なんだから、多少強引に行かないと勝ち目がないくらいは自覚してるんだよ。だから……」

そこで、手に持っていた大きめのトートバックをサッと奪われた。


行きはショルダーバックひとつだったけど、母にあれもこれもと食料を持たされ、帰りはこのトートバックの分が増えたのだ。


「あのっ……! 返して下さい。」

「ほら、急いで行くよ。すぐそこに車を停めてるから」

主任は私の抗議の言葉なんかまるで聞く耳持たず、いつの間にか私の手を取って歩き出す。


「ちょっ……。主任、待ってくださいってば!」

ほとんど引っ張られるようにして、シルバーの高級車(アウディだと後から知った)のところまで連れて行かれた。


「どうぞ?お嬢さん」

後部座席に私のバックを乗せ、助手席のドアを開けてにこやかに微笑む主任に、諦めのため息と共にそのまま乗り込んだ。


「本当に強引ですね。 私をからかって遊ぶにしては、やりすぎじゃないですか? そんなにヒマじゃないと思ってましたけど」

相変わらず流れるようなギアチェンジで、どんどん加速していく高級車。

本革シートの座り心地も、昨日まで乗っていた実家の車とは雲泥の差だ。

「からかう? 自分でも驚くくらい本気だって言っただろう。ヒマなんて全くないのに、こうやって君を迎えに来てしまうくらいなんだからさ」


――いえ、とてもそうは思えません……。

今のセリフを言った顔を見ても、面白がってるようにしか見えないです……。

でも、何度そう言っても本気だって言い張るんでしょうね……。


「まさか、仕事サボって迎えに来たわけじゃないですよね?」

「まさか。ちゃんと店長に少しの間、2人分働いててくれって頼んできたさ」


―――それって、言い方変えればサボったってことじゃないでしょうか……。

ただ、主任が仕事に関してはものすごく責任感が強いのは知ってるから、こんな言い方してるけど本当は今日は休みなんだろう、きっと。


年中無休のファミレスだけど、大晦日から元日はさすがに人手が足りなかっただろうから、主任はずっと仕事してたんじゃないかな……。

店が忙しい時は大抵主任がいて、うまく回ってない業務をさりげなく手伝ってたりするのだ。


これまで本社から来た社員さんといえば、どれだけ忙しい時でも事務室にこもりきりが普通だった。

稼働率やら集客率の統計しか見てなくて、もっと効率よくとか短時間で客を回せとか、小言だけは店長にしょっちゅう言ってたのを聞いたことがある。

それなら自分も動けばいいのにって、何度思ったことか。


門倉主任はそういうことを普通にやってくれるので、店長以下、スタッフの信頼は厚い。


そう、悪い人ではないんだよね……。

私をからかって遊んだりしなければ、すごくいい人。

仕事の面では、理想の上司かもしれない。

大企業のトップに立つっていうのも、門倉主任なら大丈夫だろうって思う。






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