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第17話

そのまま車は走り出し、帰るまでの間、黙りがちな私に何かと主任が話しかけてきた。

心遣いはありがたいけど、本当にしゃべる気力もなくてほとんど一方通行な会話となってしまった。

主任もこれに懲りて、もう私を誘おうとか思わないでくれたらいいんだけど。


家まで送るという主任に、どうしてもと最寄り駅で下ろしてもらった。

主任は不満そうだったけど、最終的には諦めてくれたようだ。


主任が私を……なんて、絶対におかしいから。

自分になびかない女を振り向かせたいって、それだけでしょう?

その気持ちを勘違いしてるだけだと思う。


最寄駅でしばらくぼんやりと佇んでいると、急に何もかもがイヤになってきた。

明日と明後日、半日ずつバイトが入っているけど、しばらくは主任に会うのも辛い。


主任を見るとどうしても今日のことを……大輝君のことを考えてしまうから。

携帯を取り出し、バイトのLINEグループで誰か代わりに入れないか聞いてみる。

するとほとんど待つことなく、同じ学校の女の子が代わりに入ってくれることになった。

助かった……。


で、さっきから気になっていた大輝君からのLINE。

震える指で開いてみる。


 『今日、仕事が終わったら部屋に行く』


大輝君らしくない、簡潔な文章。

いつもの大げさなスタンプもない。


今の状況でそんなの当たり前かもしれないけど、でもそれだけで何か悪い話をされるんじゃないかと思ってしまう。


怖い……。大輝君に会うのが怖い。

会ったらやっぱり、今まで通りとはいかない……よね。

私が本当の事を知ってしまったんだから。


野球のシーズンが始まったら、もう会えないって言われるんだ、きっと。

それで、付き合ってたことは誰にも言わないでくれ、とか。


相手がプロ野球の人気選手なら、それも仕方のないことかもしれない。

でも、今はダメ。

まだそんな言葉を聞く心の準備は出来ていない。

でも、どうしたら――――


その時の私は、逃げ出すことしか考えられなくて、そのままアパートには帰らずに新幹線が停まる大きな駅に向かった。


元々自由席で帰るつもりで、切符もまだ買っていなかった。

帰省ラッシュの時期だが、始発駅だし並べばなんとか乗れるだろう。

帰省費用も口座から下ろして財布に入っているし、実家に帰るだけなら荷物も特に必要ない。

服も化粧品も必要なものは実家にも置いてある。


予定より2~3日早く帰ったところで、実家の両親は何とも思わないだろう。

今が年末でよかったのかもしれない。


逃げても何も解決しないのはわかっている。

問題を先延ばしにするだけだということも。

それでも、今はもう、これ以上何も考えたくなかった。


それほどに今日のことは私にとってショックだったのだ。

そして私は、そのままアパートには戻らずに新幹線に乗って実家へ帰ることにした。



なんとか新幹線に乗り込んだ後、大輝君にLINEの返信をした。

早めに実家に帰ることになったから、今日からしばらくアパートには帰らない……と。

すぐにまたLINEが来ていたようだけど、とにかく何も考えたくなかったから、開かなかった。

そしたら、しばらくしてから着信があったけど、新幹線の中ということもあり、それもスルーしてそのまま電源を落とした。






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