旦那様とかお義母さんとか第一次歪大戦とか!?
「まあ〜歪くん、お肌もちもちねー♪」
むにむにむに
「違うよ〜。歪くんのほっぺはさらさらすべすべなんだよ」
さわさわさわ
「そうか〜。どーれお父さんも」
「あなたはそのペンチどっから持ってきたのよ〜♪ どっせえい♪」
グワシャ!!
「ゲボラゴフッ♪」
ズシャアアアアアン……。
おやっさああああああああん!!?
なにこれなんてコント?
ていうか帰っちゃ駄目!?
ガギリッ!!
んあ? なんかナナメ向かいと隣からまるでグラスを噛みちぎろうとしてるかのような嫌な音と溢れんばかりの殺意を感じないことも……ない……? ハッ!!?
急激に猛烈な殺気を感じて振り返ると、通路側で顔をこねくり回されてるおれを、害虫を見るような目で睨みつけるやじりと、あわあわと涙を瞳いっぱいにたたえて、紐を公園のポールに結ばれたまま放置されそうになってるチワワみたいに、ウルウルした目でおれに無言で訴えかけているのが視界に飛び込んできた。
バギン!!
って噛みちぎったよ!!?
お前けっこう戦闘民族だよな!! そういや!!?
「歪くん♪」
「歪くん♪」
『バキリメキメキパリィン!! パラパラパラ……』
(どうしよう大人版牙とおれの好きな牙にこんなされてんのも……そんなに悪い気はしないけどこの後の命の保証は無いに等しい……)
柔らかい手のひらに両頬を包まれている、なんとも心地よい感覚に溺れていられるならいたいけれども、まずはこの場の空気が痛い。痛すぎる。
「え、えーっと、おばさん、珈琲を……一杯ください」
「もう……お義母さんでいいのよ……?」
「……え」
「“貴方”って……呼んじゃダメですか……?」
「……え」
「こんなお義母さんは……イヤ……?」
「えっ……そんな」
「あたし、歪くんのために毎日お味噌汁つくりますから……」
「え、えと……」
「ヒック……スン……ウッ……ばか……ばかぁぁ」
「え…と」
「天地を創りし創世の火よ、虚無から生まれし無慈悲なモノよ。我らともども彼を焼け……大いなる流れへ全てを戻せ……も、もぅ……せめて来世では……私と……グズ」
「そこ!!? いろいろ謝るから物騒極まりない滅びの呪文アドリブ詠唱しないで!!?」
「私たちよりあの子たちが気になるのぉ? イケナイ子ねえ♪」
「お母さん? 歪くんは、あたしの旦那様なんだよ? お母さんはついでなんだからね、つ・い・で!!」
「むぎゃああああ!!! もーう我慢ならないわ!! 決闘よ!!決闘しなさい!! 歪と歪との交際権を賭けて、勝負しなさい!!?」
ぷにぷにとおれの頬をつつきながら、牙と牙母が妖しげな微笑みをおれに向けながら、ちらっとやじりと御影に不敵な笑みを向けたその瞬間、嫌な予感はしてました。
ハイ、正直に言います。
嫌な予感しかしてませんでした。
パリイン、と三つ目のグラスを握りつぶしながら、勢いよくやじりが立ち上がった瞬間、それは確信に変わりました。
「ん? あなたは……やじり先輩ちゃんかなあ。うちの牙がいつもお世話になってるみたいだけど、未来のお婿さんを、そうそう簡単には渡せないわねえ」
「うるっさい年増のくせに!! 歪は私の夫よ!! 誰にも渡さないんだからあ!!」
と、決闘が成立した瞬間、おれははじめて、その事の重大さに気づかされました。
……御影が立ち上がった。
「ッッッ!!」
おれはとっさに危険に気づいて、左手の薬指を唇に持っていった。
……瞬間だった。
パアアン!! 、と、辺り一体の店の景観が、捻じり裂かれたように消し飛んだのだ。
「ごあああ!!?」
ドン、という衝撃波の波に吹き飛ばされ、かろうじて残っていた壁に叩きつけられ、床に突っ伏した。
痛みは、ない。
だけど、とんでもなくヤバいことになったのは間違いねえ……!!
街のど真ん中で、クレーターと大爆発を魔力の放出だけで作り出したあのどす黒いオーラを纏った御影と、呪文障壁で全くの無傷なやじりと、魔力の欠片をほんの少しふりまいたのか、悠然と仁王立ちをしている牙親子。
ああ……ヤバい。絶対これヤバイよう。
「歪ニ触ラナイデ……ぼくハ歪にキスマデ捧タンダ。初メテノキスダモン。歪モソウダッテ言ッテタモン。歪ハぼくノモノダ!!」
「……へぇ。死んで贖う?」
「キスは捧げたうちに入らないわよお? ABCのAじゃないの」
「もぅ……お母さんは気が早いのよ!!」
「殺ス!!!!」
「殺してやるわ!!!!」
「「いいでしょう。かかっておいでください♪」」
「ああ……ああああ……」
おろおろと三者をきょろきょろ見ていたおれだったが、なんか優勝商品にされてる以上、逃げ出したら後が怖すぎる。
かと言って、ここで今から何がはじまるのかもマジで考えたくない。
と、とりあえず……
「そこの野次馬ども、死にたくなけりゃ早く逃げとけ!!!!?」
「「それじゃあ、第一次」」
「歪大戦」
「皆殺スタートダネ!!!」
「うわ、うわあああああああっ」
ドズゥゥゥゥン!!!




