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お出かけとか新キャラとかみんなでごはんとか

午後からは太陽が雲に隠れ、比較的涼しくなってきた。


でも雨が降るという予報も出ていないので、久しぶりに街に繰り出してきたおれは、人の多さやガラスウインドウの立ち並ぶ賑やかな喧騒に、思ったよりウキウキしていた。


いやあ、普段無気力青少年やってるから、たまーにこういうとこにくると目新しくていいなっ!


欲しかった新しいベルト買っちゃおうかなー。うふふ。そんで、針を隠し持てるように、やじりに改造してもらうんだっ。あーでも色違いが何色もあるし、うむむ、どれにしよっかなあ・・・。


と、そこまで考えて、歪の思考がピタリと止まった。


え、あれ。

なんだろ。胸が・・・どきどきする。

いつもやじりに直してもらってたから、別におかしいことじゃないはずだよな。うん。でも、あれっ?


やじりのところに持って行くだけなのに、なんかおれ、無性に嬉しがってるような・・・。


いや、それは新しいベルトが嬉しいのであって、べ、べべべ別にあれから会えてないやじりに会いたいとか、お裁縫してるやじりを見たい気もするとか、行くとしたらあいつの好きな梨でも買って行ってやったら喜ぶかなあとか、決してそんなことは思ってないんだけどもね・・・。


って何を言い訳してるんだおれっ!?


ぷしゅううううう、と湯気をあげて真っ赤になって頭を抱えるおれを、後ろからぞろぞろついてきた美女、美形さまの御一行は、それぞれ頭に特大のたんこぶをつくりながらのほほんとその様子を眺めていた。


「あぁ・・・ひーくん元気になったあ。よかったあ」


「くはっ。はぁはぁ。坊っちゃま。悶える姿も立派になられて。あたくしは嬉しいですわあ。・・・でも、それがあたくしではなく他の、しかもたかが人間風情にその気持ちが向いているなんて、アア妬ましや羨ましや・・・ギリィ!!」


「ぐふぅっ・・・その身悶えは反則にございますぅ・・・歪様ぁ」


「ギイブミイイイイイ! ユウウア! ハアアアアアアアトオォォォォ!!!」


「あはっあはあはっあはははははいっただっきまああああす!!!」


・・・・・・懲りないですねえ。


「曲月流貞操護身術そのに〜。いい加減にしろやァ暴君の裏拳んんん!! 存!在!の! 強制終了 ォォォォォォオオオオオ!!!!」


ズバゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオンン!!!!!!!!!!




「ふわぁん・・・ひーくん・・・やんちゃさんなんだからあ☆」


「くはっ! 坊っちゃま!! 御立派になられてえええ!!」


「ぐふぅぅぅぅっじゅるりぶはあっ!・・・歪様・・・その刺激的な拳・・・・反・・・則・・・・ッッッッ!!」


「ハッハアアア!! ナイスパアアアアアアアンチイイイイイ!!!!」


「うふふっうふうふっうふふふごっちそうさまでしたあああ!!!!」






ゴゴゴォン、と爆音と共に、姿形跡形もなく消し飛ばされてゆく魑魅魍魎、もののけ悪魔精霊に神の類。


しかしさすがは別次元の最強級個体。

もはや消し飛ぶことになんら抵抗はなく、むしろ余裕さえかいま見えるというゴキ虫属性・・・。


ようし、次は一撃で粉砕せず、じわじわ痛みを与えてみよう。


おれはパラパラと粒子が風に舞っていく様を眺めながら、一人唇を歪めるのであったが、それでも、一人で悩むよりも、ずっと気が楽になっているおれなのであった。


「ははッ♪」








・・・・・その頃、街の反対側の路地裏に、一人の怪しい影がふっと姿を現した。


マンホールの模様にカムフラージュした、転移魔法陣らしきものがまだ魔力を帯びてうすく光っているから、恐らくは魔法使いなのだろう。


ワインレッドのロングコートをゆったりと巻きつけてフードで顔を隠したその人影は、あたりをきょろきょろと見回して、くんくんと空気の匂いを嗅いだ。そして、すぐにニヤリと黒い笑みを浮かべる。


さっとコートをなびかせて素早く歩き出した時には、その両の眼には爛々とした輝きが灯っていた。


「ギヒッ♪ 見つけた! 見つけた! 最悪の家系、最悪の血筋の、最悪の魔法♪ 待ってろ♪ 今だ。今こそ奪いに行くギヒヒッ♪」






まず遅めのお昼にすることにした俺たちが向かったのは、大通りの入り口付近にある、ピザの食べ放題のお店だ。


こう見えて、おれはピザとかジャンクフードに目がない。どこの駅前にも大抵ある、魔駆動ナルドのハンバーガーも大好きだが、喪主バーガーの照り焼きチキンもたまらない。フレッシュデスバーガーもモブウェイももちろん、分け隔てなく愛している。


そんなおれが、ピザの食べ放題の店あるのを知っていながら、その前を素通りしてやるわけがない。


食べる。


食べる食べる食べてやる。

次々に運ばれてくるピザのすべてを、もはやゲテモノの域であるスイーツピザを、そしてもちろんスープにパスタにピラフポテトチキンのトマト煮に至るまで、等しく平等にお腹に召してあげなくてはな!!


「なになに。お一人様ランチタイム食べ放題1480円、か。まあ、妥当だな。じゅるり」


「ううむ、だが主殿。この人数分を考えると、かなりの額になるぞ? 無理して奢ることはない。我らとて、金銭に困っているわけではないのだから・・・」


心配そうに気遣いの声をかけてきたのは、ルルゴンドルンだ。


「少なくともこの場に主殿を含めて14人。軽く諭吉二人とサヨナラ覚悟コースであるぞ?」


「くはぁぁぁ。ならルルゴンドルン殿、あなたは自腹でお食べなさいですわ。あたくしはもう、坊っちゃまに奢ってもらえると聞いた瞬間から、坊っちゃま優しい坊っちゃまマジ天使ドキドキ気分で、奢られる腹づもりになっちゃってるのですわ。これはもう一生ついて行くしかないと心に決めちゃったのですわよ!!」


「すごいこと言ってる割には決心したのはついさっきなのであるなっ!? し、しかし、これだけの額は、いち学生には厳しいのではないかと我は思ってだな・・・」


なんだかんだ言っても、やっぱり一番最初に契約しただけあって、ルルゴンドルンはきちんとおれを気遣ってくれるよな。おれはなんだかそれがちょっとだけ嬉しかった。


「なあに、気にすんなって。大丈夫。おれに任せとけ。考えがあるんだ」


ここは主人らしく、どんと胸を叩いてそっくり返ってみる。

第一、ぶっちゃけそんなに金ねえよ。それでも全員に飯を食わせてやるくらいは、朝飯前だってーの!


「なっ。アエルイリヤ」

おれはごっちゃりと固まった悪魔神族精霊の中の、最前列にいた、小柄な姿の精霊に向かってウインクした。


「ふえぇっ? わた、わたし!?」

突然に話題をフられた精霊はビクッと飛び上がって、おろおろと視線を下げる。オレンジに縦縞の入ったワンピースを来て、上から白いレースをあしらった可愛らしい上着をきているそいつは、いきなり話題をフられたことでびっくりしたらしく、おろおろと視線を泳がせた。


「今こそお前の出番だろ。アエルイリヤ。お前の力を貸してくれ!」


「ひ・・・ひーくん・・・」


ぽおおお、っとアエルイリヤの頬が赤くなる。おれが手をすっと差し出すと、アエルイリヤは熱っぽくなった両の手のひらで、おれの手をそっと包み込んだ。


「ひ、久しぶりにわたしを使うね・・・・・・ひーくん。わ、わたし、その・・・・とってもうれし」


「アエルイリヤ、いいから早く! 幸運を司る精霊姫の加護さえあれば、なあに飯くらい食えるさ多分だいじょぶ大作戦なんだから☆」


いつになくハキハキ元気いっぱいな歪。

せっかく手をつないで、久しぶりの気持ちを伝えるチャンスだったのに、もはや何も聞く耳持たなそうなくらい目がキラッキラいている。


「・・・ハイ。分かってますよ。別に、分かってましたよ・・・? だっていつものことですし・・・だってそもそもひーくんですし・・・ひーくん・・・ひーくんのばか・・・でもそんなひーくんが・・・あう・・・ううううううう」


涙目でふくれっ面になったアエルイリヤがしばらくしておれの手を話すと、おれの手の甲には鮮やかな金色の妖精文字の紋様が描かれていた。


幸運を司る妖精姫の加護の紋様。前に使ったことは一回しかないけど、これの効果のほどは折り紙付きだ。神社での夏祭りで使ったんだけど、それはそれはすさまじかった。射的をやれば一発で全部落としたし、くじをひけば特賞しか出ない。ヨーヨー釣りは何がどうなったのか芋づる式に全部釣れちまったし、アイスを食べたら「アタリ! 一年分プレゼント!」とか見たこともない棒が出た。

ヤラセとしか思えない程の幸運。まあ、ヤラセだからな。


よって今のおれは無敵なのさお分かり!?


「よおっし。これで多分だいじょーぶ! ほらほらアエルイリヤ、いくぞいくぞ!」

「ふわぁっひっ、ひーくん!」


気持ちがめちゃめちゃハイになっているおれは、何だか知らんがうじうじしているアエルイリヤの手をとって、地下にあるピザ屋ジャンキーズへと階段を駆け下りて行った。


腹はペコペコだし、この後も遊びたいし、ベルト買ったらやじりのとこにいかなきゃだもんな。


うああああ。なんか元気出てきたーっ!

「はう、ひーくん!? は、はうはう!」






「主殿は元気であるなあ」


「くはあぁ。カラ元気でも今はいいですわ。そのまま元気なのがデフォルトになってくれれば、きっと乗り越えられるはずなんですわ。坊っちゃまはご立派ですから」


「ぐふうっ。でも、でもでもォ、カラ元気に疲れちゃうこともございますぅ・・・今の歪様は反則的に危ういのでございますぅ。」


「ヒズムンツヨイコダヨオオオオウ・・・ミィ、ヒズムンガンバッテゲンキヅケルヨオオオウ」


「いまのままでは、むっくんいっただっけな〜いな〜。おらあ、ちゃんとおいしいむっくんをごっちそうにな〜りた〜い」






歪の後をちゃんとついて行きながらも、契約魔族たちは階段を音もなく滑り降りて行くのだった。


ところで、さっきから決まったメンツしかしゃべっていないのだが、そこには諸事情があるのでお許し願いたい。


歪の契約魔族は悪魔が多く、また、闇の属性に大きく傾いている曲月家の魔力性質のため、夜型魔族が多いのである。


そいつらには日の光は致命傷にはならないにしろ、まあバカにできないダメージになるので、いったん指輪に還っていたりするのである。




カランカラーン、と大張り切りでピザ屋のドアを開ける歪。

「たのもうっ!!」


パアン!!パンパーン!!

「おめでとうございます!! お客様は当店十万人目のお客様でございます!! ですので、もし差し支えなければこちらのVIPカードをどうぞー!」


「差し支えないないないです! さあ、食べるぞう、アエルイリヤっ!」


「ふわああ、はい、はいいぃ!」


「うおおおお・・・主殿のチート性能もいよいよ底が見えなくなってきたな・・・」


「坊っちゃま、あたくしがお取りしてきましょう」


「ぅぐっふぅ・・・はしゃいでる歪様・・・は、反則ですぅ」


「ナンダナンダア? ナニタベルンダアアア?」


「ぅぅおなかぺっこぺっこだよいっただっきまあああす!!」






悪魔も精霊も妖精も神様も、恋をすればみんなおんなじだな。。みんな邪悪で、みんな切なくて、みんなライバルで、でも、みんな魅力的だ。


おれはこの賑やかさに助けられながら、同時にこいつらの気持ちにも応えてやれないことが、どこか負担になりつつもある。

でも、それは仕方のないことだ。魔法族とは仮初めの契りを交わせないし、そういう関係にはなってはいけない。


これは、あくまで、契約上の関係なんだ。

楽しい会話、おいしいご飯、にこやかなひと時の合間に、歪はまたひとつ何かを諦めようとしていた。



「ひ、歪! わらわの膝に来い! ここに座れ。そしてできるだけ動け! しかしどこにもいくな!」


「!? なに言ってんの!?」


「ふわああああっ、わたっ、わたしがひーくんのおひざにいきますううぅぅ!」


「アァ!? なに舐めたこと言ってんの小娘!? 時の重圧で押しつぶしてそぼろにするわよ!!」


「だから何を言っておるのだ神族よ・・・?」


「いいぞ。今日のVIP待遇はアエルイリヤのおかげだからな。特別だ。おいで!」


「ふえぇぇぇっ!? いい、いいの? じゃ、じゃあ、おじゃま・・します・・・」

ストン。


「はああああああっ!? ひっ、歪!? わらわは!? ねえわらわは!?」


「ぐふぅ・・・ぐふうふぅ・・・歪・・・様・・・? 次は、わたくしを・・・わたくしを乗せて下さらなきゃ・・・反則でございますぅ・・・」


「なにをちゃっかり予約してるのじゃイリスミレル!?」


「くっは♪ ピザをお持ちいたしましたですわ、坊っちゃま。そうしましたら、その次はあたくしでよろしくお願いしますわ♪」


「なっ!? そなたもか死神召使!!」


「アンダルシアとお呼びくださいですわ」


「ジャアソノツギ!! ミィ、ソノツギデイイヨオオオ!!」

「んじゃあ、おらあ、そんのつっぎだあ〜」



「いや、ちょ、ミィディンギーも、ぬらりひょんも・・・」


「ぐわあっはっはっはっはっは!! 相変わらずだのうヌシ殿お!!」


「不思議だねえ〜。親方様の魔力あま〜くなってから〜、おいらなんかぼ〜っとするよ〜?」


「兄様、歪の兄様、い、色っぽくなられて・・・」


「「「んじゃあその次ってことで!!」」」

「ぅおいおまいら!?」


「ああ、我は最後で構わぬぞ。むしろ我は歪を乗せたいしな。ぐふふ。膝から初まる愛のABC、極めてみたいと思わぬか主殿?」


「思わねーよっタバスコビーム!!」


「ぐぬあああああっ!? 目がッ目がああああああああっっっ!!!」


「そなたいい加減学習すればいいのに魔族!!」


「あははっ。元気だなあっ。アタイもその次予約ねっ」

「ご主人様の上に座るなんて、不届きにも程あるであります。ご主人様、そんな者どもは放っておいて、さあ、この犬めが椅子になりますゆえ、どうぞおすわりになってください。さあどうぞさあさあ!! 」


「ぬっがああああああ、そなたらいい加減にせぬと・・・」


「わーかった、順番な順番。それとマージ、椅子になんてならんでいいから、ほらもうここ来いよ。」


「んむう。お仕置きはなし、ご褒美もなし、でありますかぁ。しょんぼりなのであります。ですが、しかしさすれどそこからの、まさかのご主人様の左隣ゲットしちゃったのでありますっ!? こ、これは、本来奥方の座られるお席でありますから、この犬には勿体無い、畏れ多い場所なので・・・ありまして・・・ですが、ですがですがご主人様はこの犬をあえてここにお呼びになられた・・・のでありますぅ。ぷ、ぷしゅうううううう!! な、なんというご褒美でありましょうかッッッッ!!?」


「泣くぞ!? そなたらばっかりなんだその甘々待遇はっ! わらわだって歪と甘々したいのに泣くぞッ!?」





内容はカオス極まりない会話だが、今の歪には空気に流されることはできてもツッコミに回る気力も頭も働かないだからまあ仕方が無い。良しとしよう。


ピザは恐ろしい速度で消費され、満足げな歪の表情を見て魔法族はぞくぞくでお腹いっぱいになりました。


ていうかそれどころか、歪の媚薬魔力は更に強さを増しているようで、一応は体内に魔力を含んではいるというだけの一般人たちも、段々にトロンとした目で歪の一挙一動を眺め始める。


近くを通りかかったウェイトレスの娘が、さりげなく自分の携帯番号とメアド、ラインIDを落としていくが、それを見逃す魔族がこの中に果たしているのだろうか。


フラグと出会いの可能性は、瞬く間に散っていたのだが、歪はもちろん知る由もない。

明るく賑やかな人気のピザ屋さんは、次第に混沌の中へと堕ちてゆくのであった・・・







ちなみにその頃・・・

「ギヒン・・・ここ、どこぉ?」


紅い耳付きフードをパタパタさせながら、ワインレッドのロングコートの影は、更に奥の路地へと入り込んでいく。


この街に充満していたターゲットの魔力の匂いが強すぎて、実は途中で完全に見失っていたのだった。


「ぎふぃぃぃぃぃん。どこだよお。勝手に迷子になられても困るんだよぉ・ギヒッギヒッ、ズズ・・・クスン」


必死に泣いてなんかいない風を装いながら、紅い影はしゃくりあげつつもう一本別の路地に入ってキョロキョロします。


実はターゲットがいるのは、今まさに歩いている道路の、真下だったりするのだが、もはやプチパニック状態の侵入者は、とりあえず道を聞きたくて交番を探しているところなのでした。



続く。

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