それでもウチのヒロインが最強すぎる ~『自称』平凡な俺と『弱点だらけ』の完璧ヒロインに、青春ラブコメなんてできるとでも?~
「ッあぁあああ! それだめ! それチートでしょ誰が抜けれんのよソレえ!」
絵具で塗りつぶしたような蒼がお天道様にかけて白くグラデーションをなびかせる、そんな夏の空の下。
耳をつんざきそうなセミの声を遮る部屋に、苦悶の叫びがこだました。個人的にはセミをはるかに凌駕する鬱陶しさだが……。そのだみ声を発する人物は俺の隣の事務椅子に身を乗り出しながら腰かけている。
桜川ひたちはコントローラを握りながらモニターに映し出された現状に吠えていた。
白熱しているのは対戦アクションゲーム。つい最近即死コンボを身につけた俺は、横に座る女子を完膚なきまでにボコボコにしていた。
熱中した桜川が前のめりになったりエビ反りしたりして亜麻色のミディアムボブが揺れるたびに、リリーとかジャスミンみたいなほんのり甘い香りが鼻腔をくすぐってきて変な気分になる。が、そんなことを口走ろうものならどんな罵詈雑言を浴びせられるか分かったもんじゃないので黙っておく。
「そりゃ確定してるコンボだからな。はいー撃墜。この試合も俺の勝ちかな」
「くぅ。かくなる上は…………、くらえ!」
「っはァ⁉ お前直接攻撃はナシだろ、恥ずかしくねえのかズルインが!」
ついにご乱心に至ったのか、桜川は俺に身を預けるようにして覆い被さってきた。細い腕とか控えめに主張してくる柔らかい部分の感触で集中が乱される……!
おかげで俺はまともにキャラを操作できず、そのスキを突いた桜川が逆転。思わぬ形で俺の連勝記録は破れてしまった。
「てめえ……!」
「はーん。自分の身は安全だと思った? 甘いわね、そんなだから前みたいに足元掬われるのよ」
「るっせ。いいとこ取りしやがって、泥棒猫」
「負け犬の遠吠えなんて聞こえませーん。この『ヒロイン』に挑もうなんて百年早いのよ」
腹立つドヤ顔を決めこんで貧相な胸を張る桜川に、俺は苛立ちをこらえて拳を握った。
そうだ。この姑息な手段で勝ち誇った笑みを浮かべる女は、あろうことか全校生徒にヒロインという通称でもてはやされている完璧超人なのである。
「つかお前、これで勝ったところで一勝九敗じゃねえか。三回勝負からどんだけチャンスやったと思ってんだ」
「……楽しんだもん勝ちなの! 楽しかったからいいんだし、わたしは試合に負けて勝負に勝ったのよ」
「んだその屁理屈。こんだけボコられて楽しかったとか、お前はアレか、マゾっ娘ですか。お前の方が犬って言葉が似合うんじゃねーの」
「なっ……ンなわけないでしょ! わたしだって本気出せば、周ごとき余裕なんだから!」
「ならもっかいだ。次で白黒つけようじゃねえか」
「ふん。やってやろうじゃない」
確かに、もしも無邪気に笑っていれば……あるいはお淑やかに黙ってさえいれば、ヒロインたるに相応しい器なのかもしれないけれど。
だけど、こいつにおいてそんなことはありえない。少なくとも俺に対しては、この部屋の中ではそんな仮面を被って過ごすことはないだろう。
これがたとえばツンデレヒロインだったらよかったのに、生憎と今のところデレ要素の気配など微塵もない。ツンツンツンツンツーである。もはや新手のモールス信号。
「……だから直接攻撃はダメだっつの! やめろ、足でぐいってやるな! 指先まで舐め回されてえのか」
「やめてよきっしょい! わかった、ちゃんとやるから!」
やっぱだめだ。どうしたって俺たちはうまく嚙み合わないらしい。
そうだ、こいつと出会ってからロクな思いをしていない。誰にでも優しいヒロインは俺にだけ優しくないのだ。
ならばなぜ。そうだな、語るとしよう。
『平凡』な男子高校生である俺が、最強のヒロイン、桜川ひたちを相手取るに至ったまでを。
物語の、はじまりを。
天海です。読んでいただきありがとうございます!
今さらなんですけど、このお話は現在連載中の同一作品の長編プロローグとなります。
現在連載中の『それでもウチのヒロインが最強すぎる』第二章が近日公開されますので、気が向いたら読んでみてください!(作者のページから飛べます)
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