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第8話 私、春季くんとはもっと思い出を作りたいな!

「お兄ちゃんは誰と付き合ってるの? 阿子さんと?」


 自宅に到着するなり、喜多方春季(きたかた/しゅんき)は妹のひよりから質問攻めにあっていた。


「阿子ではないんだよな」

「え? そうなの? 違うの? じゃあ、誰なの?」

「クラスメイトの子だけど」

「へえぇ、そうなんだぁ。私、てっきり阿子さんだとばかり」


 リビングにいる妹のひよりは難しい顔を浮かべ、春季の話を聞いていたのだ。


「それで、そのクラスメイトの子ってのは? どんな感じの人なの?」


 春季と同じソファに座っている妹は淡々とした口調で聞いてくる。


 対する春季は、顎に右手を当てて考え込む。


 西野麗(にしの/うらら)の事をどういう風に説明すべきか、それについて悩んでいたのだ。

 おっぱいがデカいというパッと見てわかる情報を伝えるべきか、それ以外の情報を口にすべきか。

 春季はひたすら迷っていたのだ。


「お兄ちゃん、どうかしたの? そんなに言えない事情があるの?」

「いや、そうではないんだけど」

「じゃあ、早く言ったら? どういう人なの? お兄ちゃんが付き合っている人って」


 右隣に座っているひよりが、体の距離を詰めてきて、グイグイと話を問いただそうとしていたのだ。


「まあ、普通の子というか、普通に明るい感じの子なんだけど」

「へえ、そんな人なんだ。お兄ちゃんとは全然タイプが違う感じ?」


 ひよりは腕組をして、考察するような顔つきで頷きながら聞いていた。


「そうなるね。んー、そんな感じだよ」


 春季は迷いながらも、麗の事について説明していたのだ。

 一応、ひよりとも同じ学校に通っている事から、いずれは出会う事になるだろう。


 しかし、学年が違う事もあり、よほどのイベントがない限り出会う事はないはずだ。


 仮に二人が遭遇してしまったら、その時はその時で、春季自身が仲介役として紹介してあげればいいと思った。


「他の特徴は?」

「えっと、一緒にいて楽しいとか」

「ふーん、そうなんだ。まあ、いいや、そういうことね」


 ひよりは自身の中でどういう風に解釈したかは定かではないものの、それ以降、麗に関する事柄について聞いては来なかったのだ。


「まあ、お兄ちゃんがそれでいいならいいんじゃない? でも、阿子さんの事はどうするつもり?」

「それは……え、どういう意味?」

「それについてはお兄ちゃんもわかってるんじゃない?」


 ひよりは、右手の指先をビシッと見せつけるように、春季の口元へと向けていたのだ。


「え?」

「阿子さんが、どう思ってるかは、お兄ちゃんもわかってるんじゃないってこと。それ以上、言わなくてもわかるでしょ? 阿子さんと何年一緒にいるのよ」

「……」

「私、今日は夕食の準備をするね」


 そう言い残し、ひよりはソファから立ち上がり、リビングからキッチンへと向かって行ったのだ。




「はあぁ……今日も疲れたな」


 春季はベッドで仰向けになっていた。

 先ほど妹と夕食を終わらせ、今に至るのだ。


 妹のひよりが今、お風呂に入っている頃合いであり、自宅内は比較的静かだった。


 今日の課題も終わり、お風呂にも入り終わった事で、今のところ特にやる事もなく、何となくベッドで横になったままスマホを弄っていた。


 連絡交換用アプリを起動し、麗のアカウントを開いて、今日投稿されている日記的なものを閲覧していたのだ。


 今日の日記は、ドーナッツ専門店の事や、クレーンゲームで多くの商品を獲得出来た事に関する内容だった。


 春季は、彼女が掲載している日記を流し見していると、昨日と同様に着信音が鳴り響き、スマホの画面が切り替わる。

 麗の名前と共に、受話器のマークが表示されていたのだ。


 麗は今、電話をしたいらしい。

 時刻は夜の一〇時を過ぎた頃合いで、電話するには丁度いい時間帯だった。


 春季は上体を起こし、ベッドの端に座って、受話器マークを指でタップし電話に出る。


「もしもし、麗さん?」

『もしもし、春季くん? 今、大丈夫? 電話してもいい?』

「いいよ。俺も丁度会話したかったから」




『春季くんって、今日はどうだった? 楽しかった?』


 スマホからは、麗のハッキリとした可愛らしい声が聞こえてくる。


「それは普通に、楽しかったよ。でもさ」


 春季は電話越しに、困った顔を浮かべていた。


『でも?』

「急に幼馴染と一緒に行動する事になってごめん」

『いいよ、春季くんの方にも色々あると思うし』

「今度からは、二人きりで行動できるようにするから」


 想定外な事態になったものの、麗はちゃんと対応してくれていたのだ。

 遠目で見ている分には、麗と阿子は仲良さそうに見えなくもなかったのだが、実のところ、どうなのだろうか。


『ありがと……阿子さんとは本当に幼馴染なんだよね?』

「そ、そうだよ」

『でも、今日さ、結構馴れ馴れしかったっていうか。それは幼馴染だからなのかもしれないけど。なんか、距離が近いなぁって。でも、ごめんね、私の勘違いだったら』


 麗は早口で言っていた。

 言葉遣いからして、やはり、阿子について気にしている様子だ。


「俺の方も勘違いさせるような事をして、ごめん」


 ここは誠心誠意に謝らないといけない気がして、電話越しに謝罪の言葉を並べる。


『別にいいんだけど……えっと、阿子さんとも今日話して普通に楽しかったし。友達にもなれそうな雰囲気があったんだけど。面倒事には発展させたくなくて』

「え? 面倒事?」

『んん、なんでもないよ。気にしないで。それより、明るい話にしよ。その方が春季くんも楽しくなるでしょ?』

「……俺の方こそ、最初の話題が暗くて」

『いいよ。今から仕切り直しってことで』


 その言葉を皮切りに、麗の方から改めて話題を切り出してきたのだ。


『私、春季くんと色々な事をして思い出作りをしたいの。だから、今週中の休みの日に何かをしたいなって。春季くんはやりたい事ってある? あるのなら、私合わせるよ』

「じゃあ、街中のボーリングとかはどうかな? 今も営業しているかはわからないけど」


 春季は咄嗟に頭に思い浮かんだ事を口にする。


『街中の? そのボーリング場のことかな? ビルの中にある感じの』

「そうそう、そのボーリングのこと」


 麗の発言に反応し、春季はパッと笑みになる。


『だとしたら、半年前に営業が終わってると思うよ』

「そ、そうなの⁉ 全然知らなかったんだが」

『今はボーリングやカラオケと複合化した施設があるから。そっちの方に全部持っていかれた感じかも』

「そっか、時代だね。昔、俺、そのボーリング場に通ってたんだけどなぁ、何か悲しいっていうか」

『しょうがないよ。でも、私、久しぶりにボーリング場に行きたい!』

「じゃあ、ボーリングで。でも、その複合施設ってどこにあるの?」

『確か、隣街にあるはずだよ。バスでも電車でもすぐに行けるし』

「だったら、その隣街の場所に行こうか」

『うん。私、結構ボーリング得意なんだよ』

「そうなの? そういえば、今日のクレーンゲームもだけど。遊びに関しては強い方なの?」

『そうだよ。小学生の頃は街中で遊んでばかりの子供だったから。そういうのには強いんだよね』

「そっか。どうりで。でも、俺もボーリング結構強いんだよね」

『そうなの? じゃあ、今週の休み楽しみにしてるね!』

「楽しみにしててよ」

『私ね――』


 二人の会話はさらにヒートアップしていく。

 すでに時間は十一時を優に超えていたが、春季は気にする事無く、麗との楽しい時間を過ごすのであった。


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