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第24話 私が二番目の彼女になるね!

「うん……」


 喜多方春季(きたかた/しゅんき)の問いかけに、阿子は首を縦に動かす。


「ありがと」

「なんで、ありがとなの?」


 神崎阿子(かんざき/あこ)からは首を傾げられた。


「なんか、今まで全然話する機会も無くて、阿子から敬遠されてるのかなって」

「そんなことないよ。私も、春季とは話したかったし。でも、生徒会選挙と重なって。春季も忙しかったんでしょ?」

「そうだね。でも、生徒会選挙は終わったから、少しは楽になるかも」

「そうなの?」

「んー、一応ね」

「一応ってどういうこと?」

「俺、生徒会役員のサブ的な感じで庶務をやる事になってさ」

「凄いね。じゃあ、麗さんとも一緒にいる機会が増えるってこと?」


 阿子は不安そうな顔を浮かべ、質問してくる。


「えっと、そうなるかも」

「そ、そうなんだ……」


 彼女は軽くため息をはいていた。


「なんか、いつの間にかそういう事になってるなんてね。私と春季って、これから立場も結構変わるかもね」

「そんな事はないよ。どんな環境になっても、今まで通りに幼馴染として」

「……幼馴染として……か」


 阿子の雰囲気が一瞬変わった気がした。


「そろそろ、学校が閉まってしまう頃合いでしょ。春季、一旦外に出よ」


 春季は暗くなっている廊下で制服からスマホを取り出す。

 周囲はスマホの光で照らされた状態になり、今いる場所の景色がハッキリとしてくる。

 スマホ画面を見ると、七時近くなっていた。


 二人は暗くなった校舎の廊下を歩き、スマホのライトで周辺を照らしながら昇降口まで進んで行く。

 そこで外履きに履き替えた後、二人は校舎を背に通学路を移動し始めた。


 通学路を歩いていると会社帰りの人も多く、車道のところを多くの車が行き来しており、車が通る度に、二人は車のライトに照らされていたのだ。


「春季は、生徒会役員に所属して嬉しかったの?」

「……普通かな。俺もそんなにやる気があったわけじゃないし。でも、選ばれたからにはやるしかないなって思って」


 生徒会長の東条二奈の前で本当はやる気がなかったと言った日には、どんな返答が返ってくるかわからない。

 言い訳するのが難しかった事もあり、しぶしぶと現状を受け入れたという解釈の方が正しいだろう。


「でも、生徒会役員になったのなら、最後までやるしかないよね」


 阿子からは笑顔で後押しされていた。


「そのつもりだけど。一応、生徒会役員だと先生からの評価も上がるだろうし、断る理由もないからね」


 生徒会役員としての業務はやらないより、やった方が確実に他人からの評価は上がる。

 春季はそこまで成績が良い方でもなく、普通くらいなのだ。

 学校基準に考えれば、春季にとってもプラスな事しかないのである。


 生徒会役員の件もあるのだが、阿子とは一番話したい内容があった。


「それより、阿子は、これからも幼馴染として付き合ってくれる?」

「幼馴染? どうしよっかなぁ」


 共に通学路を歩いている阿子は意味深な顔を浮かべ、春季の顔を覗き込んでくる。


「じゃあ、この近くのサンドイッチを買ってくれたら考え直すよ」

「サンドイッチのお店ってあったっけ?」

「無いけど。今週限定でキッチンカーがやって来てるの」

「そういうことか。じゃあ、そのサンドイッチを購入すれば」

「一応ね」

「一応ってどういうこと?」

「まあ、サンドイッチを食べてから考えるから」

「……わかったよ。それで、そのキッチンカーはどこに?」

「あっちの公園近くにあったはずよ」


 阿子が指さす方角へ向かって歩き出す。


 公園には二台ほどキッチンカーが止まっており、七時過ぎの今も営業している最中だった。


「すいません、サンドイッチ一ついいですか?」


 キッチンカー前にて、阿子が車内にいる男性店員に対して積極的に注文をする。


「春季はどうする?」


 キッチンカー近くに立て掛けられた大きな看板には、サンドイッチメニューの一覧が載せられていた。


 基本的なメニューはハンバーガー店と大体似ている。

 けれど、ハンバーガーとは違った味わいがあったり、トッピングが違ったりするので、そこに関してはちゃんとした差別化がなされているのだ。


「俺もサンドイッチ一つでお願いします」


 春季も注文を行う。

 サンドイッチ一人分でも千円もかかるらしい。

 春季が二人分を支払う事になるわけだが、かなりの出費だった。

 普通に考えれば、ハンバーガーを購入した方が安いと思える。


 注文してから五分後。二人分のサンドイッチが出来たらしく、春季と阿子はそれぞれのサンドイッチを男性店員から受け取る。


 サンドイッチといえども、コンビニやスーパーで売られている感じのサイズではなく、しっかりと大きい。

 しかも、それが二つあるのだ。

 パンに挟まれた具材も少量ではなく、ふんだんに取り入れられていた。


 実際に現物を手にしてみるとかなりの重量感で、食べ応えのあるヴィジュアルをしている。


 二人は公園内にて、電灯で照らされたベンチに隣同士で座る。

 その頃には、二台ほど停車していたキッチンカーは営業を終了させ、そのまま公園から立ち去って行く。

 静かになった環境で二人は食べ始めるのだった。




 実際に食べてみると、サンドイッチは普通に美味しい。

 購入したのはスタンダード系のサンドイッチで、ツナマヨや卵、レタスが入っているタイプだ。

 お腹が減っていた頃合いだった為、重量感のある食べ応えに春季も満足していた。

 これならば、千円出した甲斐があると思う。


「阿子、サンドイッチは買ったからこれで考え直してくれる?」

「うん、いいよ。でも、本当は幼馴染以上の関係になりたいんだけどね」

「それは……」

「ダメなの?」

「この前も言ったけど、難しくて」

「じゃあ、どんな事をしたら、それ以上の関係になってくれるの?」


 右隣に座っている幼馴染が距離を詰めてくる。


「どんな事って……でも、やっぱ、難しいかもな」


 春季はサンドイッチを片手に持ちながら、心の中で何度も考えた後、そう言った。


「私は本気なんだけど」


 阿子は両手でサンドイッチを持ったまま、春季の横顔を見つめてくる。


「でも、幼馴染としてこれからも付き合っていくだけで。それ以上の関係には」


 春季は阿子の方を振り向けなかった。


「じゃあ、二番目でもいいから」

「え? それって浮気みたいな事に?」


 阿子の発言に驚き、春季は彼女の方を見て目を丸くする。


「いいじゃん。そうしないと付き合えないでしょ」

「え……」


 春季が幼馴染による大胆な発言によって固まっていると、スマホが鳴る。

 サンドイッチを持っていない方の手でスマホを取り出す。

 その電話相手は西野麗だった。


 現状、隣には阿子がいる。電話に出るのはどうかとは思うが、なかなか電話が切れることなく鳴り続けているのだ。


 春季は仕方なく電話に出る事にした。


『春季、今から会える?』

「い、今から?」


 春季はスマホ越しに、隣にいる阿子を見る。

 彼女は不敵な笑みを浮かべており、この状況を楽しんでいるようだった。


 春季はスマホを耳に当てたまま、この緊迫した時間を過ごす事となり、春季の悩みはそうそう解決しなさそうだった。


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