第12話 幼馴染から明日の事で誘われたんだが
「今日のアニメ紹介番組面白かったね!」
夜十一時頃。
リビングのソファに隣同士で座っていた妹のひよりが楽し気に話していたのだ。
喜多方春季はリモコンのボタンを押し、テレビ画面を消す。
「久しぶりに色々なアニメを振り返れたよ。また、アニメとか見直してみようかな」
アニメ紹介番組の影響でアニメに対する熱が戻って来た気がする。
ラノベ原作のアニメも紹介されていた事で、押し入れの段ボールに入っているラノベでも引っ張り出し、読み直そうと考えていたのだ。
「そうした方がいいよ! そうだ、今度一緒にアニメ見ようね!」
「そうだな」
春季は調子よく相槌を打つ。
「あ、そうだ、私、お風呂に入ってくるね、お兄ちゃんはどうする?」
「俺はいいよ。明日特に用事もないし。そのまま寝るかな」
そろそろ眠くなってきた頃合いだ。
いつもは西野麗から電話がかかってくるのだが、今日はテレビを見ている最中も彼女からの連絡はなかった。
「そっか。じゃ、私、お風呂から上がったら、脱衣所の電気とか消しておくね!」
ひよりはソファから立ち上がると、駆け足でリビングから立ち去って行く。
春季は妹がいなくなったリビングの電気を消し、階段を上って二階へと向かう。
自室に入ると電気をつけ、スマホを片手に持ったままベッドの端に座った。
そこから後ろ向きに倒れ、ベッドで仰向けになって両手を上げていたのだ。
今日は楽しかったが、身体的にも結構疲れたと思う。
ボーリングのし過ぎという理由もあるのだが、急に運動をし出すと、その後で体が痛み始めてくる。
春季はスマホを持っていない方の手で、筋肉痛になっているところを擦っていた。
「明日までには治っていればいいけど」
そんな中、春季は部屋の押し入れの方を見やる。
どんなラノベあったっけ?
あの赤髪ロングヘアの子が登場するラノベと、魔法世界に転移した高校生のラノベとか。他には、科学と魔法が融合した世界観の作品もあったはずだ。
そういや、宇宙人とか超能力者とか、そういう発言をする女子高生のラノベもあったな。
考えれば考えるほどに、昔読んでいたラノベの表紙が次々と脳内に思い浮かんでくるのだ。
思えば、読み直したいラノベって結構あるな。
がしかし、さすがに今から押し入れから段ボールを引っ張り出す余力はなかった。
「んー……」
春季は再び両手を上げ、あくびをしながら背伸びをした。
そろそろ、就寝しようかと仰向けになったままスマホを弄っていると、突然画面が切り替わり、春季はビクッとした。
スマホの画面上には、幼馴染の阿子の名前が表示されてあったのだ。
あ、阿子から?
というか、こんな時間に⁉
既に十一時を過ぎている事から、大事な話かと思い、春季はその電話に出てみる事にしたのだ。
「あ、阿子?」
春季は恐る恐る電話に出て、幼馴染の名前を呼んだ。
『もしもし、春季?』
少し遅れて、神崎阿子からの声が聞こえてきたのだ。
「うん、なに? こんな時間に?」
『えっとさ、今日、春季の家に行ったんだけど。ひよりちゃんから聞いてる?』
春季は食事中に妹のひよりと話していた事を振り返っていた。
「聞いてたけど、何か急な用事でもあった感じ?」
『その事なんだけど……春季って明日空いてる?』
「あー……明日か」
今の予定としては、明日は押し入れの中に入っているラノベでも引っ張りだして読んでみようと考えていたところだった。
『無理な感じなの?』
スマホ越しに不安そうな声が聞こえてくる。
「無理ってわけじゃないけど……えっとさ、具体的にどんな内容? 内容にもよるかな」
『ただ、街中のお店でちょっとだけ過ごしたいだけ。二時間くらいでもいいし。そんなに時間はかけないつもりだけど』
「二時間か……じゃあ、大丈夫かな」
『ほんと? じゃあ、約束してくれる?』
「いいよ。時間は? 朝早くは難しいけど」
『十一時半くらいでお願いできる? 食事するだけだから、お昼ご飯的な感じで』
「わかった、昼頃ね」
『うん、楽しみにしてるから』
電話をし始めた頃とは違い、今の阿子の声は明るくなっていたのだ。
「うん……それじゃあ……あとは特にない感じ?」
『そうだね……また明日ね』
「また明日……」
春季は眠たげな声で返答した後で、スマホ画面の電話終了ボタンをタップするのだった。
「明日か……ん? 話の流れで予定を入れちゃったけど。そういえば、麗さんからは全然連絡がないな」
春季はスマホの連絡交換用アプリを起動し、麗からの着信歴があるかを確認してみたのだが、そういった経歴はなかった。
今日の日付で、ボーリングをしたという内容の日記を投稿している事から、連絡を忘れているとかではなさそうだ。
今日投稿されてある麗の日記には、顔だけを絵文字マークで隠した写真が投稿されてある。
大きく映し出された写真で見ると、色々とデカく感じるのはいうまでもなかった。
「デカいな……じゃなくて。それより、今日の帰り際にまた明日って言ってたんだけど……」
春季は夜だからといって如何わしい事を極力考えずに、スマホを手にしたまま彼女とのやり取りを振り返っていた。
明日っていうのは、月曜日の事だろうか?
いや、そんな事はないか。
仮にそうだとしたら、普通に月曜日ってちゃんと言うよな。
明日というのは、カレンダー的にも日曜日であり、月曜日ではないのだ。
「特に麗さんから連絡は来ないし、俺の聞き間違いかもな。それより、早く寝ないと。でも、明日出かけるなら風呂に入った方が……いや、普通に明日の朝に入ればいいか」
春季はスマホを握ったままベッドの中に入り、閉じかけている瞼を擦りながら、近くにあったリモコンを使って部屋の電気を消したのだった。
「ん――……今日はちゃんと寝られた気がする」
春季は外から聞こえてくる小鳥の囀りを耳にし、ベッドから上体を起こす。
意外と早めに休んだことで、昨日抱えていた体の不調もなくなっていたのだ。
「……まだ、七時前か。時間もあるし、押し入れの段ボールでも出してみるか」
春季は背伸びをし、ベッドから立ち上がると押し入れ前に向かう。
押し入れの先には、大きな段ボールがあった。
実際に取り出してみると、そこには中学時代に読んでいた懐かしいラノベの数々はギッシリ引き詰められてあったのだ。
「懐かしいな。実際に見てみると、こんなデザインの表紙だったか」
今流行りの背景ありのラノベではなく、キャラクターを中心としたデザインが多く見受けられたのだ。
春季は押し入れ前に座り込んで、段ボールに入ったラノベの一冊を手に読み始めるのだった。




