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第10話 ボーリング勝負の行方は?

「ごめん、ちょっと遅れたみたいで」


 待ち合わせの駅入り口付近で待っていると、遠くの方から麗の声が聞こえる。


「いいよ。というか、全然、問題ないから。予定通りだし、電車には余裕で乗れるからね」


 喜多方春季(きたかた/しゅんき)はスマホの時間を確認して返答した。


 麗は走って来たみたいで、息を切らしていたのだ。

 彼女は呼吸を整えると、春季の方を真正面から見つめてくる。


「ありがと。私、準備に時間がかかって、急いで家を出たの。時間も見てなかったから、遅れてしまったかもって」


 二人は地元の駅前で合流した。


 西野麗(にしの/うらら)は、秋用の服装だ。

 フード付きドレスのような服で、ドレスともパーカーとも違う変わった感じのスタイル。

 あっさりとした服装ではあるが、おっぱいの大きさだけは隠しきれないようで、その胸部だけはハッキリと示されてあったのだ。


「全然、いいよ。じゃあ、そろそろ行こうか」


 春季は彼女に心配をかけないために、自然な立ち振る舞いで麗をリードする。


 二人は駅中に入り、そこから歩いて切符売り場まで向かう。

 切符を購入すると、二人で電車のホームまで移動するのだ。


 二人がホームで待っていると、隣街まで向かう電車がやってくる。

 土曜日でも、朝一〇時を過ぎた頃合いだと車内には殆ど人がいなかった。


 空いていた事もあって、二人は横に並ぶようにしてソファに座る。

 座っている席の前の窓から見える景色を眺めながら、二人は休日らしい時間を過ごすのだった。




「やっと、到着したね!」


 目的となる街の駅に到着した二人。

 麗は駅から出るなり、外の景色を眺めていたのだ。


「麗さんが言っていた、その建物ってどこにあるの?」

「あっちの方よ」


 麗は遠くの方を指さしていた。


「徒歩で一〇分くらいだから」


 春季は彼女と共に歩き出す。

 休日に、知っている人がいない場所を、彼女と共に歩いていると、恋人らしさを感じる。

 嬉しいという反面、二人きりと考えると緊張してくるのだ。


「ねえ、この際だし、手を繋がない?」

「え? うん、麗さんがそういうなら」


 春季も、彼女から差し出された手を握るように掴む。

 一緒に手を繋いで歩いていると、本当に付き合っているのだと実感できる。

 程よい緊張を感じ、春季は少々寒くなってきた季節でも温かさを感じる事が出来ていたのだ。


「そういえば、もう一一月だよね」

「そうだね」


 春季は相槌を打つ。


「春季くんは寒くない?」

「俺は大丈夫だけど」


 二人が住んでいる地域は、一一月でも凍えるほど寒くはない。

 どちらかといえば、少し涼しいかなくらいの気温であり、秋服でも普通に生活できるほどであった。




「ここだよ!」


 麗は、目的となる建物を見つけるなり、春季と繋いでいない方の手で、その場所を指さしていたのだ。


 ボーリングやカラオケなどが一か所に集まった、複合商業施設。

 思ったよりも大きく、駐車場も二〇〇台ほど収容可能となっていた。


 その商業施設周辺は車の通りが激しく、二人は少し遠回りする形となったが、人が歩きやすいところをメインに移動し、店内に入る。


 店内の一階部分は待合スペースとなっており、沢山のソファなどが設置されてあったのだ。

 その他には自販機があったり、ガチャガチャが置かれていたりと、シンプルな感じだった。


 今日来た意味は、ボーリングをすること。

 そのボーリング場は、二階にあるらしい。


 二人は一階の壁に設置されてあった案内板を見て確認していたのだ。


「三階にはカラオケがあるみたいだね」


 春季は案内板に記されている情報を見ながら言う。


「今日はボーリングだけにしない? カラオケはまた今度で」

「わかった、今日はボーリングだけね」


 二人は近くにあるエスカレーターに乗って上へと向かうのだった。




 ダンッ――


 ボーリングの球が、ボーリング場のレーンに落ちるなり、その道を転がって、一〇本のピンが整列する場所へ直撃する。

 球とピンがぶつかるなり、はじけた音が響き、そのピンは倒れていく。


 最後のピンがグラッと揺れるが、また元通りになった。


「あー、惜しい、あと一本倒れればストライクだったのにー」


 レーンの前に佇んでいた麗は振り返り、ソファに座っている春季へと悔しそうな顔を見せていたのだ。


「でも、凄いね。言ってた通り、本当にボーリングが上手いんだね」

「そうよ。小学生の頃はいっぱい練習をしたからね」

「今度は春季くんの番ね」


 麗はそう言って、春季の隣に座る。

 彼女は座るだけでも、その豊満な二つの胸が揺れているのだ。


 春季は一瞬、手にするボールを間違いそうになったが、一度咳払いをし、気分を切り替えた。

 ボールリターンと呼ばれる機械に置かれた自分の球を手にすると、三つの穴に自身の指を差し込んだ。


「頑張ってね」

「俺も強いってところを見せないと、ゲームにならないしね」


 背後にいる彼女からの応援もあり、春季のテンションは爆上がりだった。

 調子に乗って、ボールを指から解き放つ。




 一時間ほどの対戦が終わりを告げ――


「結果発表ってことで」

「……」


 麗の方から印刷した最終スコアを見せてきた。

 春季は無言のまま、自身のスコアシートを彼女に見せる。


「私の勝ちだね」

「負けかぁ、俺、いい線いってたと思ったんだけどな……」


 スコアを比較してみると、二人の差は一〇点だった。

 一回でもストライクを叩きだせれば、何とか勝てたかもしれないレベルだ。


「麗さん、もう一回やりたいんだけど」

「いいよ。私も何度でも挑戦は受けるわ。まだ時間はあるしね」

「ありがと。でも、一旦、準備をさせてくれないか?」

「準備?」


 麗は首を傾げていた。


「ボーリングの球を交換したり、水分補給をしたりさ。そろそろお昼の時間だから、あっちにある販売所でなんか買って食べたりとか」

「そうね。まあ、いいわ。春季くんがしっかりと準備をするなら、私も準備しないと! でも、次も負けないから」


 麗の瞳は輝いていた。


「俺も、こんな僅差で負けるなんて悔しいからね。あともう少しだったんだ」

「私、手加減はしないから」

「むしろ、そうしてくれ。じゃないと競い合う意味がないからさ」


 春季は麗に対して対抗意識を持ち、次の勝負に備える事にしたのだった。


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