第三十三話 証拠
欠伸を噛み殺そうとして、失敗する。
(眠い……)
目尻に浮かんだ涙を拭い野菜を切っていると、作業台に肘を突いていたサーディンが、口の端を吊り上げて首を傾げた。
「マコト寝不足ぅ?」
誰のせいですか、と突っ込みかけて、マコトは慌てて言葉を飲み込む。すぐ側にはサラがいるのだ。中途半端に空いた間を誤魔化す為に、振り向いた体でそのまま端にある貯蔵庫に向かい、野菜を取り出す振りをして誤魔化した。
少し迷ったものの、サラに昨日の出来事は話していない。サーディンの言う通り害は無かったようだし、起き抜けに「昨日はよく眠れましたわ」と清々しい笑顔で報告されて、とても本当の事は言えなかったのだ。
かつての故郷と言っても、サラが生まれた時は既に現在の集落に移っていて、足を踏み入れたのも今回が初めてだったらしい。不慣れかつ不便なこの土地で眠れない日が続いていたのだとサラは恥ずかしそうに告白した。
災い転じて福となす、とはこういう事だろうかと無理矢理思い込み、マコトは出来るだけ昨日の出来事を深く考えない事にした。
サーディンの過去は自分が口出し出来る事では無いし、あまり触れて欲しくないからこそ、軽い口調で流したのだと自分の気持ちに決着をつけた。
それに、胸を触られた事も、思い返せば憤死しそうな出来事で。壊れ物を扱うように優しく触れたその手は、確認と威嚇の為に力任せに触れられた最初の時とは明らかに異なっていて、余計にマコトを困惑させる。
(なんか……触り方が)
とか思うのは勘ぐりすぎだろうか。
(ぅわ……私変な事考えてる……っ)
熱くなった顔を二人に見られないように顔を逸らせて調理台の前に戻った。
「マコト様も眠れないのですか?」
やはり警戒しているらしいサーディンと距離を置きながらも、サラは驚いた様に声を上げた。
「いえ、少し眠れなかっただけですから」
そう答えた後、ニヤニヤ笑うサーディンを視界の隅に捉えて、マコトはむっとする。
一昨日は一睡もしておらず、昨日は途中でサーディンに起こされた。寝不足のせいで頭痛がして普段以上に口数の少ないマコトに反し、サーディンは酷く上機嫌だ。セクハラめいた邪魔をしないだけマシだが、じっと見つめられているだけと言うのも、妙に緊張する。振り返ると、にこにこと満面の笑顔を浮かべてサーディンは手を振ってくる。
「……一体何なのでしょうね……」
不吉なものを見る様に声を潜めてサラはマコトに耳打ちする。サーディンが台所に現れた時、サラが露骨に眉を顰めていた様子から察するに、カイスやハッシュから聞いた様々な噂は本当なのだろうか。ゲルの中にあった子供向けの玩具が、その事実を後押ししていた。
(まぁ、サーディンさん自体がおもちゃとか好きそうだけど)
何と言っていいか分からず、力無く「さぁ」と首を傾げるとサラはちらりとサーディンに視線を流し、更に声を潜めた。
「全くあの人が何故候補者に入ってるのか、甚だ疑問ですわ。まぁアクラム様も謎と言えば謎ですけど……他の候補者の方はそれぞれ納得出来るだけのものがありますのに」
独り言の様にそんなことを呟いて大きく溜め息をついたサラに、マコトは苦笑して、ふと気になっていた事を問い掛けてみた。
「……その、候補者の皆さんってやっぱり女の人から人気があるんですか?」
問い掛けたマコトにサラは一瞬目を瞬かせ大きく頷いた。
「それはもう! タイスィール様を初めとして、ナスル様もサハル様も女官から絶大な人気がありますし、ハッシュだって可愛い顔をしていますし、学院でも優秀な事で名が通っていますから将来性があると言われています。カイスも我が従兄弟ながら、西の一族を背負って立つ身ですし、粗暴ながらも男気があるでしょう。一族以外の女性からもよく声を掛けられていますわ」
半ば予想通りと言うか、予想以上だと言うか……。それぞれ向こうの世界なら芸能人にでもなれそうな美形である。そんな彼らの婚約者が『イール・ダール』である事以外何の価値の無い自分だと言う事がバレれば、とてつもなく恨みを買いそうで一気に背筋が寒くなった。
女の恨みや妬みは何より怖い。よく聞く話だが、元の世界では自分には関係の無い話だと高を括っていたので、上手い回避方法など思いつかない。
「そういえばカイスさん見かけませんね」
何となくこれ以上聞くと胃が痛くなりそうで、マコトが話を逸らすと、サラは少し残念そうな顔をして、幾分落ち着きを取り戻し頷いた。
「ええ、カイスは次期頭領ですからね。会合にも顔を出さなければなりませんし、一族の調停役として忙しいみたいです。女神祭も明日ですし、儀式の進行役のお浚いでもしてるのかもしれませんね」
「へぇ……」
(カイスさんも大変なんだ)
そういえば市場に連れて行って貰った次の日も何か集まりがあると言っていた。最近どこかぼうっとしているのも、疲れのせいなのだろうか。
(それなのにお菓子とか買ってきてくれたり、何かと気にかけてくれてるよね)
話しながらも作業台に鍋を移そうとしたその時、作業台の端に腰が当たりポケットに入れている鈴がちゃりんと鳴った。しっかりと鍋を固定してから、マコトはそっと服の上から鈴を撫でる。
(あ)
そういえばサーディンから鈴の話を聞いた時にも、わざわざ気遣い「マコトのか?」と確認してくれた。必要の無いものだと言い切ったのに、サーディンが取り返してくれた鈴を見せられ、あんな風に泣いて、カイスは気を悪くしなかっただろうか。それに鈴を持っていた「ロジナ」という人物にもあまり関わりたくなさそうだった事も思い出す。カイスには次期頭領としての責任もあり、きっと色んな柵や義務があるのだろう。
(本当に大丈夫だったのかな……嫌だな。なんで気付かなかっただろ)
忙しいだろうに煩わせてしまったかもしれない。そう思うと、最近覇気の無い彼の事が無性に気になった。
「カイスが何か粗相でもしましたか?」
黙りこんだマコトに気遣いサラが心配そうに顔を覗き込んでくる。我に返ったマコトが、慌てて首を振ると、サラはほっとしたように笑い話題を変えた。
「そうそう、女神祭も皆さん正装されるのですよ。きっと眩いばかりに魅力溢れてらっしゃいます。 あ! そうでしたわ。出発前に皆様挨拶にいらっしゃるんですよ」
「私に、ですか?」
「ええ、女神祭ですもの、その娘である『イール・ダール』にそれぞれ感謝の言葉を捧げるのです」
へぇ、と相槌を打って考える。確かに、そんなしきたりがあっても可笑しくないかもしれない。
「そうなんですか。……あ、じゃあイブキさんの所にもみんなで行くんですか?」
そうならば是非連れて行って貰いたい。
しかしマコトの期待を感じたサラは申し訳無さそうに首を振った。
「いいえ。一族に入られた『イール・ダール』のみです。イブキ様も夫であるラーダ様は東の一族の一人ですから、そちらにお戻りになられるのではないでしょうか」
東に限らず他の一族の住処までここから遠いと聞く。移動手段の少ないこの世界、身重の身で大丈夫なのだろうか。イブキに会ってからまだ七日しか経っていないが、同郷の人間だということを除いてもマコトは彼女のさっぱりした性格や明るい表情が好きだった。憧れでもある。
(会いたいなぁ……)
心の拠り所を求めるように、その想いは日増しに強くなっていくが、きっと暫くは無理だろう。
(あ、手紙とかも無理かな)
ふと思い付く。自分の存在が知られてはいけないなら、誰かの名前を借りて彼女に送ることが出来ないだろうか。
(……タイスィールさんかサハルさんに聞いてみよう)
心の中で頷いてマコトは、沸騰し始めた鍋に切った材料を流し込む。サラが切ったので大きさがバラバラだが、型崩れしやすい種類の芋なので出来上がりは変わらない。昨日は緊張した事もあったのだろう。手際がいいとは言えないが、昨夜聞かれるまま料理の手順を説明していたので、今日は昨日ほど危な気無く作業は進んでいる。
「じゃ、ここには私とサラさんとニムさんだけで残るんですか」
男性だけのお祭りだと聞き齧った事を尋ねれば、サラはとんでもないと勢いよく首を振った。
「いえいえっ。マコト様がいらっしゃるのですもの。もちろんナスル様が残って、……あ、……その、申し訳ありません」
反射的にその名前に身体が強張る。それに気付いたのかサラの言葉が途中で小さくなり最後には謝罪になった。
気遣われている事に逆に申し訳なさが立ち謝ろうとしたが、サラの性格を考えてマコトは話題を変えるだけにした。
「あの、女神祭が終わったら皆さん元の場所に帰るんですよね?」
多分一族が今住んでいる場所か、彼らが王都と呼ぶ場所に。
それは昨日女神祭りが迫っていると聞いた時から気にかかっていた事だった。この場所に一人残されてもきっと生活する事は出来ない。『イール・ダール』という名前の立場も踏まえて、どこかに移動するのではと考えていた。
サラは何故か困ったように視線を彷徨わせる。
「あの、まだ決まってなかったら別にいいですよ」
気遣うようなマコトにサラは顔を上げ、躊躇いがちに口を開いた。
「いえ……暫く皆様こちらに残られるみたいです。マコト様にもご不便お掛けしますが、マコト様もまだこちらにご滞在下さいますようお願い致します」
「そうなんですか」
まだ暫くは同じ生活も出来るのだとほっとした一方で、少しだけ落胆した。
変わり映えの無い日常をどう過ごせばいいのか。マコトはまだ何も見つけていない。自分で生活する術も、元の世界の事を忘れられる程没頭できるほどの何かも。
「あ、もちろん私もこれまで通りご一緒させて頂きます」
勢い込んで付け足された言葉にマコトは小さく笑う。
ただでさえ見知らぬ世界なのだ。 やはり同性がいるだけで心強い。
しかし、サラにだって仕事や自分の生活があるはずだ。自分の為にそれを犠牲にさせているかと思うと、申し訳無ささが先に立ち、先程から苦戦しながらも野菜の根を千切るサラに顔を向け精一杯笑顔を作った。
「……有難うございます」
「!? いえ、滅相もありません! 私マコト様のお役に立てるならそれだけで!」
力を入れた拍子に千切れたらしい、強く野菜の根を握り締めながら取りながらサラは耳まで赤くさせつつ、ぶんぶんと首を振った。
「なぁに二人で内緒話してんのさ~僕もいれ」
放って置かれた事にむっとしたのか、サーディンが椅子から立ち上がり、二人の側に歩み寄ろうとしたその時、ぎゃあああっと恐ろしい悲鳴が上がり、ほんわかしていた雰囲気が一瞬にして吹き飛んだ。
「~ッ……今度は何ですのっ!?」
水を差された事で怒るサラと、今の悲鳴が頭痛に拍車を掛けたらしいマコトが頭を押さえて振り返る。その先にいたのはサーディン……と、静かに黒いオーラを放つサハルだった。分厚い外套に護身用の剣、砂埃に塗れたその姿は外出先から戻って来たばかりだと分かる。
(あ……)
『あ~大丈夫大丈夫。ちょーっとだけ魔法掛けただけだから』
耳の奥に、昨日のサーディンの言葉が蘇る。
格好から察するに、サーディンが起こしたオアシスの騒ぎの後始末から戻って来たばかりなのだろう。
(これは怒られても仕方無いよね……)
何より誰もが必要としているオアシスで騒ぎを起こしたのである。子供めいた悪戯だとしても簡単に許されるものではないかもしれない。
サーディンの頭を真上から押さえつける様に下ろされた手は、サーディンの頭をボールの様にすっぽり掴んでいて、思っていた以上に手が大きいんだな、と一瞬明後日な事をマコトは思った。
しかし。
「いいいたいいたいいたいっ」
ぎりぎりと何かが軋む音。その強さを証明するようにサーディンの顔色が青くなっていく。食い込んでいく指も力が入りすぎて白くなっていた。爪も勿論然りである。
……このままでは、本気で命に関わるのでは無いだろうか。
心配になってそろそろ止めた方がいいかなと視線を上げれば、いつも綺麗に結わえている髪は少々ほつれ、若干目が赤く血走っている。風の強い夜を馬で駆けたせいだろうか全体的に埃っぽくなっていた。
「あああっいたいってば、離してよっ!」
とうとう限界に達したのか、サーディンはどこからか杖を取り出し、短く何か呟く。その手の先に青い炎が現れたと同時に背後に立つサハルに至近距離でそれが放たれた――が、サハルは危な気なくそれを避けた。しかしサーディンはその一瞬の内に掻き消え、マコトのすぐ隣まで移動していた。
「いきなり何するんだよっ」
「いきなりもないでしょう。貴方のせいで駆け回されました。オアシスに火を付けるなんて一体何を考えてるんです。たまたま北の長老がいたから良かったですが、下手したら全焼ですよ。あなたの魔力の気配を消すのにどれだけ苦労したか!」
いつになく強い口調にマコトはサハルの怒りを知る。
(火を放つ……って全然ちょっとじゃないです!)
それはもういくらなんでもやりすぎだ、全焼したら一体どうするつもりだったのか。
「……なんて事を……」
マコトでさえそう思うのだから、隣に立つサラなどは顔を真っ青にさせている。倒れそうなサラをとりあえず手近にある椅子に座らせてから、マコトはとりあえず謝って下さい、と通じもしないであろう事を思ってみる。しかし当の本人はけろりとした顔で、子供のように鼻を鳴らした。
「別に全焼しても良かったのに」
「……サーディン」
彼の名前を低く呼ぶその声は、いつも以上に厳しい。
サーディンはサハルの厳しい視線にひょいと肩を竦めて、だって、と前置きした。
「証拠になるでしょー?」
ふざけた口調にサハルの眉間に皺が寄ったが、ふと視線がマコトに向き、そのまま固定される。
(サハルさん……?)
じっと見つめられて何かあるのだろうと思ったのと同時に、サーディンがするりとマコトの腰に手を回して抱き寄せた。
「余計なモノはいらないっていう僕の意志表示」
「え?」
呟いたマコトとサハルの視線がかち合う。
一瞬苦虫を噛み潰したようにサハルの表情が歪み、そして、逸らされた。
(何か、……)
このやりとりに何か意味があるのだろうか。昨日の出来事で幾分耐性は出来ている。腰に回った手を引き剥がそうと手を伸ばした所で、賑やかな足音が耳に飛び込んできた。
「おい、なんかすげぇ声したけど、~ッて! ッまたお前かよ!」
「サーディンさん! マコトさんを離して下さい!」
水浴びでもしていたのか何故か髪が濡れているカイスとハッシュが加わり、一際賑やかになる。観衆が増えた事で落ち着きを取り戻したのか、サハルは仕切り直す様に小さく溜め息をついた。
「一つ教えてください」
「なに~?」
掴み掛かってくるカイスから、身軽な動きでひょいひょい逃げながらサーディンは返事を返す。
「……私とタイスィールを遠ざけて、貴方は昨日どこに?」
その問いに分かりやすくマコトの表情が強張る。耳を赤くさせて俯いたマコトに、サハルのこめかみに青筋が浮いた。
「まさか、マコトさんと一緒に?」
その言葉に、カイスとハッシュが驚いた様にマコトを見つめる。しんと静まり返った雰囲気の中、そぐわない明るい声が響いた。
「正解! まぁでも進展とか無いから安心していいよ」
張り詰めていた緊張感が一気に緩んだ。
「本当に何にもしてないんだろうな?」
そう確認しながらも、分かりやすく表情を和らげたカイスとハッシュ。サハルも幾分ホッとした様に柳眉を解く。
が。
「ん~ちょこっと一緒に寝て、おっぱい触った位かなぁ」
全員の動きが止まる。
(その言い方は……っ!)
誤解を受ける、と一緒に固まっていたマコトだったがすぐ隣でサラの体がくらりと傾いた事に気付き、慌てて手を差し出し細い肩を支えた。
「だ、大丈夫ですか」
「……え、ええ、大丈夫ですわ。心配をお掛けして申し訳ありません。いえ、それよりも一体どういう事なんですか……っ」
身体を起こし、泣きそうに潤んだ瞳のままサラはマコトに詰め寄った。
どういう事なのか、あの状況を一から十まで説明――するとなると、サーディンがサラに魔法を掛けた所から説明しなければならないだろう。今更、出来る訳が無い。こうなるのなら最初に話しておけば良かったと後悔するが、そんな事もう後の祭りだ。
「本当ですか」
サーディンに聞いても無駄だと分かったのだろう。サハルまでもが珍しく問い掛けて来る。いつも温和な彼のその顔には表情らしきものは浮かんでおらず、逆にその静けさが恐ろしかった。
「ぅ……えっと……あの、ちょっとした事故というか」
脅されて連れて行かれたと言えば、サーディンがどうなるか予想もつかない。庇う義理は無いがやはり自分が原因になって諍いが怒るのは嫌だ――もっともそれも既に遅いかもしれないが。
マコトがわざと曖昧に誤魔化せば、意図とは反し、真実性を増す事になった。
ちゃき、と刃が滑る軽い音がした次の瞬間には空気を裂く音がして、慌てて視線を向けると、これ以上無いくらい眉を吊り上げたカイスが無言のままサーディンと対峙していた。カイスの隣にいるハッシュは何かあらぬ想像でもしたのか顔を真っ赤にさせていて、サラが向ける冷たい視線に気付くと慌てて俯いた。
「……もうホントにお前は死ね!」
そう言いながら大きく振りかぶってサーディンに振り下ろす。
冗談なのか、本気なのか、マコトには判断出来ないが、サーディンは余裕綽々と言った表情でかわしているのでとりあえず様子を見守る。ひとしきり暴れた後、カイスはようやく落ち着いたのかハッシュの後ろで舌を出すサーディンをぎろりと睨みつけて吐き捨てた。
「ガキの胸なんぞまな板と一緒だろうが! そんなもん触って喜ぶお前の気がしれんわ! ……いや、無いのがいいんだったか。お前は」
救いようがない、と続けたカイスにサーディンは、おや、と器用に片眉を上げた。幾分落ち着いた様子のハッシュもまた動きを止め、何か後ろめたそうに視線を彷徨わせた。
(え……)
沈黙が指すのは胸の話題。
そういえば、ハッシュにも見られている。聡いサハルなら気付いている可能性も高い事に今更ながら思い当たる。
つまりサーディンはカイスだけが知らないのだと、からかうつもりなのだろう。
「なァるほどね~」
ただ一人表情の変わらないサハルを最後にそれぞれの顔を順番に見渡し、サーディンは猫のようににっと笑った。マコトの胸が騒ぐ。思えば口止めなどしていない。まさか、ここで彼は言うつもりなのだろうか。
「うんうん。面白い事になったね」
「……一体なんなんだよ」
何か知ったようなサーディン様子と違和感のある周囲に、そう吐き捨ててカイスはサーディンを睨む。
「そうだねぇ。一つ言える事はヤッパリ」
(言わないで言わないで……っ!)
マコトは心の中でそう願う。
可愛らしく首を傾げて、サーディンは軽薄に笑った。
「カイスって馬鹿だよね」




