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第二十三話 鈴 1 


 早朝、マコトは昨日と同じ様に台所に立っていた。


 勿論一人で、と言いたい所だが、今朝はハッシュが付き添ってくれている。勿論断ったのだが、 異世界の調理方法も見てみたい、と言われてしまえば 首を縦に振るしかなかったのだ。サハルといいハッシュといい、この世界には負担にならない気の回し方を出来る人間が多いと思う。ただ一つ救いがあるとすれば、サハルと違いハッシュは料理は全く出来ないらしく、もっぱら見ている専門だと言う事だ。


 マコトが目覚めた時にはハッシュは既に起きており、ゲルの柱に背中を預け分厚い本を読んでいた。早朝から勉強なんて、と想像以上に真面目な彼にマコトは心から感心してしまった。


 しかし――


 鍋をかき混ぜながら、ちらりと眠そうに目を擦るハッシュを見る。

 ……まだ幼い顔立ちをしている彼は明らかにぼうっとした表情でメモ代わりの紙を見下ろしていた。時々不自然に視線が固まり、そしてすぐに慌てたように背筋が伸びる。


 マコトの世界で言うところの船を漕いでいる状態である事は間違いなく、そんなハッシュにマコトは微かに眉尻を下げ沸騰してきたスープに視線を戻した。


(……もしかして同じゲルに泊まったせいで眠れなかったのかな)


 時間と共に増していく強い日差しに、タイスィールから貰ったスカーフを被り直し、その影で溜め息をつく。

 今は、慣れない環境の疲れもあり気が付けば眠りに落ちている事が多いが、マコトもか つては学校の修学旅行などの行事の時は、他人の気配が 気になってなかなか眠れないタイプだった。


『もしかして昨日眠っていないんですか』


 感心してすぐ、ずいぶんと短くなった蝋燭に気付き 、マコトはそう問いかけたが、ハッシュは何 故か視線を逸らせて『……いいえ?』と首を振った。


(……きっと深く聞いても、そうじゃないって言ってくれる)

 ハッシュはきっと穏やかで優しい 少年なのだろう。マコトの世界の事もきっと……もっと聞きたかっただろうに、適当に区切りを付けて引いてくれた。欠伸を噛み殺すほんの手前だったので、正直助かったと思った。


(ハッシュさんの所には、もう泊まらない方がいいよね)


 それに、また昨日の様な騒ぎを起こしたら大変だ。

 自分が一言、『着替えるから後ろを向いていて下さい』と言えばそれで丸く収まったのに、気遣いすぎたのが逆に仇になった…… いや、居候させて貰っている身分で、自分から何かを言えば図々しいと思 われる様な気がして言えなかっただけだ。


 何度も謝ってくれた背中を思い出し、マコトは自嘲気味に笑う。マコトだって年頃なのだから着替えを 見られた事は恥ずかしいが、それよりも ハッシュを驚かせてしまった申し訳無さが先に立った。


 何も裸だったわけでは無く、キャミソールは身に付けていたし、それ程ハッシュには見られてはいないだろう。ただ胸の事を突っ込まれるかと不安だったが、今この時点で何も言わない所を見るとそれも無さそうだ。


(……次、誰かのゲルに泊まる時は気をつけよう)


 心の中でしっかりと頷き、ふと気付いた。


(もしかして候補者一回りすれば終わりなのかな)


 確か候補者と親睦を深める事が第一目的で、それから一人だと毒虫の類で危ないからとタイスィールに言われたのだ。サハル、アクラム、カイス、タイスィール……そして昨日はハッシュ。指折り数えてマコトは、あ、と小さく声を上げる。残っているのは言うまでもなくサーディンとナスルだ。掴みきれないサーディンは勿論だが、それよりもナスルのゲルに泊まる事の方が気が重かった。


(でも、ナスルさん候補から外れたがってるみたいだったし……うん、今日はサーディンさん、かな)


 何となくそう思った。というよりもそう 思いたかった。しかしそう片付けてもサーディンだって分かりやすい意味で危険人物だ。果たして無事に夜を過ごす事が出来るだろうか。


(でもそれさえ終われば)


 今は女の子もいるし、候補者のゲルを回り切れば、三人で共同生活が出来るのでは無いだろうか。しかし、そうなると年下の女の子に守っても貰う事になる。それにサラはともかくニムには間違いなく嫌われている。 カイスとのやりとりから考えると、一緒に住みたくないと面と向かって断られそうだ。


(じゃあ、どこに……?)


 一番初めに脳裏に浮かんだのは、『兄と呼んでください』と言ったサハルの顔だった。 しかしマコトはすぐに首を振って打ち消す。


 ああ、やっぱり。


 ――居場所が、無い。


 心の中で呟いて、また小さく息を吐き出した。








 昨日整理したおかげで、前日よりは手際良く朝食の準備が出来た。


(もうちょっとお塩かな)

 スープを味見し、少し塩を足そうかと棚に手を伸ばしたその時、 骨ばった誰かの手がマコトのすぐ横に伸ばされ、小瓶を取り上げた。


「これですか?」


 頭のすぐ上から振ってくる柔らかな声にマコトは心の中で小さく溜息をつく。裾の長い衣が風に煽られマコトを包み込むように揺れた。


「……はい。有難うございます」


 顔を見なくとももう分かる。こんなに穏やかな声で話すのは彼しかいない。


「おはようございます。サハルさん」


 マコトは小瓶を受け取ると、すぐ隣に立つサハルを見上げた。強い日差しが目に刺さりマコトは目を眇める。おはようございます、と柔らかく微笑む彼は、寝起きだとは思え無い程爽やかだった。


 笑みを称えたままサハルはすっかり出来上がった鍋の中のスープと焼き上がったパンを見て、少し困ったように眉を寄せた。


「お手伝いさせて頂こうかと思ったのですが、必要無さそうですね」

「……そうですね。お気遣い有難うございます」


 小さく頷いて控えめにマコトは頭を下げた。

 それを見てサハルは少し考えるように間を空ける。


 その静寂に居心地の悪さを覚え、マコトは助けを求める様に サハルから木陰にいる少年へ視線を向けたが、ハッシュは気持ち良さそうに微睡んでいた。

 紙が数枚、風に吹かれ手元から離れ砂の上に散ら ばっている。



 ゆっくりと口を開く様子が、視界の隅に映る。

 少し緊張してサハルを見上げて言葉を待てば、 そのまま真っ直ぐに見つめ返され、いつも浮かんで いる笑みが消えていた。


「……では明日は手伝わせてくれますか?」


 少し声を落としたその声には、請う様な、しかしどこか挑戦的な響きが含まれていた。


「……え」


 サハルがまた手伝いを申し出てくれる事は 想定済みだったが……今の口調はいつもの彼らしくない。


 目の前にいる優しいサハルがまるで知らない人間の様に思えて、違和感に戸惑い 断る言葉が出て来なかった。ここは素直に頷いた方がいいのでは、と思う一方で これ以上甘えては駄目だともう一人の自分が忠告する。


「……ぁ……」


 しかしいい断り文句が思い付かずどうしようか考えて、マコトの目は自然とサハルから離れ 、煮立ち出した鍋に向いた。その時、


「マコトさま……ッ」


 悲鳴の様なか細い声が上がり、マコトは顔を上げた。

 台所の外で立ちすくんだままマコトを凝視しているのは、昨日ハッシュと共にやってきた少女の内の一人だった。薄紅のショールを頭からすっぽりと被り、少し垂れた目を零れそうなほど大きく見開きマコトを凝視していた。


「サラさん……?」


 確かそんな名前だった筈と、頭の中で確かめてから呟くと、ぴくっとその身体が動いた。


「『イール・ダール』が食事の準備をなさるなんて……っ」


 小さな卵型の顔は見る見る青ざめ、その場に倒れてしまいそうによろりと後ずさった。 しかしすぐに体勢を整え小走りにマコトのいる台所に入って来る。


「私が用意致しますので、すぐゲルにお戻りになって下さいっ!」


 手にしていた箸を華奢な彼女からは想像出来ない強引さで奪われ、目を瞬く。

 マコトと同じようにサラの勢いに驚いていたらしいサハルが、 咳払いを一つして押し止める様に静かに口を開いた。


「落ち着きなさいサラ。朝食の準備ならもう終わっていますから」


 ただ一人の傍観者でもあるサハルが、助け舟を出すようにそう言って鍋を指差した。それを聞いたサラは慌てて鍋の中を覗き込み、中身を確認すると身を縮み込ませて頭を下げる。


「も、申し訳ありません……っ私、世話係ですのに。主人よりも後に起きるなんて」


 世話係――昨日も聞いたその単語にマコトは眉を顰める。やはりサラは本気だったのか。 自分の事は自分で出来るし、出来なかったとしても、他人には頼りたくない。 ましてや自分より年下の女の子に世話を焼かせるなんて論外だ。


 世話係なんて必要無い、そう断ろうと口を開きかけたが、 はっきり断ると真面目な性格らしいサラは傷付くだろう。

 少し迷ってマコトは気安い口調で話し掛けた。


「……えっと、今やる事無くて暇なんです。 だから作らせて貰えませんか?」

「そんな……っではお勉強や刺繍なんて如何ですか?  祖父からたくさん衣装も持たされましたし、一度合わせて着替えなどお楽しみになられては」


 とんでもないとばかりに首を振られ、 代わりに出てきた代替案にマコトは顔を引き攣らせた。学問なら分かる。刺繍も何となく理解出来た。しかし最後の一つは何なのだろう。


「いえ、ほんとに気分転換に料理の仕度をさせて貰いたいんです」

「しかし」


 しつこく食い下がるサラにマコトは悩む。それを見かねたの かサハルがマコトに詰め寄るサラをたしなめた。


「本人がこう言っているのだし、やらせてあげなさい。 それにマコトの料理の腕は私が保証しますよ」


 にこりと微笑みを向けられてサラの顔がほんのり赤く なる。しかしそれでもサラは下唇を噛み締め「……でも……」と言葉を濁した。



 結局サハルと、騒ぎを聞きつけ後からやってきたタイスィールの説得にサラは折れ、 それならば自分も手伝います、と申し出た。


 そうなると成長盛りであろう彼女に早起きを強制する事になるが、断ればそれこそ倒れてしまいそうな雰囲気に結局はその申し出を受け入れる事に なりそうだった。


(ほんとに好きでやってるんだけどな……)


 逆にこれを取り上げられたら困るのだ。何もせずに居候のままでいるなんて気まずくて 仕方無い。出来るならもっと仕事や手伝いを増やしたいと思っている位なのに。


「マコトもそれでいいかい?」


 確認するようにタイスィールがマコトを見る。その横でサハルも気遣わし気な視線を向けていた。


「分かりました。宜しくお願いします」

 サラに向かって頭を下げれば、飛び上がる程驚いた少女が慌てて顔の前で首を振った。


「私如きに頭など下げないで下さいませっ!」


 恐縮しきったその様子から察するにどうやら本心らしい。 『イール・ダール』と言う肩書きは、マコトが思っていた以上に大きいらしい。 しかし、自分は何の変哲も無い平凡な少女で、その違和感がだんだん大きく不安になってくる。 サラに視線を向ければ少し緊張した様子で姿勢を正し、俯かれる。


 ――『神聖視』されすぎている。

 自分には不相応すぎて笑えない。これならまだまだ敵対心を剥 き出しにしてくるニムの方が、よほど理解出来た。




 私がやります、と渋るサラを宥めながら、 鍋の中のものを温め直していると、昨日と同じ様に匂いに 釣られ、カイスがやって来た。今日は野菜スープに、保 存食用の固いパンをマコトの世界で言う所のフレンチトーストにしてみた。似たような料理はあるらしく、ハッシュに味見して貰った所、『美味しいです』と太鼓判を押して貰ったので多分、大丈夫だろう。


「マッコト~っ!」


 叫び声よりももう少し軽い声が耳に飛び込んで来 たと思ったら、背中から誰かに抱きつかれた。

 マコトを羽交い締めにした のは言うまでもなく、サーディンだ。


 というかいきなりこんな事をするのは彼しかいない。しかし 初日の様に息が出来ないほど強く抱き締められた訳では無かったので、驚いたものの次の瞬間には苦笑し離れようとした。きっと誰にでもこういう事をする人なのだと思えば おのずと対処法は分る。焦って騒ぐのが一番面白がられるのだ。


「何しやがるっ!」


 しかし、カイスはそう思わなかったらしい。あるいは気付いていないのか。 弾ける様にすぐに駆け寄り掴みかかったカイスを見て、サーディンはにやりと笑った。そして ひょいっとマコトを持ち上げ、さらりとかわす。……もしかするとサーディンは自分では無く カイスに構ってもらいたいのでは無いだろうか。


 しかし突然の展開にサラは両頬に手を当て卒倒しかけ、いつの まにか起きていたハッシュはそんな彼女を慌てて支えた。


 マコトは焦りながらも、ここにサハルさんがいなくて良かった、 と胸を撫で下ろす。彼は寝起きが悪いらしいニムを 起こしに席を外していた。だからサハルがいる時の ような背筋に冷たい汗が流れる程の空気の悪さは無い。


「聞いてよ、最悪ぅ~南の市場に言ったらさぁ、ひげもじゃのむ さっくるしいおっさんに会っちゃった」


 目の消毒、目の消毒っとマコトの頬に自分の顎を摺り合わせスリスリする。その度にチクチクっと何かが刺さってマコトは驚いて一瞬目を瞬かせた。


(……え……っと)


 考えるまでも無くそれは髭だ。しかしサーディンの少年めいた風貌にそんな男性を感じさせるものが結びつかず一瞬戸惑ってしまった。


(そっか……男の人だもんね)


 ちらりと見上げた顎は女性の様に細いが確かに喉仏がある。腰に回された腕もやはりマコトよりは太い。


「離れやがれッこの変態がぁっ」


 しかしセクハラ以外の何物でも無いその行動に、青筋を浮かせたカイスが、 一切手加減無さそうな回し蹴りをサーディンの背中に向けた。 明らかな殺気を纏ったそれを紙一重でかわし、サーディン にしては珍しく素直にマコトを地面に下ろし解放した。


 カイスはすぐにマコトの腰を浚い、自分の傍らに引 き寄せる。そのまま荷物のように抱き込まれ、その力の加減の無さにマコトは眉を寄せ視線を彷徨わせた。


 この面子の中で唯一緩衝材になりそうなタイスィールは、顎に軽く拳を当て、考え込む様に一点を見つめていた。しかしマコトと目が合うとようやく気付いたと言う様ににっこりと微笑み、歩み寄るとカイスの腕からマコトを幼子の様にひょいっと抱き上げた。 意外な行動にバランスを崩したマコトは慌ててタイスィールの頭にかじりつく。


(いた……っ)


「……おや」


 タイスィールの目が一瞬眇められ、感心した様な声が漏れた。 ――胸が頭に当たった鈍い痛みよりも、何かに気付いた 様なその声の方が気になり、マコトは体を強ばらせた。


『その胸じゃ苦しいわよ』


 オアシスで水浴びした時の、イブキの言葉が脳裏に蘇る。

 それ程大きな胸、と言う訳では無いが、身長や腕や足の細さ――つまりそれ以外が小さ過ぎて、実際のサイズよりも大きく見えると友人にからかわれた。また、それを裏付ける様に痴漢にもよく被害にあった。


 裾を詰めた服の切れ端でさらしの様なものを作ろうかと思ったが、服の繊維は荒く伸縮性が無いものばかりで、ちょうどいい生地が無かった。それに痴漢対策に元の世界でも胸にさらしを巻き抑えつけた事があったが一時間も経たない内に気分が悪くなり早々に外してしまった。


 しかし今はそんな事を言ってられないかもしれない。やはり無理を推しても胸を隠すべきだろうか。しかしこんな灼熱の太陽の下では数分も経たない内に貧血を起こしてしまいそうだ。


 マコトは慌ててタイスィールから体を離し、背筋を伸ばす。見た目よりも力 があるらしくタイスィールは片手でマコトを抱き上げたまま、唖然と しているカイスに向かって軽く片目を瞑った。そしてマコトをゆっくりと地面に下ろす。


「カイス、女の子の扱いは丁寧にね」


 説教めいた一言に、奪還する事に集中しすぎたせいで、強く抱き締め過ぎた事に気付いたらしい。 カイスは不機嫌な表情を作りながらも「悪かったな」と小さく呟いた。マコトは慌てて首を振る。


「いえっ大丈夫です。いつも助けてくれて有難うございます」


 二人のやりとりを年長者らしい表情で見守っていたタイスィールだったが、 マコトから離れ隅の方で拗ねたように丸くなっているサーディンに歩み寄り名前を呼んだ。


「サーディン、さっきの話だけど。市場で会ったのは、北のロジナの事かい」


 タイスィールの問いに、ちらりと顔を向けサーディンは「そうだよ~」と 気の無い返事をした。それを聞いたカイスの目に不穏な気 配が小さく現れ、眇められた事にマコトは気が付いた。


「……そりゃ、随分遠くまで遠征してきたな」


 口調はあくまで普段のままだが、その瞳は鋭い。 きっとあまり良い情報では無かったのだろう。


「それ位必死って事じゃないの~。でさぁ、珍しい物マコト のオアシスで拾ったってさぁずーっと自慢だよ自慢。ああもう本気でキモイよアレ」


 鳥肌でも立っているのか、サーディンは両腕を擦る素振りを見せ、親指の爪を軽く噛む。


「よりにもよってロジナか……彼は色々しつこいからね)


(オアシス……私のって事は……こっちの世界に来た時に生まれてくるっていう……)


 そんな場所で拾い物、なんて。

 この世界に来た時に持っていた物は 、筆記用具とスケジュール帳しか入っていない鞄と、卒業証 書、カーネーション。もしかするとその中の一つだろうか。


「珍しいもん?」

 マコトの疑問に代わってカイスはそう訪ねた。


「ん、動物かたどった鈴みたいなの」


 ピンと来るものは確かに合った。今思えばこの世界に来るきっかけ になったもの。仏前にあるものと揃いの――子猫のキーホルダー。


「マコトのか?」


 カイスに問われてマコトは一瞬答えに詰まった。

 出来れば手元に戻って来て欲しい。しかし今の会話の内容から察するに、それを持ってるロジナと言う人は一筋縄ではいかない人物なのだろう。 ここで頷けば、きっと誰かが取り返してくれる筈だが、自分の我が儘で手間を掛けさせるのは気が引けた。


 それに。


「心当たりが?」


 黙り込んだマコトに気付き、タイスィールはそう問い掛けた。

 マコトは顔を上げ、ゆっくりと首を振った。


「いいえ」


 ――戻る場所の無い自分には必要の無いもの。


 マコトは自分にそう言い聞かせ、感傷めいた我侭に気付かれないように笑顔を作った。


「そっか。ならいいけどよ」

 にかっとカイスが笑って、近くの椅子に腰を下ろす。

 そして、いまだ眠そうに目を擦るニムを連れたサハルが戻り、 アクラムとナスルを除いた全員が揃った所で、賑やかに朝の食事が始まった。








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