第九十六話 流転 5(タイスィール視点)
*短いので20時二話投稿しています。前話からどうぞ
サーディンが確かに王都に戻り、そしてその姿がどこにも無い事を確かめたサハルの次の行動は早かった。
王宮魔術師の中でもサーディンに次ぐ実力がある彼の副官でもあるヤッカムの協力を取り付け、マコトの部屋に呼び、サーディンの魔力の痕跡を追わせた。
タイスィールと残りの候補者達も合流し、ラナディアに刺された時以上の西の一族の不始末を外に洩らす訳には行かず、一同はマコトの部屋に集まり、それぞれ思い思いの顔をしてヤッカムを見つめていた。
魔術師の鳶色の杖が指し示したのは、西。
王都からは既に気配は感じないと、厳かに告げた声を聞き、サハルは背にしていた壁を拳で力任せに打ち付けた。冷静沈着な彼が苛立ちを表に出すのを見たのは、随分久しぶりだとタイスィールは注意深くそんな彼の様子を伺う。
(……西)
西には市が立つようなオアシスが多数点在し、観光客や行商人が行き交う故に雑多で宿泊施設も多い。
瞼を閉じ、タイスィールは頭を巡らせる。
焦燥感や苛立ちは確かに存在するのに奇妙に頭は冴えていた。
……サーディンはマコトを害したい訳では無い。傷は塞がったものの未だ全快とは言い難いマコトの体調を考えれば、以前生活していた集落までが限界だろう。サーディンがマコトに好意を寄せている事は確かだ。……しかし、彼には虫の足をもぐ様な子供特有の残酷さがある。
サーディンはその気ままな性格故に住む場所も転々としており、マコトの候補者になるまでは、顔見知り程度の付き合いしかして来なかったタイスィールには、馴染みにしている場所すら分からない。しかしこれは彼ばかりでなく恐らくここにいる全員がそうだろう。
……悉く彼の尻拭いをさせられている彼の副官なら知っているかもしれない、と上官が起こした事の大きさに顔色を悪くさせながら所在無さ気に立っているヤッカムに視線を向けたその時――、
空をそのまま切り取った様な青い鳥が、開け放たれたままの窓から飛び込んで来た。その煌びやかさは明らかな魔力を内包して輝き、その異質さと否応無く彼の髪を思い出させるその色に、部屋中の空気が張り詰める。
サハル達の視線を一斉に集めた鳥は、どこ吹く風とばかりに淡い乳白色の小さな嘴で毛繕いした後、彼等がよく知る声を放った。




