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第九十一話 交わる想い 5(カイス視点)

「……なぁ、あいつらってさ」


 離宮の出口に向かう一団の中、ぽつりと言葉を発したのはカイスだった。

 その続きが分かったのであろう前を歩くタイスィールは、肩をそびやかしたのみで、他の誰もその続きを促そうとも尋ねようともしなかった。まるでその答えを恐れるように。


 止まる事の無い足音だけが石造りの長い廊下に響く。


(……あー……ちくしょう)


 サハルとマコトの、繋がった手に恐らくその答えがあるのだろう。

 マコトが倒れた時から感じていた予感は確信に変わり、言い様の無い苛立ちと後悔に、カイスは唇を噛み締める。


 実際そうなのだろう。

 生まれか性格か、マコトは弱さを見せる事を良しとしない人間だという事は、微かな切なさと共に知っていた。だからこそ、あそこでサハルの袖を引いた事に驚いた。少し前のマコトなら誰かに頼る事など無く、あんな縋るような目を向ける事も無かった。


 ――自分は、マコトにあんな信頼された目で見つめられた事は無い。


 どうして自分ではないのか。

 何が悪かったのか。何を見逃したのか。


 心当たりがある分、苛立ちを抑える事が難しかった。


 タイスィールが背中を逸らせる様に視線を向け、苦虫を噛み潰した様な顰め面で黙り込んだカイスに、苦笑いを浮かべた。


「マコトも、成長したね」


 寄りかかる事を覚えたのだと、何もかも分かった様な声で諭したタイスィールに、カイスはきつい眼差しを向ける。子供っぽい八つ当たりだと言う事は自覚していた。


「お前は……っ……」


 それでいいのか、と続けたカイスは、身体を返し自分を真っ直ぐに見つめるタイスィールの表情を見て、口を噤んだ。


 良い筈など無い。彼がマコトを気に入っていたのは知っていたし、自分と違ってその想いをマコトに伝えてもいた。そう――自分と違って。そうだ。あの時だ。あの時もし、自分が想いを伝えていたらこんな消化不良にも似た後悔をする事は無かったのかもしれない。


 黙り込んだカイスは、足元に視線を戻し、きつく拳を握り締めた。


 ふと沈黙が続き、タイスィールが何か思いついたように、前に行くアクラムに声を掛けた。


「だから君もね。あまりマコトにお菓子やら用事やら頼まないようにね」


 アクラムは歩を緩める事もせず、その言葉を綺麗に無視した――いや、耳に届いていないと言う所か。

 僅かに視線を落とし、ただ前を行くアクラムの表情は分らない。


 タイスィールは、苦笑してから肩をそびやかし、カイスの後に続いた。


 そして最後尾にいたハッシュは、黙り込んだまま一度立ち止まり後ろを振り向いた。彼女と彼がいるその部屋の扉は既に遠く――離れている。


「ハッシュ。行くよ」


 ハッシュは、きゅっと唇を噛み締めるとくるりと踵を返し、先を歩くタイスィール達と合流した。




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