148.山猫たるゆえん
帝都内、胡桃隊の副隊長シャーロットは、神聖皇国の聖女、シャンテと相対している。
シャンテはリューウェンとともに行動していた聖女のひとり。
聖女とは名ばかりで、赤いかみに黄金の瞳。
そして、ふー、ふー、と興奮気味に呼吸をする様は、なるほど野生の獣ようだ。
「あたいらは負けるわけにはいかねーんだよ! どきな、嬢ちゃん!」
「…………」
臨戦態勢のシャンテとは裏腹に、シャーロットは実に冷静だった。
眼鏡の奥から、シャンテを見つめる。
「(おそらく……上位存在がいるはず。捕まえて吐かせる)」
シャーロットは氷の剣……氷双剣を構える。
だが走り出すようなことは、しない。
「先手必勝! おらぁ!」
シャンテは一瞬で目の前から消える。
赤い旋風となってかけぬけて、シャーロットの間合いに入る。
「そら! どうだい!」
シャンテの攻撃を、シャーロットが避ける。
だが避けたつもりだったが、ぱっ、と彼女の服が裂け、燃える。
シャーロットはすぐさま氷の力で鎮火。
しかしそのときにはシャンテの姿がない。
「…………」
おそらくは超高速で動いてるのだろう
恐ろしいまでの運動能力だ。
まああと、それだけじゃない。
しゅっしゅっ、とシャンテが高速異動しながら、シャーロットの体を削っていく。
服が破れ、ぱっ、と燃える。
やがてシャーロットは……敵の攻撃を見抜く。
がきんっ! と氷の剣で【それ】を受け止めた。
「ほぅ……炎の爪、ですか」
シャンテの手からは、炎の爪が両手に5本ずつ伸びていた。
四足歩行し、長い爪を持つその姿は、なるほど、山猫のごとし。
「なっ!? てめババア! あたいの攻撃が見えていたのかい!?」
ババア呼ばわりされても、シャーロットは冷静を保ったまま……。
眼鏡の位置を直す。
「……ケツの青いガキが、調子載るなよボケが」
地獄の底から這い出てきた、化け物のような声で、そうつぶやく。
ぱきぱき……と地面が凍っていく。
……どうやら、シャーロット的に、年齢の話はタブーのようだった。




