142.幻妖のモルフィン
魔蟲族が帝国に襲撃をかけてきた。
帝国軍のひとり、オスカーは銃を使って魔蟲どもを退けていた。
そこへ……。
「困るわ~。あんたにやられてると、うちのボスが困るんや」
「! 魔蟲族……」
オスカーが上空を見上げる。
そこに居たのは、極東のキモノという特殊な服に身を包む、妙齢の女。
キモノに、黒髪。
どこぞの芸者と思われるような風体。
しかしその背中からは、蝶を彷彿とさせる翅が生えている。
魔蟲族。しかも、かなりのやり手だとオスカーは気づく。
……彼は、軍随一の頭脳を持つ女、リヒター・ジョカリの言葉を思い出す。
『魔蟲族は進化します。それも、強くなればなるほど……不思議なことですが、人間に近いフォルムに変態するようですぅ』
ガンマと戦った、剛剣ヴィクター。
やつは筋骨隆々の、人間のレスラーみたいな見た目をしていた。
この女もそうだ。
一見すると細身の、人間の女に見える。
(要注意……ってことか)
「君は、魔蟲王護衛軍ってやつかい?」
「あらうちのこと知っておりますの? そう……うちは【モルフィン】。幻妖のモルフィン」
「げんよう……」
オスカーが警戒を強める。
どう見ても相手は細身。とてもじゃないが真正面からツッコんでくるタイプでは無い。
それでいて、姿を堂々と見せてきた。
(搦め手を使うタイプか……相手を油断させるとか?)
「正解♡」
ザシュッ……!
「ガッ……!」
モルフィンが、いつの間にオスカーの背後に回っていた。
その手には鉄扇が握られている。
「くっ……!」
オスカーは銃で応戦。
だがその銃弾がモルフィンを通過していった。
「幻術……!」
「気づいたところで遅いわぁ」
ぶぶん、とモルフィンが分裂する。
その数は10。
「うちは幻妖のモルフィン。護衛軍随一の幻術の使い手……ふふ。坊や、うちになぶり殺しにされることを、光栄に思いなさい」




