140.活
魔蟲王の護衛軍が一人、剛剣のヴィクターとの再戦。
メイベルがさらわれたことで集中力を斬らした俺。
ヴィクターの一撃をもろにうけそうになった。
そこへ、メイベルの姉……アイリス・アッカーマンが現れたのである。
「アイリス隊長……」
黒い鎧を着込んだ、赤い髪の騎士。
どこかメイベルに似た顔つきをしているが、姉である彼女のほうが、鋭い目つきをしてる。
「すみません……! 俺のせいで……メイベルが……」
彼女が戦況をどこまで把握してるかわからない。
だがこれだけは言っておかないといけない。
「メイベルが……さらわれました……」
「!」
アイリス隊長の表情がさらに険しくなる。
……だが、彼女は目を閉じて息をする。
「ガンマ。今は戦いに集中しろ」
「し、しかし……」
「メイベルは、強い女だ。大丈夫だ」
……俺は見た。
彼女の拳が、ぎゅーっと握りしめられてることに。
俺の目は、たくさんの情報を見抜いてしまう。
アイリス隊長が、本当はとても不安がっていることもわかる。
それでも……彼女は隊長として、軍人としての責務を全うしようとしてる。
つまり、敵をしりぞけ、帝国民たちを守るということ。
「…………」
俺は……何やってるんだ。
軍人になったんだぞ?
もう自分ひとりのことだけを考える、狩人ではないんだ。
しっかりしろ!
「……すみません。取り乱してました」
すぅ……と視界が開ける。
ヴィクターが俺を見て、少しだけ……ほんの少しだけ、笑った気がした。
「隊長。ここは俺に任せてください。蜻蛉の矢で追尾させてます」
俺は魔法矢、蜻蛉の矢を使う。
まわりに、魔法で作られたとんぼが発生。
こいつがもう一個のとんぼの居場所を教えてくれる。
「任せて大丈夫なのだな?」
「はい!」
アイリス隊長はうなずくと、とんぼの影の中に入り込む。
彼女は、影呪法といって、影を操るスキルを持っているのだ。
とんぼが空をかける。
影の中に入ったアイリス隊長は、そのままメイベルの追跡へとむかう。
「いかせて良いのか?」
「ああ……我は貴様の足止めさえできれば、それでいい」
ヴィクターのやつ、俺が復活するまでの間、待っていやがった。
アイリス隊長に攻撃することだって、できたろうに。
「礼は言わんぞ」
「無論。これは殺し合いだからな」
俺は弓を構える。
やつは剣を持ち直す。
さっきまでとは違う。
俺は冷静に、獲物を狩ることができる。
……ありがとうございます、アイリス隊長。
心の中で感謝を述べて、俺は魔法矢を放った。




