気がついたら外堀が埋まってた件について
「フラン……? いくらリリアーナ嬢が優秀といっても、まだ子供だぞ?」
宰相閣下が顔を引きつらせながら言った。
マリアンヌさんや父様も同じように困惑した顔になっている。
そうだそうだー!
私は11歳の女の子だぞー!
「俺は無茶を言った覚えはありません。彼女なら可能です」
「確かに……リリィならできなくはない、か」
「兄様?!」
なんで兄様まで納得してるのー!
「ハルバード家で起こった執事の汚職事件、証拠集めをしたのは他ならない、リリアーナ嬢だ」
「私は検算してただけだよ! 細かい分析は兄様とフランの担当だったじゃない」
「だが、そのおかげでここ10年の金の流れは把握しているだろう」
「……ざっくりとしかわかんないよ?」
「まずはそれだけ理解していれば十分だ」
どこがどう充分なのさああああ……。
「それに、毎日『タイソウ』と称して使用人の顔を見に来るお前は、彼らに信頼されている。お前が城に残るならついてくる者は多いだろう」
「ええ……そうなの……?」
国民的ラジオな体操はほぼ趣味でやってたんだけど……。
「頭の回転は悪くない、業務も把握できている、その上使用人に慕われるハルバードのご令嬢だ。永続的には無理でも、一時的な領主代行ならこなせるんじゃないか」
「ちょっと待ってよ!」
私はフランに向かって身を乗り出した。
「うちの使用人は私についてくるかもしれないけど、新しい人材のほうはどうするの。さすがに、女の子が上司じゃ来てくれないと思うわよ」
「その点は成人ずみの補佐官を置けば解決できるだろう」
「そんな人材、どこにいるのよ?」
フランは真顔で自分自身を指さした。
「ここに。俺がお前の補佐について、ハルバードに残ろう」
「え」
「父上がこれから集めてくるのは、宰相家ゆかりの者たちだ。息子の俺が間に入れば、摩擦を最小限に抑えることができるだろう」
確かにフランは優秀だ。
その仕事ぶりは、ここ何日も見て来たからよくわかる。
勘弁してよぉぉぉ……フランのサポートつきなら領地の仕事が回せそう、とか思っちゃうじゃん……。
「なんでそこまでしてくれるの……」
「言っただろう、お前が足掻くのなら、どんな手段であっても、俺が手助けしてやると」
言ってたけど!
てっきり、あの場限りの台詞だと思ってたよ!
まだ有効だなんて思わないじゃん!!!
どうにも返事できなくて、私は苦し紛れに宰相閣下とマリアンヌさんを見た。
「宰相閣下はいいんですか? やっと再会した息子さんなのに、一緒に帰らなくて……」
「命を救ったご令嬢のために息子が決めたことなら、構いません」
「あまり反対する理由もないものね」
いいのかよ!
それでいいのか宰相家!!
フランが跡取じゃないからって、進路の自由度高すぎない?
「リリィはそれでいいのか?」
父様が私に尋ねた。
多分、父様は私が本気で「嫌だ!」って言ったら、何があっても許してくれる。
第一師団が壊滅しようが、兄様が学園を卒業できなかろうが、好きにさせるだろう。
でもだからこそ、甘えちゃいけない時もある。
「……いいわ。領主代理、やってみる」
父様も兄様も、領民も使用人も、誰ひとり見捨てるわけにはいかないから。
「ただしフラン! あなただけは馬車馬のようにこき使うから、覚悟しててよね!」
「ああ、望むところだ」
こうして、私は11歳でハルバードの領主代理になった。






