せめて一年
「現在のハルバードは、執事と騎士団の隊長を失って混乱しています。こんな状況で第一師団長と侯爵業のふたつを同時にこなすのは不可能です」
「侯爵の領主としてのお仕事に必要な人材は私が用意します。事務的な作業は彼らに任せればいい」
「優秀な部下がいるから、と任せた結果がこの惨状です。領地の立て直しは、ハルバードの者が采配しなければ、領民は納得しないでしょう」
うーん。
父様の意見は正論だ。領地の立て直しは、失態を犯した侯爵本人が責任持ってやらなくちゃダメ、っていうのはわかる。
でも父様はクライヴにお願いしないとダメなくらい、領地経営下手じゃん……。
宰相閣下に素直に甘えたほうがいい気もするんだよなあ。
「父様の第一師団長就任が、あと1年先ならまだやりようはあるんですけどね」
兄様がため息をつきながら言う。
「一年後、って何かあるの?」
「俺が学園を卒業できる。領主として跡を継ぐ資格が得られれば、すぐ領地を引き受けることができるだろう」
そういえば兄様は学園の2年生だった。今はもう学年の終わりの時期だから、あと1年通えば、卒業だ。
「アルヴィンにいきなり領地を任せるのは早くないか……?」
「ついさっきまで、執務室で仕事を回していたのは兄様じゃない」
ぶっちゃけ、今の時点でもう既に兄様のほうが上手に仕事をこなしている。卒業後すぐに代替わりしても、全然問題ないと思う。
「アルヴィンが卒業するまでの間、どうするかだな……」
ハルバード侯爵位は世襲制なので、兄様が父様の跡を継ぐのはほぼ決定事項だ。それでも、王国の領主として最低限クリアしておかなければならない資格というものがある。それが、『王立学園の卒業資格』だ。
どんなに他が優秀であっても、学園を卒業していない者は貴族社会で一人前と認めてもらえない。だから、領主になるなら必ず学園で卒業までのカリキュラムをこなさないといけないんだよね。
一瞬、兄様に留年してもらうことも考えたけど、それもダメだ。ストーカー騒動の時と違って、父様の騎士団長職は10年単位で続く可能性がある。その間ずっと留年しっぱなしというわけにはいかない。最後には卒業しないと。
マクガイアが告発されてしまった今、すぐにでも次の第一師団長を決めなくちゃいけない。
兄様が領主になるためには、あと1年学園に通わなくちゃいけない。
あとちょっとで解決できそうなのに、あとちょっとで解決できない。
私たちは、みんなそろって頭を抱えてしまった。
「何かないかなあ……」
ふと顔をあげると、フランと目があった。
彼は何故かじーっと私を見ている。
「何?」
フランは私の言葉に答えず、にいっと口の端を吊り上げた。
おい、なんだその悪い笑顔は。
すっごく嫌な予感がするんだけど?
「父上、ハルバード侯爵、俺からひとつ提案があります」
「何か思いついたのか?」
「アルヴィンが学園を卒業するまでの間、リリアーナ嬢を領主代理にしましょう」
「えええええええええええ?!」
思わず、令嬢らしくない叫びが口から飛び出した。
何言ってくれてんの?!






