裏切りの執事
木々の間に隠れていても無駄、と判断した私たちはゆっくりと彼らの前に出た。
「王都にいるはずのお前がどうしてここに?」
「親切な部下から、領内に不審者が入り込んだと報告を受けましてね。心配になって城に戻ってきたのですよ」
クライヴはフランを見て大仰にため息をつく。
「戻ってきて正解でしたね。槍を携え、魔法使いと結託する者など放置しておけませんから」
「要はスパイからフランが逃げ込んだって聞いて、慌てて帰ってきたってことでしょ」
私が指摘すると、クライヴはぴくりと眉を震わせる。
「領内にスパイなどいませんよ」
「じゃあ、あれはどう説明するのよ」
ざざ、と音をたてて私たちの後ろから黒装束の男たちが出てきた。
「ああ、あれは私の古い友人です。怪しい者ではありません」
獣人連れた黒装束集団のどこが怪しくないというのか。
まあ、これだけ関係をべらべら喋る、ってことはここにいる騎士は皆クライヴに取り込まれてしまっているんだろう。下手したら全員アギト国民かもしれない。
「坊ちゃま、その不審者をこちらに引き渡してください。無用な争いはしたくありません」
どっちにしろ殺す気のくせに。
彼らの秘密を知った私たちを生かしておくわけがない。
全員皆殺しにして、その罪をフランとディッツになすりつけてお終いだ。
そんなことにさせたくない。でも、正直なところほぼ手詰まりだった。
馬はない、人手もない。
フランは足を怪我しているし、気絶したままの女の子だって抱えている。
どう考えても、ここを切り抜けるのは無理だ。
でも、諦めない。
私たちは誰ひとりとして、こんなところで死ねない。
考えろ。
最後まで足掻くために。
「ねえクライヴ、私と手を組まない?」
「ほう?」
「このまま私たちを殺しちゃったらどうなると思う? 跡取のいなくなったハルバード家は求心力を失うわ。ばらばらになった侯爵家じゃ、甘い汁を吸えなくなっちゃうわよ?」
実際、ゲームでは兄がいなくなったとたんハルバード家は傾く。
クライヴならその未来が予測できるはずだ。
「それにね、この槍を持ってるお兄さん、ミセリコルデ宰相の息子さんにとーってもよく似てるの。城の地下に監禁して、うまく使えば身代金が稼げるわよ。後ろの黒服の人たちも、それを望んでるんじゃないの?」
「なかなか魅力的なご提案ですね」
「私、将来商売上手な奥様になりたいの」
「ですが、お断りです」
執事はきっぱりと拒絶した。
「最近のお嬢様は、妙に小賢しくていらっしゃる。下手に話に乗れば、寝首をかかれるのはこちらでしょう。正体を隠すためなら、少々の損は致し方ありません」
何度も思ってることだけど、有能な執事が敵に回ると本当に面倒だな!
キレてる私の隣で、兄様がジェイドに目配せした。
「行けるか?」
「はい!」
何かするつもりだ。その気配にターレスが敏感に反応する。
「坊ちゃまを止めろ!」
「遅い!」
兄様が手を頭上に上げると、空から大量の雨粒が落ちて来た。騎士も、暗殺者も、私たち以外が全員水浸しになっていく。
「なんだ……水魔法?」
「濡れただけだぞ?」
「ジェイド、やれ!」
兄様の命令と同時に、ジェイドが水たまりに手をあてる。そして、フルパワーで雷魔法を発動した。
「ぎゃああああああっ!」
突然の衝撃に、騎士も馬もパニックになってのたうち回る。
兄様が作り出した雨水のせいで通電しやすくなってたところに、ダイレクトに雷魔法を喰らったのだ。しかも、魔法を発動したのは私の何十倍もの魔力を持つジェイドだからたまらない。
「このスキに逃げるぞ!」
「待てっ」
走り出そうとした私たちの前に、ターレスの巨体が立ちはだかった。
雷魔法を喰らったはずの彼は、平然と剣を構えている。よく見ると、彼の取り巻きらしい兵も何人かは無事で、私たちに武器を向けている。
「くっ……」
私たちは、その場でにらみ合った。






