早熟なれど凡人
「あ~も~……うまくいかないったら……」
私は城の裏手の植え込みで、いつかのように寝転がった。
少し服と髪が汚れるけど気にしない。落ち込むときには、思う存分じたばたすべきなのだ。
フランたちに、獣人のことを指摘したけど、正直どこまでちゃんと伝わってるか不安だ。
今まで、運命を捻じ曲げるためにいろいろやってきたけど、今回が一番やばいかもしれない。
だって、相手はプロの殺し屋だよ?
女の子ひとりが相手にするにはハードすぎない?
18歳の心が11歳の体の中にあるおかげで、同世代よりちょっとだけ精神年齢は上かもしれない。でも、それだけだ。
鋭い洞察力があるわけでも、膨大な魔力があるわけでも、高い身体能力があるわけでもない。
頭は早熟、才能は平凡。
きっと、私は日本のことわざの通り、『二十歳過ぎればただの人』になると思う。
そんな自分が人の命、まして世界の運命を握ってるなんて、そんなの手にあまるどころの話じゃない。
『まあなんとかなりますよ、小夜子さんならきっと』
って、運命の女神ことメイねえちゃんに言われてその気になってたけど、やれることは限られている。
だからといって放り出してしまったら、その先に待っているのは破滅だ。
結局大切な人ごと全てが消えてしまうだけ。
「どうしたもんかなあ」
「にゃあ」
つぶやいた声に、合いの手があった。体を起こすと黒い子猫がちょこんと座っている。
「今日も会えたね」
私は体を起こして、子猫に向き合った。
実は、フランと喧嘩したあの日に出会ってから、子猫とは裏庭で時々遊ぶ仲になっていた。今では、私が裏庭にやってくると、向こうから声をかけてくるくらいだ。
つまり、私は子猫になつかれている!
すごくない? 実は私って、テイマーの才能あったりしない?
「にぃー」
期待にきらきら輝く金色の瞳が私を見上げる。
まあ、子猫の一番の目的は、私自身じゃないんだけどね……。
「はいはい、わかってるよー。お肉だよね」
私はドレスのポケットを探ると、中から携帯用のお肉を取り出した。子猫でも食べやすいよう、小さくちぎって置いてやる。水魔法で小皿にお水を注いであげると、子猫のランチ準備完了だ。
「にゃあ」
子猫は嬉しそうに鳴くと、すぐにお肉を食べ始めた。
「ふふ、かわいい」
小動物って不思議だ。ただこうやって生きて、食事をしているだけなのにめちゃくちゃかわいい。そして、見ているだけでこわばった心がほぐれていく。
「あなたには、いつも元気をもらってるね」
「にー」
「いっそのこと、うちの子にならない?」
このまま裏庭だけで会う友達、っていうのもいいけど、この世界の野生動物は放っておくとどんな目にあうかわからない。駆除されたり、誰かに連れて行かれたりする前に、ちゃんとうちの子にして、お城で飼ったほうが安全だ。
「うちの子になるとね、毎日おいしいごはんを食べさせてあげられるわよ。なんてったって、私はこの城のお嬢様だから。それに、とっておきのかわいいリボンもつけてあげる」
子猫の金色の瞳が私を見つめている。
まんざらでもないのかもしれない。
「名前は……クロちゃんとかどうかな? でも、女の子だからもっとかわいい名前のほうがいいかな?」
なでようと手をのばしたら、子猫は不意に体をひっこめた。
そのまま体を翻して去っていってしまう。
「あー残念! でも、諦めないからね」
猫ちゃんも、この世界も!






