白銀の鎧『ランス』(フランドール視点)
「……白銀の、鎧?」
ジェイドが呆然とつぶやいた。
身の丈十メートルを超す巨体、全身を覆う白銀。手には金に輝く長柄の槍を持っている。
あの姿は、見たことがある。女神の管制施設に収められたカタログに載せられていた。
「ランス家の象徴、『ランス』だ」
なぜヘルムートが籠城先にわざわざランス城を選んだのかがわかった。
最終兵器として、『ランス』を持ち出すためだったのだ。
『シュゼットぉ……さ、まああぁぁ!』
白銀の鎧は、甲高い声で雄たけびをあげた。
『シュぜットォ、さマは……どこだァァ!!!』
「不在に気付いたようだな」
「そのようです」
俺は騎士たちを振り返った。
彼らは困惑の表情で、じっと『ランス』を見上げている。
それもそうだろう。白銀の鎧といえば、ハーティア建国の象徴であり、正義の象徴である。狂った逆賊とはもっとも相いれない存在だ。
刃を向けていいのか、そう思う者も多いのだろう。
だが、あれに乗っているのは邪悪な存在だ。
ひゅっと『ランス』が金色の槍を振りかぶった。ぞっと悪寒が走る。
「全員退却だ! 逃げろ!」
その叫びが届いたかどうか。
確認する間もなく槍が叩きつけられ、軍勢が割れた。精強なはずの騎士たちが、まるでゴミくずのように宙を舞う。
いっせいに悲鳴が上がった。
「逃げろ! これは命令だ! とにかく散開して距離をとれ!」
言いながら俺自身も指揮所から駆け出す。
騎士たちにわかりやすいよう、指揮所は中央に据えていた。このままではいい的だ。
「退却だ!」
叫びながら走る俺に、白いマントを羽織った魔法使いが並走する。律儀な従者はこの先もつきあってくれるらしい。
「フランドール様、作戦はありますか?」
「ない! あんなものとまともに戦えるか!」
我ながら指揮官として最低な台詞だと思う。
だが、それ以外に言いようがない。人間が神の兵器に勝てるわけがないのだから。
走りながら、スマホをコールする。
「こちらフランドール! 誰でもいい、聞いてくれ。ランス城の地下から、白銀の鎧『ランス』が出現した! 周囲を破壊しながら暴れまわっている。至急、救援を……」
言葉の途中で、ひゅっと何かが風を切る音がした。
とっさに頭を抱えて転がる。
「ぐ……あっ!」
衝撃が体全体を襲った。
何かが直接当たったわけではない。すさまじい空気の衝撃だけで吹っ飛ばされたのだ。
顔をあげると、ついさっきまで走っていた地面が大きくえぐれていた。何かがとんできて炸裂したようだ。
ぶら、と視界を眼鏡が遮った。レンズがすっかり割れてしまっている。
振り返ると『ランス』がまだ武器を振り回していた。金色の槍は、ただ叩きつけるだけでなく、光る魔力の弾をばらまいているらしかった。
「フランドール様、お怪我は」
「大事ない」
ジェイドが声をかけてきた。
彼も余波をくらったのだろう。眼鏡がとんで、マントが泥だらけになっていた。
「行くぞ」
「どちらに?」
「グラストンとシュゼット姫のところだ」
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