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【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!  作者: タカば
悪役令嬢は婚約を破棄したい

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生者(シュゼット視点)

「えっ……」


 埃だらけの人影は、部屋に入ってくるなり盛大に咳き込んだ。大きな背中を丸めるようにして、何度も息を吐きだす。かけていた黒縁の眼鏡を外し、顔を覆って、またゴホッ、と咳をした。


「大丈夫……ですの?」

「す、すみません……まさか、隠し……ゲホッ……通路が、あそこまで、荒れてるとは……思わなくて」


 あまりの有様に、思わず声をかけてしまう。咳き込んでいた人物は袖で拭って顔をあげた。


「あ……」


 生きた、人間だった。

 生気に満ちた精悍な顔立ち。焦点のあった黒い瞳。

 狂ってない、呪われてもいない、まともな生者だ。

 私はポーチからハンカチを出して、彼に駆け寄る。


「これで、顔をぬぐってください」

「ありがとう、ございます」


 埃だらけの袖でいくら顔をぬぐっても、咳は止まらないだろう。彼は差し出されたハンカチを素直に受け取って顔をふいた。

 私は彼が出てきた空洞を見る。そこは城塞に時折見られる隠し通路のようだった。しかし、随分長い間放置されていたようで、奥は埃で汚れている。

 本棚が跳ねたのもきっと放置が原因だ。手入れしていなかったせいで、金具が歪んだか何かが挟まったか。どうにも開くことができず、強硬手段に出たようだ。

 城の表で戦闘が始まっていてよかった。強引に隠し通路の扉を開ける音がヘルムートの耳に届いていたら、今ごろ部屋に飛んできていただろうから。

 青年は大きく息を吐いてから、居住まいを正す。そして私に向かって膝をついた。


「初めまして。私は故ランス伯爵が第一子、グラストンと申します。この城からあなたを救出する任を帯びてまいりました」


 やはり彼は私を助けに来た者だったらしい。

 ……ん? ランス伯爵の第一子?


「ということは、あなたはヘルムートの……」

「血縁上の兄、ということになります」


 グラストンは気まずそうに眉を寄せる。

 驚いた。

 言われてみれば、埃と蜘蛛の巣がついた髪はアッシュブラウンだし、顔の造作もヘルムートと同系統と言えなくもない。だが、落ち着いて理性的にふるまう彼はヘルムートとは似ても似つかなかった。


「とはいえヘルムートが王国に反旗を翻した時点で我が家から除籍。以降ランス家とは無関係の者として扱っています」

「……そう」


 そうする他ないだろう。

 こんな不祥事を起こした者を身内に入れておくわけにいかない。


「除籍したとはいえ、私はヘルムートの兄。すぐに信用するのは難しいかもしれません。しかし、私と共に来ていただけませんか」


 ヘルムートは跪いたまま私を見上げた。


「私からもお願いします」


 ひっそりとさらに静かな声が続いた。見ると、いつの間にか真っ黒なローブを着た青年が、倒れた本棚のそばに立っていた。フードを取ったところは初めて見たが、真っ黒な三角の耳に金色の瞳を持つ彼は、フランドールの側近を勤めるフィーアの兄ツヴァイだろう。

 そして、グラストンの手にはリリィがかけていたのと同じ黒縁の眼鏡があり、耳にも同じような材質の黒い魔道具がつけられている。

 フランドールの腹心の部下を連れた、リリィしか使用許可の出せない装備を身に着けた、正気の生きた青年。

 これ以上信用に足る人物がいるだろうか。


「あなたを信じます。連れていってください」


 私はグラストンに歩み寄るとその肩に手を置いた。緊張していた青年の顔が、ほっと緩む。


「少々お待ちください。総大将のフランドールに報告します」


 グラストンは窓際に寄ると、眼鏡をかけなおした。ポケットの中から黒いガラス質の板を取り出すと、ずぼっと鉄格子の外へと腕を突き出す。


「グラストン様?」

「失礼、格子状の金属をはさむと通信がつながりにくくなるそうなので。……はい、フラン先輩。こちらグラストンです。シュゼット姫を確保しました。これから脱出します」


 何か情報を受け取っているのだろう。鉄格子から手を出した状態でグラストンがどこかと会話を続ける。

 必要な情報を交換すると、グラストンはまた腕をひっこめた。


「行きましょう」


 すっとこちらに手を差し出す。エスコートしてくれる、ということなのだろう。

 私はその手を取って歩き出そうとして、かくんと膝から力が抜けた。


「あれっ……?」


 床に倒れこむ前に、グラストンの大きな腕が受け止める。


「大丈夫ですか」

「あ、あれ? おかしいですわね。怪我もないし、歩けるはずなのに」

「こんなところに何日も閉じ込められていたのです。足が萎えてしまっても、おかしくありませんよ」

「うう……」


 はずかしい。

 こんなところで騎士の手を煩わせているわけにはいかないのに。


「少し抱えますよ」


 そう言うが早いか、グラストンはひょい、と私の体を左手一本で抱え上げた。


「下までお運びします。捕まっていてください」

「はい……」


 せめて、抱えやすいようにと私はグラストンの肩にしがみついた。


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