戦闘開始(シュゼット視点)
けたたましいラッパの音が突然聞こえてきた。進軍を促す太鼓や人の雄たけびがその後に続く。さらに、金属がぶつかり合う音も響いてくる。
「……始まりましたわね」
私は壁を背にしながら、横目でおそるおそる窓の外をうかがった。
城の一番奥にある城主の部屋からの視界は広くない。
景色だけなら何事も起こってないように見えた。
だけどただならない音はずっと続いている。
コッコッコッコ、とすぐそばの廊下を足音が近づいてきた。すぐにゴンゴン、と鍵のかかったドアがノックされた。
「どなた?」
「あなたの騎士です」
認定した覚えのない『私の騎士』は誇らしげにそう名乗る。
「ドア越しに失礼します。あなたを狙う不貞の輩が攻撃を始めました」
「……そう」
「しかしご安心ください、すぐに迎え撃ってまいりますので」
主君を守るために戦う。騎士としてこれほど心躍るものはないのだろう。戦いに赴くというのに、声は嬉しそうにはずんでいる。
「私はここで待機しています。どうぞあなたは目の前の敵に集中してください」
「かしこまりました!」
激励の言葉を受け取ったことで、ヘルムートの声がまた明るくなる。スキップでもしそうな勢いで、またコツコツと足音が遠ざかっていった。
「……ふう。これで、よし」
ああ言っておけば、ヘルムートの注意は敵へ向くだろう。
私は立ち上がるとクローゼットへと向かった。用意された中でも、比較的丈が短くて動きやすいシンプルなドレスに着替える。
この城を取り囲んでいた人々は、数日前に使い魔で私の存在を確認していた。その上で攻撃を仕掛けたからには、考えがあるはず。いつになるかわからないが、必ずどこかで接触を図るだろう。
深窓の姫君として育てられた自分に戦う術はない。しかし、それでも私には手もあれば足もある。救助者に従って走るくらいはできなければ。
あらかじめまとめておいた手荷物もポーチにいれて肩から下げる。ハンドバッグは持たない。極力手に何ももたないほうがいいのだと、リリィとクリスから教わった。
戦いの音は絶え間なく続いている。
接触があるのは、空からか。それとも廊下からか。
私が窓の外に目を向けた瞬間、部屋の奥でドカン! とすさまじい音が鳴った。
「ひゃっ!」
思わず身をすくめて振り返る。
部屋の側面、壁に作りつけられた本棚が揺れていた。ドゴ、ドゴン、と音がするたび壁側から室内に向かって本棚が跳ねる。衝撃で本が棚から放り出されて床に散らばった。
突然の異常事態に、何をどうしていいかわからず、私はポーチの紐を握りしめて立ちつくすしかない。
これは見ていていい事象なのだろうか。
今すぐ逃げたほうがいいのか。
でも、どこへ?
出入口は相変わらず施錠されている。この部屋に隠れ場所なんかない。
ドゴッ、とひときわ大きな音がして、ついに本棚が壁から外れた。
支えるもののなくなった本棚は、バタン! と大きな音をたてて倒れた。奥からもうもうと埃が煙のように吹き出してくる。
「……!」
本棚の奥は真っ暗な空洞になっていた。
奥から、ぬうっと埃と同じ灰色の塊が出てくる。
人影だ。
そう思った瞬間、
「ゲホッ! ゲボゲホゲホ、ゴホッ!!」
人影は大きく咳き込んでむせた。
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