ランス城の危機
私たちはいっせいに正面モニターを振り返った。ユキヒョウについて出ようとしていたヴァンとクリスも足を止める。
「点の色が、変わってる?」
地図に表示されている白銀の鎧のマークはすべて赤だった。しかし、いつの間にかランス城の地下に格納されている『ランス』のマークだけが青になっている。
「あれって何か意味あるの?」
ケヴィンにたずねられて、ディーがむっと鼻の頭に皺を寄せた。
「青は稼働中を示す色です。おかしいですね……起動の命令は出ていないはずなのに」
『ランス城のフランドール様から通信です』
ひょこ、と白猫が正面モニターに出現した。私たちは一瞬顔を見合わせる。
「応答するわ! 何があったの」
返事すると同時に切羽詰まった声が管制室に響いてきた。
『こちらフランドール! 誰でもいい、聞いてくれ。ランス城の地下から、白銀の鎧『ランス』が出現した! 周囲を破壊しながら暴れまわっている。至急、救援を……』
ブツン、と通信は途中で切れた。
ざあっと耳障りなノイズ音が響いてくる。
「フラン? フラン! どうしたの! 返事をして!!」
私の横で、ディーが首を振った。
「通信が途絶しました。おそらく、端末自体が壊されたかと」
ぴょこ、とモニター内のもちおがジャンプした。
『他の端末からの通信もありません。故障だけでなく何らかの妨害が発生しているものと思われます』
「なにが起きてるの……」
冷静なフランは、普段あんな風に叫んだりしない。ただごとではないことが、起きているのだ。
「ログを確認しました。現在白銀の鎧の操縦者の名前は『ヘルムート・ランス』です。何者かが搭乗許可を書き換えて乗っ取ったと思われます」
「……ユラの仕業ね」
私は額に手をあてた。
あいつには女神の管制施設に無理やり侵入した前科がある。おそらく今回も、地下深くに封印されていた『ランス』を発掘し、システムをハックして乗っ取ったのだろう。
「今すぐ助けなくちゃ」
白銀の鎧は破格の兵器だ。あんな強力なものが敵の手に渡ったら、どれだけ被害が出るかわからない。
「相手が白銀の鎧なら、白銀の鎧をぶつけるべきよね」
「私が出よう」
宰相閣下が前に出た。
「幸い、『女神の心臓』にはもう一機、『ミセリコルデ』が残されている。ミセリコルデ家直系の私が乗り込んでランス城に向かえば、東のクレイモア伯と西のフラン、両方を同時に救うことができる」
「待ってください!」
部屋を出て行こうとした宰相閣下を、ケヴィンが止めた。
「宰相閣下は、ここを離れてはいけません」
「何を言い出すんだ君は」
「そんなことをしたら、今度は王都ががら空きになります」
「……!」
宰相閣下がはっとした顔になった。
「偽国王を告発したことで、王宮は今大混乱です。その上、伝説と思われていた巨大空中母艦が都市の上に浮かんでいるのです。おそらく市民はパニックを起こしているでしょう」
ケヴィンは悲し気な顔でセシリアを見る。
「王族として立ったばかりのセシリアに、混乱をおさめるだけの力はありません。長年貴族たちをまとめてきた、宰相閣下がいなければ収拾がつかないでしょう。混乱は……邪神の化身が最も得意とする場です」
「私が息子を助けに行けば、今度は王都が火の海になる。そういうことだな」
「きっと、そういう罠なんです。東のクレイモアにサイクロプスが大挙して現れたのも作戦の一環なのでしょう」
「王都にはもうひとり、娘のマリィお姉さまがいるけど……治療者として搭乗は許可できないわ。セシリアが治療したといっても、大量出血で意識不明の重体だもの」
「だが、ランスをそのままにしておくことも、できんだろう」
宰相閣下は苦し気に首を振った。
じっと話を聞いていたディーが顔をあげた。
「……ランスには、ミセリコルデの末裔たるフランドール様がいらっしゃるのですよね?」
「そうだけど」
「であれば……」
私たちはディーの提案に注意深く耳を傾けた。
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