ユキヒョウ
すうっと空中を移動して、高く伸びた管制室と思われる部屋に近づく。
大きな鋼鉄のドアの前まできて、停止した。
ここから中に入れということらしい。
「先に行くわね」
私が前に立つと、ドアは勝手にすっと開いた。
中はやはり管制室だったらしい。大きな窓とモニター、そしてオペレーター用のモニターとテーブルがずらっと並んでいる。
指揮官用の席も部屋の後方に取り付けられていた。
「大丈夫そうよ、入ってきて」
私が声をかけると、ゴンドラにいたメンバーが管制室にやってきた。
「これはまた面妖な……軍の作戦室に似てはいるが」
SF的な風景にはなじみがないんだろう。宰相閣下をはじめ、全員が不思議そうに周囲を見ている。ケヴィンが肩をすくめた。
「リリィ、使いかたわかる?」
「全然。さすがにこんな専門的な機器は手に負えないわ」
小夜子は所詮、病院育ちの箱入り娘だ。ゲームやスマホ程度はわかっても、軍事施設の動かし方まではわからない。
「ようこそおいでくださいました」
柔らかな男性の声が響いた。
振り返ると、何か白い大きなものが部屋に入ってくる。それもひとつじゃない、全部で三つだ。
「ユキヒョウ……?」
白い何かには、ネコ科特有の丸い頭と三角の耳がついていた。そして、全身に散らばった黒い模様に長いしっぽ。図鑑や映像でしか見たことのない、孤高の猛獣ユキヒョウだ。
突然猛獣に遭遇したというのに、恐怖は感じなかった。ゆっくりと落ち着いた様子で歩いているし、なぜかそれぞれ、青、赤、緑のリボンを首にかけていたからだ。
サイズは大きいけど、飼い猫っぽい雰囲気だ。
ユキヒョウたちはセシリアの前まで来ると、ちょこんとそろってお座りした。
「はじめまして、私たちはこの空中母艦『乙女の心臓』の管理AIです。当代聖女セシリア、私たちはあなたを歓迎します。
「えーあい……、もちおのような存在ですか?」
先頭にいる青いリボンのユキヒョウがうなずいた。
「はい。管制施設のほうのAIには、かわいらしい姿と名前を与えてくれましたね。私どもは、彼の上位互換と捉えてくださればよろしいかと」
青リボンのユキヒョウは、仲間に視線をやる。
「赤いリボンの名は『アルタイル』、主に火器管制を担当しています。緑のリボンの名は『ベガ』、主にインフラ管理を担当しています。最後に青いリボンの私の名は『デネブ』、他二体を統率し、この母艦全体の管理をしています」
「夏の大三角かな?」
突然飛び出してきた中二病ネーミングセンスに、思わずぽろっとツッコミが出てしまった。いやだって、アルタイルにベガにデネブって。
ふ、とデネブがヒゲをそよがせて笑う。
「なるほど、あなたが今世の転生者ですか」
「えっ……なんでいきなりわかるの」
くつくつと、青リボンのユキヒョウは笑っている。AIのはずなのに、その表情は妙に人間くさい。
「仕様上、夜空の星々はどの世界でも同じですが、つけられた名前はそれぞれ違います。私どもの名前を聞いて夏の大三角を想起するのは、先代聖女と同じ世界を知る、転生者以外にないかと」
「先代って、同じ世界出身だったんだ」
神の超技術には、スマホとかドローンとか、前の世界で見た機械と同じものが多かった。なぜこんなに? と思ってたけど、前世の世界を共有していたというなら納得だ。
「それで? あなたがたはなぜ、この『乙女の心臓』の封印を解いたのですか?」
前世の記憶に引っ張られていた私は、デネブの声に我に返った。あれこれ前のことを考えてる場合じゃない、今すぐ助けないといけない人がいるのだ。
「実は緊急事態なのよ、デベブ……」
噛んだ。
慌ててしゃべるとろくな事がない。
デネブはふ、とまたヒゲをそよがせた。
「ラテン語由来の名前ですからね、発音しづらく感じるのは当然です。どうぞお気軽に『ディー』とお呼びください」
「あ、ありがとう」
私は息を整えて、デネブ改めディーに話しかけた。
「ディー、東の国境に巨大なサイクロプスの群れが出現したの。人間の騎士たちだけじゃ太刀打ちできないわ。白銀の鎧を復活させて、救援できないかしら」
ディーはすっとアイスブルーの瞳をセシリアに向けた。私の命令に従ってよいのか、という意思表示だろう。
セシリアはこくこくとうなずいた。
「転生者であるリリィ様には、私では手に負えない超技術の管理をおまかせしています。彼女の言葉は私の言葉として、従ってください」
「かしこまりました。リリアーナ・ハルバードを管理者のひとりとして登録します」
こく、とうなずいてまたディーがこちらを向いた。
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