東の異変
「東でモンスター?」
スマホで詳細を確認しようとして、私ははっとした。
謁見の間には、審議に出席していた貴族たちがまだ大勢残っている。こんなところでスマホを取り出して相談なんか始めていいんだろうか。
あせった私の視線を察知した宰相閣下が立ち上がる。
「緊急事態だ! 近衛を残して全員退出せよ! ただし、王族と勇士七家当主、またはその代理に相当するものは残ってよいものとする」
偽国王夫妻が失脚した王宮に宰相閣下に逆らう人間はいない。全員出ろ、言われて貴族たちはさっと指示に従った。
何人か騎士が残っているけど、彼らは信用のおける近衛たちなんだろう。
護衛は黒子と割り切って、私たちはスマホを改めて見た。
そこには東の国境付近の地図と、いくつかの写真が表示されている。
「一つ目の巨人……サイクロプスね」
モンスターと一緒に映りこんでいる背景の木々を見て、私は顔をしかめた。サイクロプスの体は、成長した針葉樹と同じくらい。最低でも五メートルはある巨体だ。それが何十体も群れとなって国境付近に集まっている。
「ギュスターヴ・ミセリコルデです。クレイモア伯、状況をお教えください」
スマホをスピーカー通話にして、宰相閣下が呼びかけた。すぐに、クレイモア伯の声が響いてくる。
「おお、貴殿か。そちらの首尾はどうだ」
「さきほど偽国王夫妻を排除し、セシリア女王陛下が即位したところです」
「それは重畳」
国の重臣ということで、セシリアの存在を知らされていたんだろう。ついさっきまで玉座にいたふたりが排除されたと聞いても、クレイモア伯の声に動揺はなかった。
「そちらの状況をお聞かせください。緊急事態だと伺っていますが」
「ああ、そのことなんだがな。この戦、負けるぞ」
「……は?」
宰相閣下が真顔になった。
「じいさん、あんた何を言い出すんだ!」
唐突な敗北宣言に、孫が思わず声をあげる。はっはっは、とクレイモア伯はこともなげに笑った。
「何をもなにも、あの人外の群れが相手では分が悪すぎる。儂にできるのは、少しでも長く前線を維持しつつ、後続の騎士たちに警鐘を鳴らすことくらいだ」
「そこをどうにかするのが、あんたの仕事じゃねえのかよ」
「できないものをできると言って、被害を拡大させるわけにもいかんのでな」
「だからって」
尚も食い下がろうとした婚約者の袖を、クリスが引っ張った。
「落ち着いてくれ、ヴァン。お爺様が無理だと言ったのなら、本当に無理なんだ」
「……わかってるけどさ」
クレイモア伯は、この国で随一の戦績を誇る騎士だ。国境の守護神が負けると判断したのなら、それはきっと正しいんだろう。
「宰相、援軍は?」
ヴァンが今度は宰相閣下を見た。しかし、彼もまた首を振る。
「無理だ。ランスに討伐軍を出したばかりで、人手がほとんど残っていない。人が集まったとしても、クレイモア領に送るまでに何日かかるか……」
「じゃあこのまま見てろっていうのかよ」
「そうは言わないが……」
「手がないわけじゃないわ」
私は二人の会話に無理やり割って入った。
「人外には人外よ。『乙女の心臓』と白銀の鎧を復活させればなんとかなるんじゃないかしら」
巨大なモンスターには巨大ロボを。伝説によると、白銀の鎧の高さは約十メートル。サイクロプス程度のモンスターなら、一機で蹴散らせてしまえるはずだ。
私の発言に、宰相閣下が目を見開く。
「そんなものは……いや、伝説が本当なんだったな」
「セシリアが継承者と認められた今ならおそらく可能です。一度賭けてみる価値はあると思います」
私はなりゆきで女王になった友達を振り返った。セシリアは青ざめた顔のまま、ぎこちなくうなずく。
乙女の心臓復活には継承以外にもうひとつ条件があった気がするけど、今は目をつぶっておく。緊急事態だ。とにかく、可能性のあるものは何でもあたってみなければ。
「や、やってみます。クレイモア伯を死なせるわけにいきませんから」
「じゃあもう一度水盤のところに行きましょう」
「はい!」
私たちは水盤の前に並んで立った。
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