正統王位継承者
「は?」
小娘に反論されるとは思ってなかったんだろう。偽国王がこちらをじろりと睨む。
「だって、ここに本物の王位継承者がいるんですから」
私は隣に立つ少女を示す。セシリアは背筋をぴんと立てて一歩前に出た。国王はますます不機嫌そうな顔になる。
「誰だそいつは」
「ラインヘルト子爵カイルの娘、セシリアです」
「子爵家の娘ごときがどうしたと……」
「でもそれは仮の姿」
私は、にやっとふてぶてしく笑ってやる。
「彼女の父カイルは、もともと王都の孤児院で育ちました。その才能が前ラインヘルト子爵の目に止まり、養子として迎えられています」
王都の孤児院、と聞いて偽国王の顔色が変わった。
セシリアが必死に叫ぶ。
「私の父は、かつて王宮に勤めていた乳母が隠した、本物の王にございます!」
告白は集まった貴族たちを沸き立たせた。
「国王が子爵に? そんなバカな」
「だが、あの豊かなストロベリーブロンドに、緑の瞳。建国神話に語られる聖女そのものではないか」
「言われてみれば……」
ガン! と派手な音が響いて、全員息を飲み込んだ。どうやら偽国王が、持っていた王笏で床を叩いたらしい。
「本物が生きていただと? そんなことはありえない! 王位継承のあと、王都じゅうの孤児院を調査したが、該当する子供は見つからなかった!」
「そのことなんですが」
こつん、と足音を立てて宰相閣下が移動した。今度はセシリアを守るようにして立つ。
「本物の王が預けられた孤児院は存在していました。二十年ほど前にその記録が消されていただけで」
「消された……?」
「孤児院の土地を手に入れたいと考えた不届き者が、記録を改ざんしていたのですよ。取りつぶされ、酒場に変えられてしまいました。セシリア様の証言をもとに故ラインヘルト子爵の養子縁組の記録をたどったことで、やっと事情が明らかになったのです」
「改ざん、だと」
宰相閣下の説明に、国王は愕然と立ち尽くす。
「ちなみに、記録改ざんを行ったのは当時中堅騎士だったマクガイア。そして、利益の一部は王妃殿下に流れています」
「……なに?」
馬鹿にしていた妻に足元をすくわれたのだと知って、偽国王が目をむく。
「あなたは、出自を偽るべきでも、妻を放置するべきでもなかったのですよ」
はあ、と宰相閣下が大仰にため息をついた。
「私はもう、愚かな偽の王に仕えることはできません」
宰相閣下はセシリアに向き直った。そして、うやうやしく膝をつく。
「私、ギュスターヴ・ミセリコルデは、真の王たるセシリア様に忠誠を誓います」
「……許します」
セシリアが応えると、宰相閣下はすう、と立ち上がった。セシリアの手を取り、そのまま継承の水盤へとエスコートする。さらに懐からナイフを取り出して捧げた。といっても刃渡りはごくごく小さい。文官が紙を切ったりするのに使う文房具サイズのものだ。
「どうぞ、継承の儀式を行ってください」
「わかりました」
セシリアはナイフを受け取ると、水盤の上に手を差し出して傷をつけた。赤い血が水面に落とされる。
「私の名前はセシリア。国王カーティスの娘であり、王位継承者です」
セシリアの宣言が終わると同時に、水盤が光を放った。きらきらと光り輝く金の水滴がはじけだす。
『遺伝子を照合。カーティスの娘であり、継承者であることを認めます』
わあっと貴族たちから歓声があがった。
セシリアが間違いなく、継承者であることが証明されたのだ。
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