偽国王
「な……」
夫に真実を告げられた王妃は、蒼白な顔でぶるぶると震えている。
「あなた……嘘でしょう? だって、王位継承の時に血を捧げて……間違いなく、前国王の子だと……認められていたじゃない」
国王はぺろりと舌を出した。
「あれはイカサマだ。隠し部屋に保存されていた本物の血液を水盤に放り込んで、誤魔化しただけのこと」
「は……」
王妃が喘ぐようにして絶句する。
「……では、あなたは自分が偽国王だと、認めるのですね」
宰相閣下が悲し気な顔で問いかけた。王はそれを鼻で笑う。
「感づいていたくせに、しらじらしい」
「私は……!」
「ギュスターヴ、聡いお前のことだ。こうなった真相もすべて探り当てているのではないか?」
「……」
宰相閣下はぎゅっと唇を引き結ぶ。しかし国王は宰相の逃げを許さない。
「教えてやれ」
「……よろしいのですか? 語れば、あなたは完全に失脚するのですよ」
「水盤に否定されておいて、もういまさらだろう。何があったのか知らなければ、誰も納得せん。特に、妻と息子は」
「あなたが、良いと言うのならば……」
国王に改めて指示を出され、宰相閣下は重いため息を漏らした。じっと王子を見つめたあと、改めて口を開く。
「私も、つい最近知ったことです。ことの発端は、国王……カーティス様生誕にまでさかのぼります。当時、王宮には生まれたばかりのカーティス様の命を狙う暗殺者が、何人も送り込まれていました。カーティス様を守るために、何人もの騎士や使用人が死んだと聞いています」
「暗殺……?」
王妃が怪訝そうに首をかしげる。無理もない、彼女が嫁いでくる二十年以上前の出来事だ。
「そんな中、乳母のひとりが市井からよく似た赤ん坊を連れてきて、本物とすり替えました。カーティス様を守るための、影武者としたようです」
「は、実に迷惑な話だ」
国王の感想には反応せず、宰相閣下は淡々と話を続ける。
「……乳母は、情勢が落ち着き次第、元に戻すつもりだったようです。しかし、不幸にも彼女は秘密を抱えたまま暗殺者に殺されてしまいました」
「それで、今の今までずっと、入れ替わったままだったというの?」
王妃の疑問に、宰相閣下がうなずいた。はは、と国王が笑う。
「一応、詳細を記した手紙と本物の存在を示す血液サンプルを残していたんだがなあ。隠した場所が悪かったな。よりにもよって、偽物の私に見つけられてしまうとは。馬鹿げた話もあったものだ」
笑う国王と対照的に、宰相閣下はずっと苦虫をかみつぶしたような顔をしている。国の政治を預かる者として、この悲劇を笑うことはできないんだろう。
「あなたはわざと、水盤に自分以外の者の血液を捧げた。己に王たる資格がないと知っていて、私たちを欺いたのですね」
「他にやりようもあるまい? 打ち明けたところで、生真面目なお前のことだ。事実を公表して本物を探そうとしか言わんかっただろう」
「それが当たり前の提案です」
はは、とまた国王が笑う。
「無理だな。私は王として育てられた、それ以外の生き方などできんし認められんよ」
無関係の孤児であったにも関わらず、王の席に座らされていた男が笑う。不意に、きゅっと誰かが私の袖を引っ張った。振り返ると、王たちを見つめながら、セシリアがかたかたと震えていた。大きな碧の瞳は涙で潤んでいる。
「これが、王族……?」
「違うわ」
私は即座に否定した。
「運命を歪められた、王族のような何かよ。あの三人は誰一人として、ハーティア王族の血を引いていないんだから」
見習うべきものはない、と言いながらそっとセシリアの手を握る。
次期女王として偽王族の末路を見届けたほうがいい、と思って連れてきたけど、こんな修羅場は予想してなかった。
繊細なセシリアに見せるには、グロテスクすぎる。
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