偽物は誰か
「誰か、オリヴァーをさがらせて!」
王妃が近衛騎士たちを振り返って声をあげた。
「かわいそうに、予想外のことが起きて混乱してるのね。一度部屋に帰って落ち着きましょう?」
彼女は必死に訴えるけれど、誰もその言葉に従おうとはしなかった。
みんな、ことの真実を知りたいと思っていたからだ。
「俺の言葉が信じられないというなら、証明しましょう。幸い、この国には血統を確認できる祭具がある」
オリヴァー王子は父である国王を振り返った。父親は静かに息子を見返す。
「陛下!」
たまらず、声をあげたのは宰相閣下だった。その顔は青ざめてこわばっている。
宰相閣下は息子のフラン同様、冷徹なようでいて情の深い人だ。王家の退陣を計画してはいても、できるだけ彼らが穏便にその座を退けるプランを練っていたはずだ。
しかし配慮は彼の目の前で粉々に砕け散っていく。
「よかろう。継承の水盤の使用を許可する。祭具をここへ」
淡々と国王が指示を出した。息子の血統の正当性が否定されようとしているのに、表情一つ変えない。王子の考えもわからなかったけど、それ以上に国王が何を考えているのか、わからなかった。
ごとん、と突然頭上から重い音がした。
見上げると天井に一筋、定規で引いたようなまっすぐの切れ目が入っていた。それは見るうちにどんどんと広がり、ぽっかりと天井に四角い穴があく。そこから今度は、大きなゴンドラがするすると降りてきた。ゴンドラの中央には、直径一メートルはあろうかという巨大な水盤が置かれていた。
ゴンドラごと降りて来た水盤は、玉座の前に着地した。
突然上から降りて来た水盤にはなみなみと水が注がれていた。水は今にもあふれてしまいそうなのに、あふれない。間違いない、女神が作り出した超アイテムだ。
オリヴァー王子はこつこつと水盤に近づいていく。
「私の名前はオリヴァー・ハーティア。国王の息子であり、王位を継承する者である」
宣言して、王子は懐からナイフを取り出した。己の左手にあてて軽く傷を作る。
ぽたりと血が一滴、水盤の上にこぼれた。
その瞬間、すうっと水盤全体が真っ赤に染まる。
『エラー。ハーティア一族の遺伝子が確認できません。オリヴァーは継承者でないと判断します』
無機質な女性の声が、淡々と分析結果を告げる。
今度こそ、謁見の間が大混乱に陥った。
「どういうことだ!?」
「オリヴァー王子に王家の血が受け継がれてないなど!」
「まさか……!」
一瞬の動揺の後、今度はいっせいに視線が王妃に集中した。
国王は継承の際に一度、血統の正当性を証明している。そこに、別の遺伝子が入り込むとしたら、まず疑われるのは妻である。
「違うわ! 何かの間違いよ!」
王妃は金切り声で叫んで首を振る。
「オリヴァーは国王の子よ! 王家の血を引いてないなんて、ありえない! だいたい王族でもなければ、あんな男と……!」
動揺にこぼれ出た言葉の意味に気づき、王妃は口元に手を当てる。
追い詰められていてもさすがに、王妃が夫を「あんな男」呼ばわりするするのはまずい。
「だったら、どうして水盤は王子を認めないんだ!」
「わからないわよ!」
「答えは簡単なことだ」
すっ、と国王が玉座から立ち上がった。本来その場から動くはずのない君主が、こつこつと玉座の階段を降りてくる。水盤の渕に立つ息子に並ぶと、同じようにして左手から血を捧げた。
「私は、現ハーティア国王カーティスである」
すうっとまた水盤の色が変わる。真っ赤な否定の色に。
『エラー。ハーティア一族の遺伝子が確認できません。ただいま血を提供した人物はカーティスではないと判断します』
しん、と謁見の間が静まり返った。
あまりのことに、みんなキャパオーバーを起こしたらしい。
国王はにい、と口元を吊り上げた。
「偽物は、私だ」
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