王子の知る真実
「王子、それはどういう意味ですか」
私は思わず問いかけてしまった。だって彼の意図が全然わからない。
「言ったままだよ。だが、君に責任はない。俺が君にふさわしくないから、婚約を破棄するんだ。……君を巻き込みたくない」
悲し気に苦笑されて、私は言葉を飲み込んだ。
しかし、一方で黙っていられなくなった者もいる。王妃だ。彼女は椅子から立ち上がり、王子を叱りつける。
「オリヴァー、何を考えてるの。ハルバード侯爵令嬢との婚姻は、将来あなたが王となる時に必要な後ろ盾に……」
「ならないでしょう。侯爵はもともと、彼女を別の貴族と結婚させるつもりだった」
母親の建前を息子は切って捨てる。
「侯爵家の縁談に横やりを入れたのは王家だ。恨みを買いこそすれ、即位の後ろ盾にはならない。それは、婚約を推し進めたお母様が一番よくわかってるんじゃないですか?」
「そんな、ことは」
息子がそこまで思惑を読み切っているとは思ってなかったんだろう。王妃は立ったまま、身じろぎした。
「そもそも、俺は王位につくことができない。後ろ盾も何も無意味だ」
「だからさっきから何を言ってるの、オリヴァー。あなたは国王陛下の唯一の子なのだから、次代の王となるのは、当然の話でしょう」
オリヴァーは首を振る。その姿を見て、私は拳を握りしめた。
じっとりと嫌な汗が浮いてくる。
さっきからずっと違和感があった。王子は完全に継承を諦めている。それも自分に資格がないからと。
もしかして、彼は知っているのだろうか。
自分自身の秘密を。
「俺は王家の血を引いてない」
静かな宣言に、謁見の間に集まった貴族たちがざわっと声をあげた。以前から秘密を共有していた私たち宰相派の貴族だけが、表情を固くして押し黙る。
王妃の金切り声が響いた。
「ありえない! 私が産んだのは国王の子よ!」
「……なぜそうなったのかは、俺にもわかりません。でも、俺が王家に連なる存在でないことは確かです」
「理由もわからずに、どうして断言できるの!」
「……そう、宣告されたからですね」
王子は謎の主張を繰り返す。彼は悲し気に目を伏せたあと、また私に目を向けた。
「君なら『図書館』と言えば伝わるかな? 俺はあそこで真実に触れたんだ」
「あ……!」
私は思わず声をもらしてしまった。すぐ近くでなりゆきを見守っていたヴァンとケヴィンも顔色を変える。
王立学園の図書館の隠し部屋には、空中母艦『乙女の心臓』を支援する管制施設が眠っていた。
王都が地震に襲われたあの日、偶然隠し部屋に入り込んでいた王子は、そのまま中に閉じ込められてしまった。私たちが救出した時、オリヴァーは『中では何も見なかった』と言っていたけれど、実は施設の扉に触れていたのだろう。そこで遺伝情報をチェックされ、王族の血縁ではないと告げられてしまったのだ。
当時はとにかく王子たちに施設の詳細を隠すことにばかり気を取られていて、彼の言葉を深くとらえていなかった。少し考えればわかることだったのに。
思い返せば、オリヴァーの行動が変わったのはあの日からだ。避難民の対処に失敗したことが原因だと思っていたけど、さらにもうひとつ、理由があったのだ。
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