動かぬ証拠
じっとスクリーンを見ていた国王が顔をあげる。
「続きはないのか?」
「申し訳ありません。この先は、非公開とさせてください」
私が顔を伏せると、かばうように宰相閣下が前に出た。
「ここまでの映像で証拠は十分です。確認のために一度拝見しましたが……後は、リリアーナ嬢がローゼリアに襲われる暴力的な場面しか記録されていません。ご令嬢の名誉のために、公開は控えさせていただきます」
「それもそうだな」
宰相の説明で納得したらしい。国王はふっとスクリーンから視線を外した。
あっさり引き下がってくれてよかった。この後はローゼリアと私が死に物狂いで戦ってるだけだから、ビジュアルがほぼ実写ホラーなんだよね。しかも、最後には私を助けに入ったフランの姿が映っている。
実質的な救出者が王子じゃないとバレるのもまずいし、私を助け起こしてほっと甘い笑顔で見つめてくるフランの姿が公開されるのもまずい。
宰相閣下は、改めて王妃に向き直った。
「王妃……あなたは本来処刑されるべき逆賊の娘をかばい、王宮に引き入れ、あまつさえその復讐を手助けした。あなたも罪人として裁かれるべきだ」
「嘘よ!」
王妃は首を振った。まさかこんな証拠が出てくると思わなかったんだろう。理性の仮面は剥がれ落ち、顔は青ざめてこわばっている。
「こ、こんなの、ありえないわ。記録を残す魔道具なんて聞いたことがない! あ……あれよ、私を陥れるために、都合よく作り上げたものなんだわ! 私は絶対に、罪人をかばったりなんか、してない!」
証拠動画の捏造は現代日本でもありうることだけど、そんなことまでは教えてやらない。あくまで、無修正の記録だと押し通させてもらう。
「大変な侮辱だわ! 宰相であっても許さない! 私はこの国の王妃なのよ! 私が罪を犯すわけがないじゃない」
「……お母様」
静かな声が、そっと王妃を制した。
「もう、やめにしませんか?」
「オリヴァー……?」
すっとオリヴァー王子が椅子から立ち上がる。そして、国王陛下を間にはさみながら、母親を見つめた。
「動かぬ証拠があるのです。罪は罪として、受け入れて償いましょう」
「そんなことできるわけないじゃない! だいたい、状況をわかってるの? 私が罪人となれば、あなたも罪人の子として罰を受けるのよ。そんなことをしたら、あなたは王位を受け継ぐことが……」
「どうでもいいですよ、そんなこと」
「……は?」
王妃がぽかんとした顔になった。
集まった貴族たちも、呆然と王子を見る。私もそのうちのひとりだ。
「俺に王位を継ぐ資格はない」
「……な、何を言ってるの?」
王妃がおろおろと困惑顔になった。王子が何を言い出したのか、本気でわからないみたいだ。
王子に継承権がないのは事実だ。
しかしそれは、ゲーム知識を共有している私達宰相派中心メンバーだけしか知らないこと。だから、王子がなぜそんなことを言い出したのか、わからない。
「俺はここに宣言する」
こつ、こつ、とさっきまで玉座の隣の椅子に座っていたオリヴァー王子が歩を進める。為政者、王族として数段高い位置から、臣下と同じ目線まで階段を降りてきた。
周囲をぐるりと見回して、それからじっと私を見つめた。
なんなの、その視線の意図は。
確かに今の状況を作ったのは私だけど、それと王子様は関係ない。彼は完全な部外者のはずだ。
なぜここで彼が口をはさんできたのか、その理由がさっぱりわからなかった。
しかし、彼も伊達や酔狂で行動したわけじゃないんだろう。
その表情は真剣そのものだ。
彼が何を言い出すつもりなのか。いまだ意図はくみ取れない。
玉座に座る王様も、その隣に侍る王妃様も、そして明晰な頭脳を持つ宰相閣下も、私と同じ気持ちなんだろう。誰も何も言えずに、ただただ王子を見守っている。
「ハルバード侯爵令嬢リリアーナ。君との婚約を破棄する!」
まさか、王子様に婚約破棄を言い渡されるなんて。
こんなの、予想してなかった!!
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