記録映像
最初に映し出されたのは、暗い通路。そして、ぐったりと意識のない女性を抱える銀髪の少女の姿だった。
『タニアは私が連れていくから、明かりをお願いしていいか?』
クリスがカメラを振り返る。続いて私の声が響いた。
『私も支えるわよ』
声だけで、姿が映らないのは私が撮影者だからだ。タニアを抱えながらクリスは首を振る。
『いや、この道幅で三人固まって歩くほうが危険だ。私の体力なら、左手一本でも十分タニアを支えられる。リリィは何かあった時のために、明かりだけ持っていてくれ』
『わかったわ』
クリスが前を向いて歩き始める。カメラもそれを追うように移動し始めた。一定距離をとって、こつ、こつ、と少女たちの足音が続く。ふと、カメラが止まった。
『クリス、止まって! ここも罠よ!』
私の叫び声が響いた瞬間、暗闇の中から何かが飛び出した。
『死ねえ!』
『クリス!』
何かは、まっすぐクリスに襲い掛かっていった。バシン!と音がしてクリスが片腕一本で襲撃者をあしらう。しかし、すぐにがくりとその場に膝をついた。
『かすり傷だ! ……ぐっ?!』
『飲んで!』
コン、と音がして何か小さなものが視界をかすめる。それを受け取ったクリスが、躊躇なく中身を飲み干す。そして、視線はクリスからゆっくりと襲撃者へと移動した。
髪を振り乱し、ナイフを握りしめたローゼリアの姿を正面からとらえる。
『即効性の毒も、使えるのね』
『コレには、呪いをかけた特殊な毒が塗ってあるの。何を飲ませたか知らないけど、すぐに死ぬわよ』
『ふうん、その程度かあ』
目をぎらつかせる暗殺者と、気位の高い令嬢の挑発が響く。ざわ、と別の意味で貴族たちが動揺した。
令嬢らしからぬ口の悪さは見逃してほしい。
普段はこんな悪態ついてないから。暗殺者を揺さぶろうと、わざと攻撃的な言動してるだけだから。普通のご令嬢はそもそも暗殺者を挑発しようなんて考えない、とかそういうつっこみもしないでください。とにかく必死だっただけなので!
『どこまでも癪にさわる……! リリアーナ・ハルバード! お前だけは許さない!』
『接待に失敗して、ご主人様に叱られた? そこまで恨みを買うとは思わなかったんだけど』
『覚えがない? はっ……お嬢様は気楽なものね!』
『だって、そういう身分だしぃ?』
私の声はさらに暗殺者を煽る。
『侵入者がないはずの離宮で、どうしてタニアが倒れてたのか、やっとわかったわ。あなた、抜け道を通って入り込んでたのね。でも、どうやってここを知ったの? コレは大事な王家の秘密よ』
『私に秘密を教えてくれたのは、父よ』
『シュヴァイン……フルトだったっけ? そんな人、近衛にいたかしら』
ローゼリアは首を振った。
『それは、記録上の父よ。本当の父の名はヴォルフガング・マクガイア。お前たち宰相派に殺された、騎士団長だ!』
おお……とうめき声のようなどよめきが起きた。ローゼリアがマクガイアの娘だってことは、既知の事実だけど、こんな風に宣言する姿は見てなかったから。
スクリーンでは私の声に問われるまま、ローゼリアがぺらぺらと事件の裏事情を語っている。私を殺して口封じできる、と確信があったからこそのネタばらしだけど、こうやって見ると少し間抜けだ。
最後に、私の声はこの審議でずっと争点になっていた疑問を口にした。
『それでも、やっぱり疑問は残るわ。マクガイアの交友関係は、徹底的に調べられたはずよ。真実の愛で結ばれるほど仲がいいなら、見逃されるはずないんだけど』
謁見の間に集まった者のほとんどが持っていた疑問を、私の声が代弁する。にい、とローゼリアは口をゆがませた。
『家族を亡くした私を哀れに思い、父たちの関係を示す証拠を、火にくべてくださった方がいたのよ』
『……それが王妃なのね』
『王妃様は、私の命を救ってくださったばかりか……復讐の機会まで与えてくださった! 私は王妃様のためにも、お前たち宰相派を殺さなくてはならない』
ローゼリアは自分をかばった黒幕の名前を言いきった。それどころか、自分が復讐しようとしていることを王妃が知っていた、とまで証言してしまった。
記録映像の中で私とローゼリアの舌戦が続く一方で、謁見の間に集まった人々は押し黙ってしまった。
『解毒なんか、できないくらいに切り刻んでやる!』
ローゼリアの金切り声が響いて、画面が揺れる。そこで動画はぷつんと切れた。
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