スマートグラス
王妃が怪訝そうな顔になった。他の出席者も同様だ。私はスマートグラスの弦にそっと手を添えた。
「この魔法の眼鏡には、音や景色を記録する機能があるのです。今投影している王城の景色も、さきほど私が眼鏡を使って撮影したものです」
「眼鏡が……記録?」
ざわっ、と貴族たちがどよめく。無表情を装いながらも、国王夫妻も目を見開いた。
その気持ちはわかる。眼鏡が記録って、普通はつながらないよね。そもそも、スマートグラスは拡張現実デバイス。視界にアプリウィンドウなんかの、デジタルデータを重ねて表示する、モニターとして作られたものだ。
でも、眼鏡の機能はそれだけじゃない。声や手の動きから命令を受け付けるために、マイクとカメラも内臓しているのだ。
少し設定を変えれば眼鏡のカメラで記録していた映像を取り出して、表示することができる。
「さきほどの王妃様と宰相閣下のご様子も、表示できますよ」
私は軽く指を振ってもちおに命令を出した。あらかじめ、撮影した映像を使うと伝えていたおかげだろう。優秀なAIは、私が眼鏡を通して見ていた彼らの姿を、十秒ほどの動画としてスクリーンに投影する。
『彼女を司法の手から隠し、侍女として王宮に迎えたのは、誰なんでしょうね?』
『しらじらしい。私が怪しいとはっきり言えばいいでしょう』
映像と一緒にふたりが言い争う音声も謁見の間に響いた。
実はプロジェクターのそばにスピーカーも置いてあったりする。とはいえこちらの説明は省かせてもらっている。映像が表示されるだけでも驚きなのに、そこに音声が、スピーカーが、と説明されても呑み込みきれないだろう。
「この記録機能が、非常に優秀であることは、皆さまご理解いただけたと思います。さて……事件当日も私はこの眼鏡をかけていました」
私は王妃に向かってにっこり笑いかけた。
「私は眼鏡を使い、事件発生時の様子をすべて記録していたのです」
王妃はぎっと目を吊り上げる。
「だったらどうして、最初からその映像とやらを持ち出さなかったの。最初から明かせば話は早かったんじゃないの」
「技術を明かせなかったからです」
私は軽く肩をすくめた。
「すでに映像を見た皆さまはおわかりになると思いますが、眼鏡もプロジェクターも、今の世には優秀すぎる魔道具です。技術を秘匿するため、映像記録は証拠として提出していませんでした。犯人は現行犯で拘束されていて、通常の証拠だけで罪に問える状況でしたしね。でも、他の証拠は失われてしまった」
私は言葉を切ってプロジェクターを見つめる。
「国政の安定と技術の保護を天秤にかけ、情報公開に踏み切ったのです」
嘘である。
事件現場が地下であり、当時は通信できなかったこともあって、眼鏡の存在なんてすっかり頭から抜け落ちていた。新たな証拠がないか探している時に、偶然ジェスチャーコマンドのログの存在に思い至ったのだ。
スマートグラスは衛星との通信はできなくても、ポケットの中のスマホとはずっと繋がっていて、コマンドを受け付けるために、映像を記録し続けていた。
「ご覧ください。事件の克明な記録映像です」
私の言葉と同時に、スクリーンに映像が流れ始めた。
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